第105話 水の都と探偵団 ファイナル
モーリーとかいうガキを救った翌日。改めて少年探偵団3名とその親がお礼を言いに来た。
「本当に……本当に息子を助けていただいて……! なんとお礼を申せばいいのでしょうか……!」
「ほ、本当にありがとうございました!」
「いやいやいや、俺は何もしていない。騎士団の詰所に居るミア姫様に礼を言うんだな」
「そのミア姫様にあなたにお礼を言っておくようにと! 『あのときアルヴィン様がご指導していただけなかったら私はただただあの状況を傍観しか出来なかった』と仰っていました」
「言われてすぐ出来るもんじゃないんだがな。とりあえず俺は何もしていない。感謝するなら勝手にやってろ」
「「「は、はい!」」」
「あといい加減ドア閉めてくれないか? 着替え出来ねーんだけど」
「「「し、失礼しました!」」」
丁度着替えようとしていた時に来たもんだから何もできなかったのだ。はぁ……感謝されるのはいいがやりにくいったらありゃしない。
「ご主人様、ツンデレですか?」
「どこもツンツンしてないだろ。少なくともツンデレではない」
鬱陶しかったから適当にそこら辺のアニメに出てきそうな言葉で追い払っただけだしね。
「それで今日はどうされるのですか?」
「決まってる。諸悪の根源を倒しに行くんだ」
探偵団が目撃したという謎生物が絶対にこの街の水路の水を汚染させた原因で間違いない。吐く息は子供とは言えほぼ品詞にするような奴だ。かなりの危険が伴うことは間違いないだろう。
「毒をもつ魔物と言うのはこれだから……」
「ああ。だけど今回は強力な助っ人が来るからな」
「……? それはどういう……」
ユエルが祇園のセリフを口にしようとしたとき、部屋のドアがノックされた。おいおいおい……まだ着替え終わってねーんだよ、下が。ちなみにユエルは別室にて待機している。
「……ちょっと待ってろ! 具体的には1分ほど」
助っ人が来たらしいので高速で着替えてドアを開ける。するとそこに居たのは……。
「やっほ~アルヴィン君! 助っ人に来たよ~」
…………バタン。
「え~!? ちょっと! ちょっと待ってよ! なんで閉めるの!?」
「呼んだのはお前ではないっ! 大体なんでお前がここに居るんだ! 海のど真ん中だぞ! しかも周辺の海域は毒の塊だぞ!?」
「え? あれで毒っていうの? 確かに並みの鉄ならすぐに溶けるみたいだけど私みたいなくノ一にかかればあんなの余裕だったね! っていうか開けてよ!」
そう、部屋の外に立っていたのは一切お呼びでないカエデという王国情報部のくノ一さんであった!
「……それじゃあ、こっちから開けるよ?」
「壊すなよ?」
「ざんねーん。そんなことくノ一がやるわけないじゃない。はいドロン!」
すると同時に部屋の中に1つの煙が現れ、それがカエデに変化した!
「さあアルヴィン君、その諸悪の根源とやらを倒しに行こうか!」
「待て待て待てい! だからどうしてここに居るんだって話なんだよ!」
「え? ああそうそう。国王様からミア様への文書と、ま……まあその他諸々で」
なんだよその他諸々って……しかもつまりやがって。そんなに言いにくい諸々なのかよ。
「というかミアに用事あるならミアの所行けよ」
「行こうとしたら近衛騎士とどこか行くようだから先回りしたらたまたま心斗君の声聞こえて……ちょっと様子見させてもらったよ」
「……これだからくノ一は」
面倒なんだよなぁ。知らないうちに居るし。しかもカエデに至っては空間把握能力(仮)で追尾できないときあるし。
「……そっちの人は……ユエル、さん? だっけ?」
「はい。ご主人様のお知り合いでございますか?」
「か、堅苦しい……しょうがないよね。私はカエデ、王国軍情報部のエリートさんでアルヴィン君……まあその正体とは前回のグランツ戦役の時の戦友、かな?」
「危ないところをカバーしてもらったし、一緒に戦ったから戦友では間違いないな。よし、帰れ。んで用事済ませてこい」
「うん、それは出来ないかなぁ。新田さんからこれ預かっているから」
と言われて差し出されたのは一通の手紙。
……そこにはなんか知らないけど俺を恨んでいる、赤坂が斬りに行こうとしたということと、何かの使用書が書いてあった。
待て。なんで俺は斬られないといけないんだよ後輩に。何があった。どうしてそうなった。快適なんだろ?
