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第10話 強制講習 

 俺たちは持ってきたジャージに着替え、軽く準備運動をしてから訓練場へ向かう。この場合知っているのがラジオ体操だったのでそれで勘弁。

 そこには既に猫獣人のギルドマスター、ホーネストが立っていた。腕を組んで仁王立ちをする姿はどこか威厳すら感じられた。猫耳は頼りないけど。


「それじゃあ、訓練を始める。まずは、自身の魔力を感じることからだ」


 俺たちは顔を見合わせて、そんなことどうすればという顔をする。それもそのはず、俺たち地球人は魔力など一切知らないのだ。「はい、感じました」なんて言ったら、逆に困ってしまう。  

 だが、腐っても俺らのうち、2人はいわゆるオタクで、異世界系小説やアニメなどを何個も見てきた歴戦の長。そのアニメなどは決まってとあるところに魔力はあった。それは、心臓……。


「心臓に……意識を集中して……」

「体中にいきわたらせるように」


 突然のことに赤坂だけ何が何だかわからなそうに、首を右に左に向けてみる。何もないとわかっていながらも、やってしまうようだ。 


 集中して30秒。ついに俺と新田の意識が最大限に研ぎ澄まされた。


「こ……これは!」

「ただ単にスキル【絶対集中】を習得しただけだな。彼らは魔力なんぞ感じているわけじゃない。ああ、スキルってのは、一定の熟練や、経験を積むと、神から彼らに見合った能力を与えてくださるのさ」

「はぁ」


 意味の分からないという顔をしている赤坂。それを感じることが出来る。あとから知ったことだが、この世界の「スキル」という能力は、仕組みが難しいのだ。

 魔力を必要としたスキルもあれば、必要ではないスキルがある。スキルは神から与えられるといわれているが、実際はただの能力の自然発現。スキルの情報は自然と頭の中に細かく強制的に覚えさせられるものばかりだ。


「これで、できたのか……?」

「いや、完全に間違えている。間違えているのにスキルを習得している…。覚えたスキルは冒険者証に記載……正確に言うと、自身の魔力が習得したスキルの情報を分析し、文字として可視化できるようにするのだが……ちなみに。【絶対集中】は汎用スキルで、攻撃を回避、命中させやすくする効果がある。正し、この極限の集中状態を継続させる必要があるから、あまり覚えている冒険者はいないがね」

「「「はぁ」」」

 

 意味が分からなくなってきたので、適当に返事を返すだけで精一杯だ。どうやら頭の処理能力が情報量の多さについていけていないらしい。新しい分野に踏み込んでるからしょうがないっちゃないけど。


「正解は頭だ。俺たち人間・亜人とかの頭の中にある思考回路と呼ばれる部分に魔力はある」

「は?」

「思考回路?」

「多分、脳みそのことかと……」


 脳みそ=思考回路。なんか間違ってないけどそれはそれでモヤッと来るな……あとよくわかったな新田。お前の思考回路の理解力はどうなってんのか教えてほしいぜ。


「えー、つまり脳に意識を集中させて」

「どこか一点に集めるようにして」

「えーと、集中して」


 それから10秒もしないうちに赤坂はあきらめ、俺と新田はまた【絶対集中】になる。そして、一言。


「「「できるかぁ! つーかあるかぁそんなもん!」」」


 地球人で、普段から魔法などというまがい物に実際に触れてこなかった彼らからすれば仕方のないこと! いや、戦闘すらできない初心者の当たり前のリアクション……だろう。


「はぁ。だと思った。そうだな……だったら、魔力のイメージはふわふわしてて温かい、心地いいものだ。それを、想像すると……ほら」


 ホーネストはいともたやすく右手に火の玉を作り出す。

 アドバイスなのか……? いい笑顔で無詠唱で火の玉を作って誰かを堕とそうというそういう発想なのか? え?

 ……新田か? そうか新田なのか! 新田をそれで堕とそうってか。残念だったな、新田含め俺たちにはそういうのへの耐性並びにキラー性能があってな、本能的に貴様の顔を福笑いに加工しなきゃいけなくなるんだよぉぉ!


「グルルルルルルル……!!!」

「待って! 待って先輩! 妙にあふれ出す殺気抑えて! 気持ち分かりますから! ナチュラルに気取っているからなんか殺気湧いてくるのはわかりましたから! 唸らない、はい、定位置に戻る!」

「まーまーまーまー! 魔力使えないのに経験値段違いのギルマスに対抗したってたかが知れてるんですから! ポケ〇ンで、レベル1のコ〇ッタで、レベル100のミ〇ウツーに挑むようななもんですよ!」

