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第11話 初依頼はわんこ討伐

 俺たちが無事魔力を扱えるようになってから1週間。俺たちは毎日武器の練習(新田は杖を媒体にして魔法を放つだけ)をし、異世界に来てからちょうど2週間たった時。

 俺たちは初の討伐依頼をこなすことにした。


 2日ほど宿でバイト(バイトを知らなかったクマキチさんに説明して、承諾してもらった)をしながら体を休め、バイト代で各自が武器と防具を買い、冒険者ギルドへと向かった。

 今回は新たに新設されたドアからカウンターに行く。ギルドマスターが「あいつらいつもああなっては困る」との意見で作られたらしい。ギルドマスターの権力って、かなりありそう。

 いつものカウンターに行くと、いつもの受付嬢さんが書類の山をあさっているところだった。


「あのー、俺たちでもこなせる討伐依頼ってあります?」

「あ、こんにちは。そういえば今日行くっていってましたものね」


 合点がついた受付嬢は大きくうなずくと、また書類の山をひっくり返し始めた。


「ありましたありました。これです! これが今回あなた方への強制依頼書類です」


 そう言って取り出してきたのは1枚の赤い紙。強制依頼という4文字と相まって「赤紙」というのが出てくるのは何故だ。あとすいません、文字読めないっす。


「ああ、そういえば古代精霊言語しか読めないんでしたね。そこに書いてあるのはジャンガリアンドックという体長7m前後の大型の犬型魔獣の討伐依頼です。実は昨日それに負けて逃げ帰ってきたEランク冒険者のパーティがいまして」


 は? 俺たちパーティ組んでな……いや実質組んでるに等しいが、それでもまだまだFランクだぞ?

 強制依頼書って、普通Aランクとかそこら辺の強い奴に渡されるんじゃないの!?


「ええ、その通りです。ですが、あなた方は実質Cランクくらいの実力はありますし。それに攻撃方法も単純なかみ砕きか体当たり、あとは尻尾でローリングアタックしてくるだけです。単純ですから初心者向けですよ?」


 いやいやいや、無理だろ。人間が素手で相手できるのはせいぜい犬とか狼止まり。武器はあるとはいえまだまだひよっこ。それに温暖湿潤気候の平和ボケした日本というバカみたいな国で生活してきた俺たちにそれはきついだろう。

それは他2人も同じようでうんうんと頷いている。


「あ、報酬は強制依頼ですので10万ゴルドですね。そして、依頼失敗時の手当も付きますね。それと、馬車が貸し出されてます。それにジャンガリアンドックの皮は高く売れます。証拠に犬歯2本持ってきてください」


 うん、そういうの要らないんで。もっとましなのないの? あ、しまったこれ強制だ。この世界人権と拒否権ないぜ。


「わかった! やりゃあいいんだろ! やりゃあ!」

「ですね」

「やりましょっか……」


 俺たち3人はげんなりしながら冒険者ギルドを後にした。


  〇 〇 〇


 俺たちはそれから情報収集と食料調達を行い、馬車でエルフの大森林へと進軍を開始した。

 御者は俺がやり、赤坂は地図の読解、新田は新しい魔法の詠唱の練習とこの世界の文字の習得。クマキチさんに五十音表を作ってもらったみたいだ。あとで俺にもくれ。教官が言ってるのを暗記して紙に移すとかいう芸当ともおさらばしたいのでね。


「先輩、そろそろ今日はこの辺で。あと2キロ行けば目撃されたっていう水車小屋ですし。日暮れも近いですよ?」

「そうそう、ジャンガリアンドックは絶対に見つかった場所から半径1キロ以内にいるみたいです。なので、ここら辺がベストかと」


 ああ、うん、それ俺も知ってる。あれからギルドマスターに新田は聞いたみたいだが、俺はクマキチさんから仕入れた。情報によるとジャンガリアンドックは尻尾で巨体のバランスをとってるからそこを狙えばいいとのこと。


 その日は念のため水車小屋から2キロの地点で野宿。新田は馬車の中で、赤坂は地面に横たわり寝ているときに狼襲来。狼は俺の弓の試し撃ちの餌食となり、肉は俺の夜食、皮は血肉がついてないのを確認してから新田の毛布代わりになった。


