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#015.巨人の腕は届かない 前編

「……まーたやってくれたな」

「偶然攻めろと言われたところがそうだっただけだ」


 情報連合首都のとある一室。執務室に座るシフォンの姿は板についている、その一言に尽きる。手には今回俺たちの報告書、もう片方の手は頭を抱えていた。


「新人2名、少しはやれる奴らだが、そいつらを連れて2個小隊と敵のパワードスーツを全破壊。おまけに作戦概要は”適当”と」

「なるべく手を出さないようにしてただけだ。まあ見えないとこから魔法撃ちまくって魔導士たちが混乱しまくったとかは俺と新田の仕業だけど」

「はぁ……これで聞くところによると攻撃系の魔法はほぼ未収得、適性もアーチャーのBが最高で無属性くらいしかまともに扱えない奴なのかと疑いたくなるな」


 おう……これは結構な罵りようで。悪いが男から言われてもご褒美にはならない。業界は美人女性から色々言われたいやつで溢れてっから男は王太子に罵られてもなんも感じんぞ。


「なんだ、そういう趣味なのか?」

「勘違いすんな! 俺はそういう感じの変態じゃねぇ!」

「はっはっは」


 畜生。こいつといると妙にペースを乱されるんだよなぁ。正直上官としてはかなり頼れるし部下思いのいい奴だとは思うんだがなぁ。これさえなければ、ってところが大きすぎる。


 そういえばこの後はあのマッドサイエンティストことデジタルのとこに改良した魔法銃受け取りに行く約束してたんだったな。ついでに今回みたいな怪しい液体渡さないように……いや、むしろ貰ってくるか。重要な場面で活きる可能性は捨てきれないからな。


「と・に・か・く! あんま目立つな! このままだとアレにも影響が出かねん」

「そう言ってもなぁ……敵さん雑魚ばっかりだからなぁ」

「なるほど。そこまで言うんだったらこっちの厄介ごとを片付けてもらうとしようか」


 そう言って、横にいるセレッサに目を向けて書類を確認すると俺に渡してくる。相変わらず一切の無駄のない連係プレー。何年も一緒に行動していればそのくらい容易いのだろうけど……俺のとこはパワーに最近自信がついたらしい騎士と魔法ぶっ放すことしか能がなさげな魔導士しかいねぇからな。

 俺も秘書の一人や二人欲しいもんだねぇ。


「今回、お前らには聖教戦線の西側に行ってもらう。実は最南端方面で最近3個小隊が度々攻め込んできている。、しかもパワードスーツも行動を共にしているらしい」

「そうか……第2大隊は基本的に東側、こっちのパワードスーツも東側。で、西と東を隔てるように川がある。最近占領したところらへんにはパワードスーツが超えれる川幅のとこも橋もない」

「そういうことだ。直近だと2つ最前線のベースゾーンが落とされ、1個小隊がロスト。それ以外でも毎回あと一発受けたらロストくらいの致命傷を負って帰ってくるのがほとんどだ」


 なるほど……確かにこれを危惧視するのは当たり前か。せっかく前線を押し上げても今度は西側を占領されてしまうし、ここでは兵は有限。一人の欠けが大きいから無駄に戦力を回して返り討ちにあうくらいならエース級のをぽいっと放り出して確実にやっつけてもらった方がマシというわけか。


「りょーかい。やってくるけど、文句言うなよ?」

「言わんよ。むしろ第3中隊の厄介ごとを片付けてくれて感謝したいくらいだ。なんなら王国の勲章を打診してもいいんだぞ?」

「はっはっは、そりゃお断りだ」


 少し皮肉気味に言うシフォンに背を向けて、部屋を出る。今回は実質中隊規模か。3個小隊の雑魚をいかに早く片付けるか、役割分担させることが大事そうだな。

……とりあえず魔改造をされてないことを祈りながらマジックシューターを受け取りに行くことにしよう。


  〇 〇 〇


 それからわずか30分後。西側の拠点に転移魔法陣で移動した俺たちはとあるポイントに移動していた。最近落とされたのは最西端のベースゾーンとその隣。奴らは奥に、そして横に広く前線を作りたいはずだから、次に来るとすれば前回落とされたところからちょっと行ったところにあるベースゾーンだ。ここで張っておけば少なくとも近くを通るだろう。


