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9.古代遺跡の仲間達 1

 9


 ケヴィンが召喚されてから三週間が過ぎた。


 当初の予定通りケヴィンは修行の為に北壁の森に移動し、魔物を相手に魔法の訓練、剣の訓練に日々汗を流し、現在は北の森最奥の地にある古代遺跡に住んでいる。


 エレインとハルナはマティスの宿リヴィアの雫を拠点に王都に店を構え、着実に人脈を広げていた。


 ケヴィンとエレインが、再び城へと行く約束をしている日まであと一週間。

 その城内で怪しく動きまわる少年と一匹のスライム。


 白銀の髪に翠色の瞳。

 人間でいえば十歳くらいの年齢の容姿ではあるが、その小さな身体には尋常ではない魔力を秘めている。

 彼の名はリヴ。

 使い魔のスライムを頭上に乗せ、ケヴィンのお使いで城の中を物色していた。


「あっ、ありました!多分ここが王の執務室ですね。早速お仕事といきますか!」

「……」

「えっ?お腹が減ったからなんか食わせろ?駄目ですよ、さっき金色の椅子食べたじゃないですか!マスターから派手な行動は控えるように言われているんです。少し我慢してください」

「……」

「もう、しょうがないですね。ちょっとだけですよ!」


 その言葉を聞きスライムは頭上から飛び降りて、高価そうな体内に取り込んで装飾品を食べ始める。


 一方リヴは本棚の中から王宮運営費、軍事費、税収に関する書籍を取り出していく。


 書籍をペラペラとめくりながら目を通していき必要なページを見つけると、用意していた羊皮紙に転写の魔法で次々に写していく。


 そして彼が作業に没頭している間、スライムは高価な品々を次々に食べていた。


「あっ!スラ吉、全部食べちゃったんですか?駄目じゃないですか。マスターからほどほどにしなさいと言われているのに」

「……」

「美味しくないとかの問題じゃないですよ!初めてのマスターのお使いだから、僕はこの任務を完璧に遂行したいのです。だからスラ吉も協力してください!」

「……」

「分かりましたよ。では帰りに宝物庫にでもよって行きましょうか!」


 リヴは微笑みながらそう言うと、スラ吉が嬉しそうにその場でピョンピョンと飛び回る。


 その後リヴが書籍の転写を終える。

 ケヴィンのお使いは済んだようだ。


 王の執務室を出て城内を散策していると、扉の前に兵士達が立ち、厳重に警備してる箇所にたどり着く。


 柱の影から兵士達を見つめるリヴ。


 リヴは兵士達を見ながら「仕方ありませんね、影の中を移動しますか」と言うと、頭上に乗るスラ吉がプルプルと震えて応える。


 リヴは胸に手を当て魔法を発動。

 魔法陣が全身を包み込む。

 そしてリヴが歩き出し……

 瞬く間に地面へと消えていく。


 しばらくすると彼らが再び地上に姿を現した。しかしその場所は兵士達が守る扉の内側だった。


 リヴは歩きながらキョロキョロとその部屋を散策していく。


 その部屋は先程スラ吉と約束した宝物庫だ。

 ところ狭しと並べられた数々の金塊。

 宝石に魔術道具。

 武器や防具に加えて家具や医療品それに衣服など様々な品が山のようにあった。


「うーん。ここが宝物庫なのでしょうか?思ったより少ないですね。でも魔王様の宝物庫は三十ほどに分けて保管してましたし、きっとここもそうなんでしょう。まさか宝物庫がここだけなんてあり得ませんよね?沢山あるでしょうし、一つくらいお宝が無くなっていても、きっと気付くことはないはずです!マスターへの手土産として、全部頂くことにしましょうか!きっとマスターに喜んで頂けるでしょう」