 翌日。昼前に仮眠をとっていた俺は新田に無理やりたたき起こされ、水車小屋まで進軍。馬車と馬を念のため水車小屋に隠して、捜索を開始した。


 捜索方法は2通り。俺の魔力で高めた空間把握能力(仮称)と、各自の魔力探知である。魔力探知は、自分の魔力を感じた人ならだれでも使えて、相手を見るだけで直感的に魔力の質と量がわかるというもの。ちなみに、仲間内だと新田が(みかけによらず)1番量が多くて質も中、俺が量は中くらいだが質はまあまあいい、赤坂がどちらもワーストだが、ギルドマスター曰く、戦略魔法を打ちまくるこの国の宮廷魔導士の重装隊で中隊長くらいまではいけるレベルとのこと、ちなみに、そいつらはかなりの精鋭ぞろいらしい、


 そんなわけで、捜索を始めたのだが。

 すぐにそのジャンガリアンドックは見つかることになる。


 捜索を開始して30分。岩場にたどり着いた俺たちは、岩場の頂上で俺の空間把握能力(仮称)頼りの捜索をしていた時。岩場の下から感じたことのない違和感を感じた。多分これが魔獣の魔力なのだろう。


「先輩、この感じは……」


 新田も気づいたようだ。量は赤坂の2分の1くらい、質も赤坂の4分の1程度だ。おそらくジャンガリアンドックのものと思われる。


「よし、降りて捜索だ。多分どっかに洞窟でもあるんだろ」


 その言葉に反応して、新田と赤坂も下山を始める。俺も下り、岩場の周りをグルグルと捜索し始めて、1時間もしたころ、大穴が開いている場所にたどり着いた。中からは先ほどと同じ魔力反応。ここがジャンガリアンドックのすみかで間違いなさそうだ。


 さて、ここは洞窟の中に突撃したいところだが、それは無理がある。なんせ俺と新田は軽装備。俺は胸当てでそのほかジャージと脛あて、小手、新田はローブ、その下にジャージ……赤坂も鎧はフルで購入できなかった。防具が万全でないので、突入は無理。それにこういうのは突撃したら死亡フラグだ。

 なので、ここは俺の弓と新田の魔法がメインだ。素早く作戦を立てて、2人に指示をとばす。


「新田は詠唱、赤坂は横で待機、放ったと同時に正面に展開!」

「先輩は?」

「もちろん、援護する!」

「「了解!」」


 作戦はこうだ。まず俺の火矢と新田の魔法で洞窟内を攻撃。ジャンガリアンドックが出てきたと同時に尻尾を狙いながら総攻撃だ。

 新田に火を出してもらい、矢じりに火をつけて、威力をつけるためスキルの発射体制に入る。


『我が力よ……』


 新田が詠唱を始める。簡略化しているが、新田のことだ威力は保証されている。

 それに合わせるように俺もスキルの発射態勢に。


『願いに応じ、彼の者を炎の槍で焼き尽くせ! 【フレイムランス】!』

「【イーグル】!」


 矢の速度を高くして貫通力を高めるスキルを放つと同時に新田が生成した3本の火の槍が巣窟の中に入っていき、爆発した。

 しかし、威力が強すぎた。自分たちの力を「こんなもんだろ」と過小評価していた。日本人の悪い癖の1つだ。爆発して、なんと洞窟の入り口をふさいでしまったのだ。あの爆発ではもう既に死んでるんじゃないか?