そしてこの使用書イラスト……どっかで……ああ!
「そうか、トランシーバーもどきか!」
旅に出る前に渡されていた小型の箱ッ! パワードスーツに搭載される予定だった無線機を小型化したモノ! そうだ、渡されていたじゃないか!
「ま、見せられてもフィーアに預けている馬車の中だからなんともできないけどな」
「……そういえば灰色の箱のようなモノを整理しているときに発見したことがあります」
ユエルもそれを見て思い出したそうで、ジェスチャーをしながら話している。にしても初対面にしてはこの2名打ち解けすぎじゃねーか?
「何故かこの方には親近感を覚えます……」
「え、えーとぉ……うん、私もそう、親近感が……」
何故詰まる。お前もしかしてずっと俺の旅についてきたんじゃないだろうな……。
ということを聞こうとしたその瞬間。またしてもドアがノックされた。
「アルヴィンさん、ミアです!」
「お~し、助っ人も来たし行きますか!」
私は? というように自分を指さすカエデを無視して、俺は装備を確認してからユエルと部屋を出て行った。
〇 〇 〇
「結局、なんで私をお呼びになったんですか……? 近衛騎士も」
「助っ人だ。俺たちは今圧倒的火力不足だ。どっちも魔法が使えない。そこで魔法が使えるミア姫なら……と思ったが、もう一名魔導士も来てくれたみたいだがな」
「その言い方だとまるで私が邪魔ものみたいなんですけどー? これでも私は王国情報部のエリート……」
「やり手はやり手って自分では言わないけどな」
昨日の現場に向かいながら俺はついてきたもう一人の助っ人に目を向ける。確かに魔導士としてはかなりレベルが高いカエデだが……ぶっちゃけくノ一が魔法使っていいのかと言う感じが歪めない。
「というかカエデさんがここに居るとは思いませんでした……」
「ミア様、このことが終わり次第国王様から預かっている文書を」
「そこまで堅苦しくしないでくださいカエデ。いつものようにでいいですわ」
「それが出来なくて困っているんですが……」
何故かやりにくいらしいカエデ。いつもならぐいぐい来るんだけど。まあいい。
「とりあえず作戦を言うぞ。敵は水中の中だ。だからミア姫には最初に水流を捜査して敵を海上に出してもらう。次に俺とユエルが攻撃。最後に雷魔法とか【ライトニング】とかでミアとカエデが止めを刺す」
「……理にかなってます」
「そうですわね……賛成です」
「私もそれでいいと思うよ~。私はいざとなったらミア様を助けれる位置にいるね」
「近衛騎士はブレスが来たらミアをすぐに逃がせ、いいな?」
「「心得ました!」」
さっき確認したところ、近衛騎士はどちらもグランツ戦役の時に俺の配下の1番隊に居た騎士だった。あの戦で出世したらしい。
なんて話をしていたらすぐに昨日のポイントに着いた。ここからは戦闘になる。昨日のうちにこの時間から戦闘をするという事を住民には伝えてあるため、既に戸締りがされており、住民は一番奥の部屋に引きこもっているはずだ。
昨日赤ソースを流した時にすぐそこの水面が揺れていたので、この下にいるはずである。
「ミア姫」
「アルヴィンさん、だから“ミア”で大丈夫ですわ」
「そうか……じゃあミア、手前のここから奥のところまでの水流を操作して海底に居る敵を水上にあげてくれ」
「し、しかしどうすれば……」
「簡単だ。海底から海上に向ける感じに押し上げればいいのさ」
「……いまいちよくわかりませんが……行きますよ!」
「いつでも大丈夫だ!」
『わが力よ、願いに応じ水の大波を引き起こせ! 【ウォーターウェーブ】!』
ミアが唱えた魔法の効果はすぐに現れた。どこからともなく流れが変わり、やがて水中から数々の水柱が立つようになった。
「こ、こんなところでいかがでしょうか……!」
「ミア、残る魔力はどれくらいだ」
「あと4分の1、くらいでしょうか……」
苦しそうな顔をするミア。やっぱりこれだけの広範囲になるとそのくらいは消費するか。だが水上におびき出せた。最悪俺たちとカエデでなんとかなる!