「……」

「いえ、スラ吉の主は僕ですよ?今更何言っているんですか」

「……」

「分かりましたよ!僕もマスターの喜ぶ顔が見たいのは同じですから頑張りましょう!ではスラ吉、どちらが多く回収出来るか競争しますか?」

「……」


 リヴの言葉にスラ吉がプルプルと震える。


 リヴは山のようにある金塊に向かって勢いよく走り出していき、金塊を掴み空間収納に次々と金塊を放り込んでいく。


 対してスラ吉は身体の体積を大きくし、三メートル近くの大きさになり、宝石や魔術道具の置かれている一角で、大きな身体で宝石類を包み込んで器用に収納していった。


 リヴとスラ吉はまるで遊びに興じる子供のように、楽しそうに宝物類を我先にと回収していく。



 ◇◆◇



 リヴとスラ吉が宝物庫で遊んでいるちょうどその頃。ケヴィンは古代遺跡の一室で、食後の紅茶を飲んでいた。


 ケヴィンの隣に座る赤い髪の少女。

 彼女は人化した竜で名はアイシャ。

 その反対には金髪エルフの少女、ソフィが座りケヴィンは二人の少女に挟まれながら紅茶を堪能していた。


 ケヴィンは紅茶を飲みながら、落ち着かない様子で顎に手を当て考え込み小さくため息をつく。


 その様子を見てアイシャがケヴィンに声をかけた。


「マスター、リヴ様のことが心配なのですか?」

「あぁ、まぁ……そうだな。リヴのやつ大丈夫なのか?しっかりしてそうに見えるけど、あいつ色々と抜けてるところがあるからな。ディーケイにでも頼んだ方が良かったんじゃないかって、今さらながら後悔してるよ」

「うふふ、リヴ様でしたら大丈夫ですよ!私の次くらいにしっかりしてますので!」

「――いやアイシャの次くらいって。それって結構ヤバイレベルじゃないかよ!言っとくけど、アイシャはちゃんとしてないからな、結構散らかりまくってるぞ!」

「そうなのです!竜は脳筋だから頭おかしいのです!」


 ソフィの言葉にアイシャは半目で見つめながら「チビは黙っててください!」と言い放つと、ソフィは眉を吊り上げ「ウルセェのですチビ」と反論。


 ケヴィンは二人の間に挟まれながら呆れた表情を浮かべ「お前らどっちもチビじゃないかよ!」と言うと、二人は私の方が一センチ身長が高い、それは髪の毛の分だから誤差だ、と言い争いが始まる。


 アイシャとソフィ。

 二人は間に挟まれているケヴィンのことなど一切気にすることなく言い争っていた。

 そしていつのまにか身長から胸の大きさ、形の良さにまで発展していく。


 だが残念ながら二人は人間でいえば小学生くらいのお子様にしか見えない。

 ケヴィンはそんな二人の言い争いに構わずに、ゆっくりと紅茶を味わっていた。


「ねぇ、ソフィ。いつまでここにいるのかしら?集落の皆さんが心配しているかもしれません。そろそろ帰ったらどうですか?」

「ふふふっ、私はケヴィン様に魔法を教えないといけないのです。ソフィの一生をかけて、ケヴィン様の側で教えなければならないのです!集落の皆にもそう伝えてあるから心配無用なのです!」