 ……ええ、なんて思ってた俺が馬鹿ですよ。魔物は普通の生物じゃない。それがよくわかる結果だった。

 ジャンガリアンドックはそのがれきをたやすく跳ね上げて外へ出てきた。

 でかい、というか情報間違っている。体長は10mくらいあるし、爪も鋭い。犬種は百歩譲って狩猟犬。どちらかというと狼のようだ。


「でけぇ……」

「先輩、これ、ですよね……」

「いや、そうだと思うけど……本当にこれか?」


 前に展開していた赤坂が聞いてくるがしったこっちゃない。どうせこれなんだろう。だが、体がでかいのは正直言って助かる。小さいと動きを追いにくいし、命中率も下がる。

 ジャンガリアンドックは一つ遠吠えをすると、口を開けてまっすぐ赤坂へ突進してきた。それを見た俺は素早く弓をつがえながら詠唱をする。


『我が力よ、願いに応じて彼の者を守れ! 【シールド】! 』


 魔力で出来た盾を赤坂の目の前に展開させ、同時に弓をジャンガリアンドックの口の中に射る。

 矢は口に入り、舌に風穴を開ける。血しぶきが舞う中、ジャンガリアンドックは赤坂にかみつこうとするが、それは【シールド】にはじかれる。

 俺は手短な木に登りながら、さっきのかみ砕き攻撃のリーチを思い出す。あれだと赤坂は普通に一飲みだろう。それはいけない。


「赤坂、さっきのかみ砕きは危険だ、来たら回避に専念! 新田は早く魔法を足めがけて撃て!」

「わかってます!」


 俺はその間に曲射の準備をする。弱点かもしれない尻尾を狙うためだ。


「先輩、要は足元を崩せばいいんですよね? 」


 ああ、そういうこと。足元を取られたら赤坂には一気に側面から攻撃してもらう。それを俺が援護するのだ。


「だったら!」


 策がありそうな新田は、また詠唱を始める。


『我が力よ、願いに応じ大地の息吹を示せ! 【アースショット】!』

「なるほど!」


 そういうことか! と思いながら矢を放つ。【アースショット】は魔法で起こす地震のようなもの。それを使えば足場が悪くなる。

 地面の揺れに耐えきれなくなったジャンガリアンドックはとうとう横倒れになり、曲射した弓が尻尾に命中する。

 相当痛かったのだろうか、ジャンガリアンドック声にもならない声を天に向かって上げる。つまり効いているということだ。俺は素早くナイフを抜き放ち、走りこんで尻尾の根っこを狙って奥深くまで差し込む。


『ぎゃいん!』


 ジャンガリアンドックは毛並みを逆立てながら悲鳴を上げる。わかったのだが、神経などはほぼ犬と同じかもしれない。ただでっかくて魔力を取り込んだ犬のような。

 なんて考えてたら尻尾がむちのように襲ってきた。これを横っ飛びで回避、前回りで体勢を整えると背中に回してあった弓を構え、練習してきたスキルを使う。


「【ドリルショット】!」


 矢が手を離れていく際に回転しているのがわかる。それはまっすぐに飛んでいき、脇腹に命中すると、さらにドリル回転で体の奥深くに入っていく。


 いよいよ怒ったジャンガリアンドックは力任せに赤坂に突撃していく。それを赤坂は驚くことなくそれを盾で受け止め、目に剣を突き立てる。


 その間に、俺は再び新田の斜め前まで戻り、弓を構える。すると、新田は戦闘中だというのにこちらに駆け寄って服をくいくいっと。はい、なんでしょう。


「先輩、あれやりますよ!」

「あれ、ですか。やるか!」

「はい!」


 この世界にはスキルとスキル、スキルと魔法、魔法と魔法を合わせた、いわゆる「連携スキル」というものが存在する。あると知った俺と新田は目を輝かせて、日夜その練習をしていたのである。その結果、1つの連携スキルを編み出した。


「先輩!」

「いくぜ新田ぁ!」

『我が力よ、願いに応じ火の槍で彼の者を燃やし尽くせ! 【フレイムランス】!』

『我が力よ、願いに応じ彼の魔法の真価を発揮せよ! 【マジック・パワー】、そして【ドリルショット】!』

「「連携スキル、【ファイアーイーグル】!」」


 中二病だと思いながらもスキル名を叫ぶ。【ファイアーランス】は【ドリルショット】を炎で飲み込むと、炎がまるで猛禽類の鳥を模した炎になり、中央に矢が回転しながら飛んでいく。 

 着弾と同時に爆発し、炎がなくなったと思ったその時。【ドリルショット】の特性で矢は体内奥深くまで到達し、その矢の中から再び猛禽類の形をした炎が暴れだす。


 それから数秒もしないうちに、体内を焼かれたジャンガリアンドックはすぐに絶命した。

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[気になる点] 「合点がついた受付嬢は大きくうなずくと、また書類の山をひっくり返し始めた。」 ですが、合点がついたではなく、合点が『いった』ではないかと思うのですが……
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