第13話 オタクは時間を忘れる生き物
引篭もり始めてから一月が経過しただろうか。俺たちは久しぶりに依頼を受けるため、部屋の外に出た。ここ最近は各自が覚えた魔法や武器の技、スキルの修業と、文字を書きなどの修業をしてきた。
そして、今日はその腕試しというわけだ。
「じゃ、先輩行きますか」
「そうだな。どうする? 【フライ】で飛んでくか?」
「まだ【ワープ】とか【テレポート】は使えませんからね」
「じゃ、【フライ】で決まりだな」
俺たちは勝手に移動手段を決める。ここ最近で俺は【フライ】という支援魔法を覚えた。魔法名そのまんまの重力魔法と支援魔法の合体技で、術者を含め数人が空を飛べるようになる魔法である。
だが、それを嫌っているものが1名なり……。
「あれで行くんですか……?」
新田がいやそうな顔をする。ここ最近で顔つき体つき共に大人っぽくなったこいつは、先日【フライ】の実験に巻き込まれ、地面スレスレ飛行や魔法を切ってからの急降下強襲攻撃などかなり危険なプレーをしたため、ものすごく嫌がっているのだ。
「大丈夫だ。あれは戦法としての実験で、ちゃんと穏やかに飛ぶから」
「本当ですかね……?」
「じゃないとこっちも精神すり減るわ」
俺を何だと思ってる。さすがに俺もそこまで馬鹿じゃない。
「はぁ……絶対に危険な運転しないでくださいよ……」
「大丈夫だって。【フライ】」
俺は無詠唱で魔法を使うと、俺を含め3人が宙に浮く。若干1名怖がって俺の背中に張り付いているが。
俺はそのまま魔法を捜査して、高度を上げると、まっすぐシュベルツィアの街を目指した。
〇 〇 〇
驚かせると悪いので、町の手前500m付近で高度を下げて、ここからは徒歩。そういえばだが、ジャンガリアンドックの牙はちゃんと持っている。ギルドには討伐報告にはあれから行ってない。せいぜい一か月くらいだったから、大丈夫だろう。
街の検問所につくと、守衛さんが俺たちの顔を見るなり驚いた顔をしている。なんだ、俺たちの顔に何かついているのだろうか。
「あの~、どうかしました?」
「い……いや何でもない……ちゃんとギルド証は確認したから通っていいぞ」
「ああ、ありがとう」
俺たちは何が何だかわからずに門を通る。そこには、いつもと変わらないシュベルツィアの街があった。
とりあえず、まずは冒険者ギルドに報告してから、クマキチさんの所に行こう。久しぶりに顔を出してもいいはずだ。
そう考えて、ほかの2人と話をしながら冒険者ギルドへと向かっていった。
冒険者ギルドの直通口から中に入る。なんかドアが立派になっていたのだが。まあ、学校でも蛇口が唐突に自動式になっていたこともあったからそこまで驚かないが。
3人並んで中に入ると、ところどころから視線を浴び、何故か各カウンターの受付嬢や係員は目を見開いている。しまいには大半の受付嬢は気絶する始末。なんだ、なにがあったんだ? まさか1か月来なかっただけで幽霊扱い?
とりあえずいつもの右端のカウンターに行く。そこでは相変わらず受付嬢が書類をあさっていた。あれ、この人も赤坂や新田と同じで顔に大人っぽさが出てるな~。
「あのー、依頼達成の報告をしに来たんですけど~」
「ああ、はいなんの…って、ええええええ!?」
俺たちの顔を見るなり、受付嬢は椅子ともどもひっくり返っていく。そして、口からは泡を吹いて気絶してしまった。なんだよ、俺ってそこまで嫌われ者か? とりあえず、治してやれ。
「新田~、とりま治してやってくんない?」
「はーい。【ヒール】」
新田は無詠唱で回復魔法を受付嬢に使う。ほどなくして、受付嬢は目を覚まし、食いついてきた。
「あなたたち! あなたたちは今まで一体どこで何をやっていたんですか!?」
「いや、ちょっと修業と勉強を……」
「じゃあ、なんで依頼達成報告をしに来なかったんですか!?」
「だってそのままログハウス作っちまったから、そこで引き籠っちゃって」
「死んでませんよね!? 本当に霊体じゃないですよね!?」
「いやアンデッドだなわけないだろ」
「じゃあ、なんで、なんで2年もこの街に姿を現さなかったんですか!?」
「は……?」
この受付嬢はなにを言っているんだ? 今2年といったな。なぜだ? 俺たちは軽く1か月くらいしか引篭もってないんだぞ?