激しく上がっていた水柱が消え、次に海面に見えたのは複数の甲羅であった。所々から見える顔は亀そのもの。とくに似ている種類は……。
「こいつクサガメじゃないか?」
「クサガメ?」
「名前の通り匂いが臭いカメだ」
「……魔物なの?」
「そうじゃないのか? じゃないとただのカメがブレスなんて吐くもんか」
ですよねーというようなカエデは放っておいて。俺はとりあえずカメを倒すためにとある武器を取り出す。
「……これで」
「それは!?」
「……銃!」
「その通り。山賊蹴散らすときに使ったやつ。“英雄”オオカワって人に貰ってな」
「……いやそれ……そっか」
(設定上そうしないとまずいんだよ)
本名言っちゃうとなんのために偽戸籍があるのかがわからなくなる。そういう任務だし。なのでこれは大川という別人からもらったということにしているのだ。
「さて、狙い撃つか!」
クサガメの魔物はざっと30匹前後。どれも今は水流のせいで泳ぐだけで精一杯のようだ。
それを俺は手前のやつからどんどんと撃ちぬいていく。無防備な甲羅すら貫通する弾丸は1度に6発。それが終わったらまた弾を入れる。
それを繰り返すこと3回目。残りが10匹くらいになった時。とうとうクサガメを邪魔していた水流がなくなり、本格的に反撃が始まった。
『……!』
一匹のクサガメは口を開けると何かを吐き出すようなしぐさをする。意外と素早いその動きに俺は一瞬反応が遅れ、弾が外れてしまった。
『危ない! 【ライトニングジャベリン】!』
ミアの右斜め前に居たカエデがとっさに光属性の魔法で援護をしてくれたおかげでその一匹はしのげた。
……が。敵も馬鹿じゃない。なんと今度は一斉に飛び出してブレスを吐こうとしてきたのだ。
「来るぞっ!」
「「ミア様! お下がりください!」
『【ライトニングジャベリン】!』
カエデが牽制で放った魔法は空しくも外れ、とうとうそのブレスが俺たちを襲わんとしたとき。俺は思い出した。
赤ソースを住民が流してた時にクサガメが反応していたのを!
とっさに俺は近くの家の扉を叩く。
「なんだ!? どうした!」
「台所の赤ソースを貸してくれ!」
「そんなもの何に役立つんだ!」
「いいから早く!」
「なんだか知らないが使うんだったら台所の窓の隙間から取れ!」
と言ってくれたので、窓を開けて台所の赤ソースのボトルを拝借。それを俺はブレスを撃たんとするクサガメの方へ放り投げ……。
「これでも、喰らえ!」
銃で撃ちぬいた。
撃ちぬかれて破裂したボトルからは真っ赤な液体が飛び出て、クサガメの口、鼻、足などにかかる。どうだ、辛いだろ!
効果はてきめんのようで、ブレスを撃つどころじゃなくなったクサガメは海中に落ちながら辛さに悶え苦しむ。しかし容赦なく襲う辛さに耐えきれず、また海底にその身を強く打ち付けたことでおびき寄せられたクサガメは全滅したようだった。