「一生ですって?マスターの魔法は既に申し分ないレベルまで達しています!ソフィが教えられることはもうないはずです!いいからさっさと帰りなさい!」

「考えが甘いのですアイシャ!エルフの秘術は一生を費やして、側で支えながら相伝するものなのです!」


 エルフの少女、ソフィが言うようにケヴィンは古代遺跡に来てから約二週間強、彼女に魔法に関して色々と教わっていた。


 ソフィは北壁の森に住むエルフ族の一人。

 サンドエルが古代遺跡への案内をさせようとしていたあの一族である。


 サンドエルは兵士達を向かわせ強引にでも案内させようとしていた。

 しかしケヴィンはその話をベネスから事前に聞いており、先回りしてエルフの里に伝え、一緒に兵士達を返り討ちにしたのだ。


 その時に懐いてしまったのがソフィである。

 そしてケヴィンはソフィの案内で古代遺跡に辿り着き、リヴとアイシャに出会う。


 半月ほど前の話。

 ケヴィンが初めて古代遺跡に訪れたその日。

 ソフィの案内で古代遺跡に足を踏み入れた。


 ケヴィンが古代遺跡へと入ると同時に、宝具が収められている宝具の間では宝具が眩ゆいほどの光を放つ。

 その光は古代遺跡へ来たケヴィンを歓迎するような暖かく柔らかな光。


 その時に宝具の間にいたリヴとアイシャ、そして宝具を守る魔物達はすぐに理解した。

 王の来訪であると。


 宝具が光り出した一方で、ケヴィンの目の前でも不思議な現象が起こっていた。

 ケヴィンの目の前に突然一人の少女が現れたのである。


 しかもその少女は全身が透き通っており、ケヴィンが見た限りでは全てが魔力で出来ているようにも見えた。


 少女はケヴィンに微笑み、優雅に貴族のような礼をし、何か話したそうにしていた。

 しかし声が出ないことに気付く。

 少し残念そうな表情を浮かべ、手招きをしてケヴィンを遺跡へと促す。


 ケヴィンとソフィは少女の案内で遺跡の奥にある宝具の間へと導かれる。


 ケヴィンが宝具の間に入るとそれに応えるように宝具はより一層の光りを放ち、淡く温かな光がケヴィンの全身を包み込んでいく。

 奇跡のような光景。

 まるで神の祝福を受けるような、幻想の世界にでもいる感覚だった。


 光が収まるといつの間にか宝具がケヴィンの左腕に付けられており、案内をしてくれた少女の姿は無かった。


 その不思議な現象を目の当たりにしたリヴやアイシャそして魔物達。

 彼らはその日以降、ケヴィンのことを宝具に選ばれた王と崇めている。


 ケヴィンはその時のことを思い出し、宝具を見つめながら、

「なぁ、アイシャ。そういえば、この宝具がついてから魔力の調整が楽になったんだが、そういう効果とかあるのか?」

「そういう話は聞いたことありませんが、古代遺跡の宝具の中でも、そちらの宝具は特に膨大な力を持つと言われています。もしかすると付与効果で魔力調整を自動的にしているかもしれません。マスターはまだ魔力に馴染んでいませんので、しばらくは付けていた方が良いかと思います」


 ケヴィンはアイシャの応えに顔を歪ませる。


(魔力調整してくれるのは有り難いが、膨大な力を持っているって聞くと、ちょっとアレだな。この腕輪付けてから外したこと無いけど、ちゃんと取れるよな?コレ)


 ケヴィンは不安な表情を浮かべて、

「アイシャ、ちゃんと取れるんだよな?」

 と宝具を見つめながらアイシャに訊ねる。


 アイシャはケヴィンの不安な表情、そしてケヴィンの言葉に驚きながらも、

「もちろんですマスター!もう簡単に(天下が)取れます!ご安心ください!」

 と応えた。


 この何気ないやり取り。


 ケヴィンは宝具が腕から取り外せるのかと聞いたのだが、アイシャは天下が取れるのか?と聞かれたと勘違い。


 アイシャは貼り付けたような満面の笑みを浮かべていた。


(くっ、私としたことがマスターを不安にさせてしまいました。マスターにしてみれば戦力にまだまだ不安があるということなのでしょう。マスターがお望みである天下。このアイシャ、必ずやご期待に沿ってみせます!

 その為にも戦力を整え、マスターを不安にさせないようにしなきゃいけません!)


 ケヴィンはアイシャの応えに、安堵の表情を浮かべ「そうか、なら良かった!」と微笑む。


 この時点で、お互い勘違いしていることなど、知る術もなく二人は和かに笑みを浮かべていた。

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