「いや、俺たちは1か月くらいしか……」
「なにを言ってるんです!? 今は王国歴443年1月6日ですよ!?」
「はぁ。いや、だったら俺たちは……」
「そのギルド証見てください! 発行年月日を見ればわかります!」
「えーと、ギルド証を……と」
そこの発行年月日を見ると、そこには確かに「441年1月6日」と記載されている。おかしいな。まだ夢の中か? それとも【フライ】使って疲れたのか?
「おい新田、ちょっと雷魔法打ち込んでくんない? 疲れてるみたいだ」
「いえ先輩、私のも同じかと。逆に私に矢を打ち込んでください」」
「先輩、俺のも同じですよ?」
つまり、本当に……俺たちは……俺たちは……。
「「「2年も引篭もっていたというのか!?」」」
その日の昼、ギルドには3人の悲痛な叫び声が響いたという。
〇 〇 〇
「つまり、お前らはそういう引篭もり体質で、時間を忘れて勉強なりをしてしまうと?」
「まあ、簡単に言えばそうですね。古代精霊言語ではそういうの『陰キャ』とか『オタク』とか言いますけどね」
俺たちはそれからギルドマスターの所に連れていかれ、お叱りの言葉をいただいた。久しぶりの猫耳は、おっさんじゃなかったらモフっていたところだ。あと相変わらずのイケメン顔うざい!
「それで、不届き千万のお前らの処分何だが……」
ゲ! それ一番聞きたくなかった! やばいよどうしよう!
「いや、正直言って処分はなしなんだ」
はい? それはどういうことで? 俺たちが期待のホープだからか……それなら役得というものですがね。さすがに将来の【エース】候補は伊達じゃない。
「処分しようにもお前らそもそももうギルドの人間じゃないし」
「「「は??」」」
え? それどういうこと?現にこのギルド証だって……。
「言っただろう。1年以内に1度も依頼をこなさなかった場合……」
「「「退会処分……!」」」
だった……そうだった! つまり、処分しようにももうギルド所属の人間じゃないから処分のしようがないと……!
俺たちの顔から血の気が引いていく。やばいことをやらかしてしまったという俺たちの気持ちの表れである。
「で、もういちどとうろくするにはどうすればいいですか!?」
思考の速い新田は、過ぎたことはしょうがないという切り替えで復活しようとする手段を聞いている。
「言っただろう? 30万ゴルド……」
「「無理です!」」
「だろうな」
いやそうだろ。武器買って金がないし。つーか高くね? さっきのジャンガリアンドック討伐も10万ゴルドだったし。
「だが、お前たちには期待しているし結構な力がある。冒険者にならないのはもったいない。そこで、1度だけチャンスをやろう」
「その、チャンスとは? いかほどのもので?」
「それはだな……」
「「「はい」」」
「このギルドの【エース】との一騎打ちだ」
「「「ふぁ!?」」」
【エース】との一騎打ちぃ!? 俺たちが!? Fランクパーティが!? いやそれもう無理ゲーだろ!
「大丈夫だ。強さと能力はお前らの方が上だ。確実にな」
「いや、でも……」
「そう、お前らには経験がない、その面ではあっちが有利だな」
つまり、技術での勝負だとこっちは圧倒的に不利。勝ち目はごり押ししかないのか。
……ごり押し……大火力……むしろ欺ければいいんだ。
いや、待てよ。あの魔法とスキルを使えば……俺たちでも勝てる!
「いいぜ、やってやろうじゃないか、その勝負!」
俺はそう不敵な笑みを浮かべながら宣言した。