第14話 どうしてこうなった!
結局、決闘は【エース】が依頼から帰ってくる明日という話になり、俺たちは宿をとるためにギルドを出た。向かう先はもちろんクマキチさんのところだ。ここ2年消息を絶っていたので何かしら言われること覚悟でだが。
俺たちは明日の作戦を考えながら大通りを進み、クマキチさんの宿屋に行ったのだが……。
2年という月日は長すぎたようで、宿屋は元の豪邸からさらにレベルアップしていた。
何故か豪邸は一回り大きくなり、前庭には噴水、さらには看板に「宿屋 熊の巣」の文字が躍っている。
「これは……いったい……」
「先輩。ここ……でしたよね?」
「俺がボケてなかったらここのはずなんだが」
自分の目を疑ってしまう。視力が悪いから自信はないけど。
明らかにグレードアップしている宿屋を見て、俺たちは2年前と同じように立ちすくんでしまった。入ってはいけない雰囲気が流れる中、やはり2年前と同じようにクマキチさんが姿を現した。
「なにやってんの? お前ら」
「いや、だって……ここ」
「ああ、改装したからな」
いや、軽いノリで「改装した」って言われてもこの変化は……受け入れらるか!
「とりあえず、中入れや。久しぶりに、ゆっくり話でもしよう」
そう言われて、俺たちは宿屋に入っていった。
〇 〇 〇
俺たちは応接間に通され、そこで久しぶりにクマキチさんとの会話を楽しんでいた。その中で、クマキチさんがかなり儲けたことを知った。
「ああ、例の『アルバイト』方式を利用したら捌ける客の数が多くなってなぁ。最初の方は子供や妻にも迷惑かけたが、なんとか軌道に乗って、こんなもんよ」
いや、こんなもんよって…この世界なんでアルバイト方式導入しただけで億万長者が出てくんの? おかしくね? つーか今までの雇用形態どんなだったんだよ。
「あれはいい。1時間1000ゴルドで時給もいい。雇用時間を調整すれば隅々まで掃除できるし接待できる」
ああ……そうかい、よかったね。ちなみに、この世界のお金の単位、ゴルドは1ゴルド=1円換算でいいみたいだ。なので、時給1000円ということになる。
「あれ? でもご結婚されてたんですか?」
新田がさらりと聞いた。そういえば、子供とかにも迷惑かけたとか言ってたな。
「そうだがなぜ今頃? 結婚して冒険者やめたといったが……」
「だって、前泊ったときはいなかったじゃないですか」
「ああ~、あの時は里帰りさせてたからなぁ」
合点のいったクマキチさんはそう説明してきた。なるほど、それでいなかったのか。ちょっと意外だな。
「じゃあ、今日は泊ってくのか?」
「はい、そのつもりです。明日の決闘もありますし」
「ああ、そういえばそういってたな。はぁ…まったくこのギルドの【エース】と真っ向からやりあうことにするとは……お前らもバカだなぁ」
「そんなに強いんですか?」
確かに、そこは気になる。俺たちは能力だけなら実質Cランク。Bランクくらいならいい勝負ができるんじゃないかと思っている。
「あいつらはAランクなんだが。確か、一か月前は普通に笑いながらケンタウロスの群れを倒したらしいが。多分、俺でもあいつらと戦ったら数合と持たなそうだ」
え? マジで? それは困る。あの【スキル】を使えば被弾さえしないと思ったのだが。どうやら俺と赤坂のみで戦わないで、全員参加の総力戦のようだな。
ならば、早速作戦の立て直しだ。
「じゃ、早速部屋で作戦考え直したいんだが。案内してもらっていいか?」
「ああ、ちゃんと2部屋用意してあるから安心しろ」
「……先輩? この宿高いですよね?」
「「え?」」
「いや、タダでいいんだが……」
「……パニックでここ壊して、先輩死ぬことになっても文句言いませんよね?」
「わかった! 一番でかいとこくれ!」
またも命の危険を感じた俺は、クマキチさんに注文をするのであった。
その後、夕食をとった俺は2人に軽く運動するように指示を出し、俺は籠って作戦を考え直した。
使おうとしていた切り札をどのタイミングで使うのか、連携時のフォーメーション等々。
敵はクマキチさんが「あいつら」と言っていたので、パーティーだ。つまるところは集団戦。
パーティーは通常4~8人で構成される。こちらは3人。つまり通常なら最大5人もの戦力差が発生する。
それを一気に相手取るのは正直無理だ。出そうとしていた俺の切り札でも同時に相手できるのは5つが限界、コントロールを重視すれば3つだ。新田は近接戦だと雑魚、赤坂は多方面攻撃を特に苦手にしている節がある。
さて、どうしたものかと頭を押さえながらあーだのうーだの呻いていると、突如部屋の扉がはじけ飛び、ギルドマスターが現れた。あの……ドア吹き飛んで粉々になったんだが……弁償すんの俺たちなんだけど。
「なんです? 作戦考えているときに集中できないじゃいか。あとどうやってここ特定したんだ。尾行させたとかいうなよ?」
冗談交じりにそんなことを言ってみたが、ギルドマスターの表情は変わらない。それどころか、真っ青だ。いったい、何があったんだ?
「た……大変なんだ……」
うん、そんくらいわかるよ。ドア跳ね飛ばして入ってきて大変じゃないことなんてあるのか? なかったら今度こそ貴様の顔を福笑いにしてやる。
「なにが起こったんだ、今度は」
ダルそうに俺が言うと、ギルドマスターは黙って赤い強制依頼書類を差し出してきた。
「【エース】が依頼に失敗した。よってお前らに強制依頼をする。報酬は250万ゴルドだ」
強制依頼書は直接手わたさなくてもギルドの方で強制的に「受託」扱いになる。つまるところ、逃げ道はないというわけだ。それはわかっているので俺は諦めて紙を受け取って、内容を確認する。
『強制依頼書
貴君らに次の依頼を強制依頼する。なお、拒否権は発生せず、この紙を受け取らずともギルドは強制的に貴君らを受託扱いともみなす。
依頼内容:グリーンキメラの群れ計200体の討伐依頼、及び岩龍の討伐。
報酬……』
…………無理だろ。