第118話 憎しみは憎しみを呼ぶ
「【エレクトリックフィールド】」
俺の目の前で電気の地面を踏みぬいた巨大なウルフが感電して横に倒れていく。それも大木が切り落とされたくらいまっすぐに、だ。
「あ~、やっぱ魔法を使えるってのは気持ちがいいな~」
そういいながら俺は銃を抜き放つと真後ろから俺を狙っていた毒蜘蛛の頭を撃ち抜く。これで合計10体は倒しただろうか。
魔力が戻った俺は2~3日安静にすごしたのち、試運転として再び里の森に入って魔物相手に戦っていた。約3か月ほど魔法が使えなかったわけだし、戦術も大きく変更していたから元に戻すのは大変なのだ。まああとは里の人にお使いを頼まれたっていうのもあるけどな。
「【チェンジマテリアル】」
その言葉と同時に近くの木材が形を変えてあっという間に荷馬車になる。この旅で得たものは大きく、馬車などの仕組みも理解することができたから切り倒した木から速攻で馬車を作るなんてこともできるようになった。せめて攻撃面が強化されたかったという思いもあるが、一応フィールド系などの魔法の短いスパンでの使用は可能に。相手を追い詰めてから銃なり魔法なりでの力押しはできるんじゃなかろうか。
そういえばあの後、長に頼んで指輪と馬車の中のもの一式はすべて返してもらった。あれってリースキットの国家機密まあまああっからな。もう1~2日滞在してそれから新田達に合流するために王国と共和国の国境の街に向けて調査を継続しながら向かうことになる。
「ここを出るまでにユエルに会えればいいけどな……」
ユエルとは入れ違いになることが多いため1週間以上あっていない。最後に会えればいいと思いながら俺は荷馬車を馬に連結して里に帰っていった。
〇 〇 〇
その日の夜。俺は再び牛小屋のカエデの潜伏先にやってきていた。なぜか今日も呼び出しを食らったのだ。なんかまずいことでもやったかね……。
「んで、話てなんだよ」
「あ~うん。これはだいぶ重要なことだよ」
「だったらそれ以外なんで呼び出すんだよ?」
「そうだねぇ~……日頃のストレスを解消するために決闘かな?」
おいおいおい怖すぎんだろ。王国の兵はストレス解消で命かけるのかよ。引くわ。
「はぁ……。とりあえず本題に入るんだけど。前回の戦争の残党の一団がここから南に40キロ行った村で蜂起したらしいんだ」
「はぁ!?」
「リーダー格はもちろんあの宰相だね。実はあの後宰相の死体だけが見つかってないんだよね。王国軍はその消息をずっと追っていたんだけどとうとう見つからず一度捜索を断念した。心斗君をこっちに派遣したのも運が良ければ見つけてくれるかもっていうのもあったみたいだし」
いや、死体がないんじゃない……俺は最初から宰相は仕留めていない! 新田を取り返してからすぐに俺はあのゲス王との戦闘に入っているということ……その間にあいつは逃げていたんだ!
「そして、彼らは恐ろしいことをしてきたの。岩龍やシーサーペント……以前シュベルツィア周辺に現れた災厄級の魔物を従えて侵攻を開始してるの」
「え……でもどうやったらそんな上位の魔物を……それに」
「言いたいことはわかるよ。でもね、それを可能にする人物がいる。それほどの魔物を従属魔獣にできるくらいのが……」
その言葉に思い出したのはユエルの言っていたユエルを襲撃した謎の仮面野郎。ユエルはかなり強いがそれを手玉にとったらしい。そいつが宰相の懐刀ということか。
「そして……まず狙われてるのは、ここだよ」
「なん……いや、そうか。王国や共和国、帝国の3大国家はルーマー族の里の場所は知らない。しかもここは山に囲まれて拠点にするにはもってこい……」
「それに、人身売買に出せば男も女も高値で売れるだろうしね」
なるほど……確かに軍資金は足りないだろう。そこで金になる”人”と土地を両方ゲットできるここに進軍すると。
いくらここの人でもシーサーペントとか岩龍を相手しながら宰相の懐刀と交戦することは不可能だろう。
「本国もこれについては事態を重く見てるよ。一応ヴィーネにいる駐留軍の1000はすぐに動ける状態にしてるらしいけどそれでもたかが知れてる……」
「そこで、俺に依頼が来たと」
「そういうこと。心斗君がお姫様の護衛に行ってるくらいからわかってたんだけどどっちに動くか確証はなかったから下手に軍を動かせば彼らを刺激してしまう……」
それで、俺がここにきて魔力を回復できそうという報告が王国に行ったくらいでやつらが動き出したとしたら……俺に依頼が来るのも納得だ。
「それじゃ、転移魔法なんかで新田達をこっちに呼んでもらって……」
「それも無理だね。ヴィーネには転移魔法を使える魔導士はいないし。そもそも転移魔法使える魔導士なんて王国には50人くらいしかいないもの」
それに、仮にグランツ側に転移させることができたとしてもそこは首都。こっちに来る前にここはすでに戦場、か。確かにそれは無理な相談だ。つまり俺とこの里の戦闘員でなんとかするしかないと。
「そういうこと。上層部からは私もこの戦いに参戦して君を援護してこいって言われてる。全く……時間がないのに無茶させるよねぇ」
「……それはいいとして。岩龍にシーサーペントだろ? せめて青龍くらいは来てくれないのか?」
「ダメだね。青龍はあくまでも王国内に住み着いた龍ってだけで王国の所有する従属魔獣じゃない。仮に来てくれることになってもそうすると……危機感を覚えた他国が黙っているはずはない」
「ん? じゃあなんであの戦争の時は青龍が来たんだ?」
「ああ、あれ? 確かにあの後外交問題になりかけたけど王様がうまくやったみたい。あのままグランツの思想が世界に広まったら危険だったって言って無理やり納得させたみたい」
「確かに一理あるけどな……」
そう呟いた俺の言葉に「まあ少し微妙だよね」といったカエデはそのまま立ち上がってドアを開けて外に出る。
「まずは長にそのことを伝えなきゃね。私も行くよ」
「いや、でもお前はここに居ること……」
「大丈夫だよ。心斗君が協力者っていえばたぶんなんとかなるし」
なんでそこまで自信をもって言えるんだよ……ということを言うまえにカエデは歩いて行ってしまう。
なんだかなぁ……とは思いつつも今はこのことを先に解決しなければと思いながら俺は彼女についていった。