「それで隊長! 今回こそは作戦はございますよね!」

「はぁ?」

「隊長は策士と前に所属していた部隊でも聞きました! なので今回こそ何か策を披露していただけるのかと!」

「……策士ねぇ。どう思われてるかは知らんが、今回もそんなもんはないない。お気楽一人一人できることやりましょうってだけだ」


 この前までは魔力が付開けなくて困ってたからいろいろ策とかは考えてたけどなぁ……今は全部使えるし。赤坂と新田もいるから冒険者時代みたいに適当にお互いの行動からフィーリングでやるってやり方いいっしょ。いちいち考えるのめんどいっしょ。めんどいから経営する店も結局クマキチさんに丸投げしたっしょ。


「そういえばクマキチさんに丸投げしたまんまでしたね、あの店」

「この前手紙が送られてきたが、元気にやってるらしいぞ。店員足りないから追加で雇ったとかも言ってるし。その分売り上げが伸びてるし、問題も起こってない」


 2年くらい俺たちが引きこもっている間に熊の巣を大きくしたほどの経営者だ。その実力をしっかり発揮できているようで社長は鼻が高いよ、うんうん。え、気持ち悪いって? やかましい。

身内でしかわからない話だからアスタロトとレイはわけがわからないという顔をしてただ付いてくるだけだった。後々新田が教えると、二人とも少し驚いていたらしい。


 それから約10分後。目的のベースゾーンに着いた俺たちは守備隊と一言二言かわしてから中に入って近くを通るのを待つ。俺はマジックシューターの確認をしながら地形図でこのあたりの地形を見て、赤坂とアスタロトはシンクロするように獲物の手入れを始めてしまう。新田に至っては「昨日夜遅かったから」という理由で俺の横で目を閉じて動かなくなりやがった。

 ……そんないかにも不真面目という雰囲気に耐えられなかったのだろうか。端にいたレイが俺の目の前までやってきて話しかけてきた。


「隊長、もう一度確認します。今回何かの作戦はないのですね」

「ああ。相手はでかぶつを自慢したがってるやつらだからな。パワードスーツレベルが動いてんなら適当に待っとけばすぐ行ける」

「……はぁ。私はここに来たのは何か自分の成長につながるかと思ったからなのですが……意味がなさそうですね」


 そう勝手に言われてもなぁ。俺は他の隊から「なんか活躍してやがるぜ」って言われて押し付けられただけなんだよなぁ。とりあえず俺の隊でロストする奴を少なくしたいからそれあんりに教育はするつもりだがそんな手の内をすべてさらけ出すまでの義務はない。


「わかりました……隊長、今回は私、一つ作戦を練ってまいりました。実行してもよろしいですか」

「……わかった、やってみろ。それでロストになっても知らんぞ。忠告するなら、相手は3個小隊とパワードスーツってことを忘れるな」

「わかってます。それでも隠されるようなら私自らやれるということを証明して見せましょう」


 そんなことを言うや否や、レイはスモールシールドと少し大きめの剣を片手にベースゾーンのキャンプを出て行ってしまう。その奥からは赤坂が「どうするんすか」という視線を送ってくる。


「……おい新田、起きろ。勝手に動かれたからには仕方ない。あいつがどんな策を使うか知らんがお前らはこことここにいろ。そうだな……具体的には」


 地図上のとある一点を指さして軽く指示を済ませた俺は【フライ】を使って大空へ駆けあがる。

……とりま、レイの策ってやつを見学してみることにしようか。


おまけ


俺のとこはパワーに最近自信がついたらしい騎士と魔法ぶっ放すことしか能がなさげな魔導士しかいねぇからな。

 俺も秘書の一人や二人欲しいもんだねぇ。



――同時刻。


「ハックション!」

「クション!」

「……今なんか噂されたような気が」

「どうせ先輩が『美人に罵られるのはこの業界ではご褒美です!』とか言ってるんじゃない?」

「それはな……いやワンチャンあるわ」


という会話を新田と赤坂がしていた。

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