「……? どうかしたかい?」

「ウガアアア! コロス! 貴様だけは! 貴様だけはぁぁぁ!」

「落ち着け無能……いや無属性!」

「おい赤坂! 貴様ぁぁぁ!」

「まあまあ! 抑えて、抑えて! はいお座り、お手!」

「俺は荒ぶるゴールデンレトリーバーじゃなぁぁぁぁぁぁい!」

「とりあえず、続けようか」

「どけ! どけお前ら、俺はあいつを殺す使命がある! 今こそ、今こそ……! 覚悟ぉぉぉぉぉぉぉ!」




 ――新田と赤坂が大川を取り押さえて落ち着かせるまでしばらくお待ちください――




 気が付いたら背中に新田が馬乗りになり、赤坂が俺の顔を押さえつけていた。どうやら俺はワニ退治のワニ役になったようだが……なにがあったんだ? 今魔力講習だよなぁ……。


「あーもう! 意味わからん!」


 もうわけがわからないので、地べたに座り込み大きくあくびをしたその時。なぜか俺の目と鼻の先に白く光る玉が出現した。


「え?」

「「こ、これは……!」」

「うん、無属性の魔力の玉だ。早くもできたか……」

「いや、ただあくびしただけだが。いや、でもなんか感じる……なんてーの? 頭の奥底に、あったかい雲みたいなものが…そして、それが何十層にもなってて、まるで雲海みたいに……」

「「よけいわからん!」」

「うむ。それが魔力だ」


 あくびをしただけで突如現れた無属性の魔力の球。白く光るその球には、いくつもの可能性を感じる。白は何にでも染まる色。“無”から“有”へ、それが無属性の本質なのかもしれない。

 同時に自身の魔力も大体わかった。確かにホーネストの言う通り、雲海のようなものを脳内に感じることが出来る。まだうっすらとだが、確かに感じることはできた。


「そうねぇ、例えるなら、できたての綿菓子みたいな?」

「「はぁ……」」


 多分これで通じるだろう。俺の目の前で2人はもう一度集中して、魔力を探してみる。

 だが、学習などしない赤坂はそのうち立ったまま睡眠をはじめ、逆にできすぎる新田は再び【絶対集中】の境地へと……。


「お前らできるのかできないのかはっきりしろよ!」

「いや、うんホントその通り」


あきれる俺とホーネスト。極端にできる奴とできない奴。教師などの教えるものにとってこれほど扱いにくいものはない。それが、新田と赤坂なのだ。逆に出来過ぎても面白くないけど。こう考えると教師ってのも複雑だなぁ……。


それから、1時間後。


「まだできないのかぁ?」


 既に、魔力のコントロールができ始めた俺は、魔力で作った球をお手玉にしており、相変わらず新田は【絶対集中】地獄、赤坂は寝落ちしそうになっている。

 この無属性の球、重さはなく、手に何か触れている……という感触で、別に触っても熱くもかゆくもない。生物には無害のようだ。


「あれだな。新田に限っては、本当にバカと天才は紙一重ということを証明しているな……」


フッ、言いえて妙、なんじゃないか……? 集中の度が過ぎている。これではむしろ見えない。


「赤坂に至っては……ただやる気がない」


 盛大なブーメランだと思ってもスルーして、言葉をつづけた。


「新田はもうちょっと集中の具合を下げて、わたあめみたいなのを感じ取ればそれでいいんだが。赤坂はもうちっと集中せい!」

「わかりましたよ~」

「……(サムズアップ)」

 

 果たして、不器用な彼らにできるだろうか……と考えたその矢先、新田が手に火球を作り出した!

 

「あ、できた!」

「なんでこいつら急にできるの!?」


 俺は再び呆れて、溜息をつく。俺もそうだけど……なんで急に出来るようになるか知りたい……。


「先輩、見てくださいよ! 少し応用すれば青い炎もちゃんと出せますよ! 魔力ってすごい!」

「わかったわかった!」


 相変わらずの近づき&マシンガントークをかます新田。手には青い炎を出しながらなので正直言って危ない。怖いんですけど!?


「もっと褒めてくださいよ! なんですか? 嫉妬してるんですか? 先輩らしくありませんね」

「わーたよ、ほれ。よくできたな」

「えへへ……」


 俺はいつものように新田の頭をなでる。定期考査でいい点を見せてきたりするときにこうしてるので習慣化してしまったのかもしれない。

 ……事の始まりはいつだったか……9月くらいだよな、確か。

 うれしそうな新田を見て、俺的にも悪い気はしないので続けている。

 最後は、赤坂だけなのだが……問題はすぐに解決した。

 赤坂は目を閉じ、にかを具体的にイメージしたのだろうか、彼の前に緑の玉が表れそこから風が出てきて渦巻き始める。


「ああ、できましたよ」

「なにしてやったりみたいな顔してんだ! 一番できてなかったのお前だろっ!」


 こうして、彼らは魔力を感じたとともに、ある程度のコントロールも習得した。実は、魔力のコントロールの習得は初心者なら1週間はかかるのだが。


「もうコントロールできたのか。だったら、次は武器だな」

「「「あ……」」」


 俺たちは、さらに地獄に突き落とされることになるのだった。

 その後、全身の筋肉痛に見舞われて悶えていたのはまた別のお話……。


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