表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/50

47.アクア 1

 47


 イニシアティ――ケヴィン達の住む古代遺跡――から南西に位置する聖・フィーリア。


 ケヴィン達が転移魔法で移動する頃、聖・フィーリアには夜の闇が訪れていた。

 眼前には白、緑、水色の三色の大理石で作られた壮大な建造物――アグレッシア大聖堂。


 高さ五十メートルを超える巨大な建造物は細やかな装飾が施され、フィレンツェにある大聖堂を思わせる。


 正面扉にあるレリーフなどは絹のようになめらかな模様で、彫刻とは思えないほど見事な出来栄えであった。

 その数々の彫刻を松明の炎が陰影を浮き上がらせ、揺らぐ炎に照らされた大聖堂は神秘的な雰囲気を醸し出していた。


 転移時に予めベクターの木の葉隠れの術で姿を消しているケヴィン達。周辺を巡回する兵士達を気にせず大聖堂の中へと侵入。


 内部に詳しいディーケイを先頭に、一行が堂内を歩いていく。


『ディーケイ、反応は地下からだ。地下に通じているところへ向かってくれ』ケヴィンが念話で支持を出す。

『了解ですマスター!ですが地下に行く扉の前に警備員用の部屋があったはずです。如何しますか?』

『それならば拙者にお任せください!』

 と、ベクターが胸を張る。


 兵士達が聖堂内を警戒する内、四人はベクターの術により堂々と歩み進めた。

 しばらく聖堂内を歩くと地下通路へとたどり着く。


 地下は聖堂内とは雰囲気が全く異なり、血の匂いがするような、陰湿な空気が漂っていた。


 分厚い鉄扉の前には剣を持つ兵士が立ち、空気口は鉄格子で覆われ、まるで牢獄のよう。

 鉄扉付近には兵士達が滞留する部屋が用意されている。


 目の前にいる二人の兵士。そして周囲の気配を辿るとここにいる兵士達は十人にも満たない。


 先頭を歩くディーケイが立ちとまるとベクターへ視線を送る。

 頷きで応えるベクター。

 落ち着いた様子で一歩前に出て、ふっと息を吐き、素早く手で印を組む。


 12種類の印を組み、ベクターが「幻夢導の術」と言うと小指ほどの大きさの蟲が現れ、一斉に兵士達へ向かい飛んで行く。


 蜂のような形態の小さな蟲達は羽音も立てずに兵士達へと近づく。

 そして尾ていに付いた針で兵士達を刺していった。


 刺された兵士対応はふらふらと足元をふらつかせ、ゆっくりと深い眠りについていく。


 ひと仕事終えた蟲達はポンッと煙を出し消えていった。

 魔法ではない不思議な術。

 思わず感嘆の声を上げるケヴィンにベクターは『さ、参りましょう』と誇らしげ。案外お調子者である。


 まずは兵士達の詰所内を調べる。

 中にいた兵士達も眠りについていた。詰所内にはケヴィン達が望むような物は無かった。


 詰所を出て四人は大きな鉄扉の前に立ち、


『あっ、鍵がかかってんな。詰所を調べてみるか』

『お待ちください主人殿。我々の術に解錠の術があります故、鍵は不要で御座る』

『ほう、そんなことも出来んのか。凄えな、じゃあベクターを任せる!』

『御意に』


 自信満々として応えるベクター。

 ケヴィンとディーケイはベクターの使う不思議な術にすっかり魅せられていた。


 ティアが心配そうにベクターへと駆け寄るが、ベクターが手で制す。


 期待の眼差しの中、ベクターは片開きの鉄扉に手をかけ……


『解錠の術・改』と唱えた。


 ベクターの手に力が入る。

 腰を落とし、顔がどんどん赤みを帯びていく。

 むむむと唸りながら額に汗を滲ませる。

 メキッ、メキッと鉄の曲がる音。

 そして……パキンと聞こえた破壊音。


 ベクターが振り向き、満面の笑顔で、

『さ、主人殿。開きました、早速中へ入りましょう!』

『おいベクター!今の術とかじゃなくて力技じゃねーかよ!俺の期待を返せぇぇぇえ』

『本当ですよ、いつもの不思議な術じゃないなら勿体ぶらないでくださいベクター殿』

『そうで御座る父上!こんなのは解錠の術じゃないで御座るよ!』

『ん?!じゃあ解錠の術ってちゃんとしたのがあるのか?』

『あるで御座るよ主人殿。父上は解錠の術が苦手だから力任せに、ただ錠を壊しているだけで御座る!』

『はあ、だったらティアにやってもらいたかったな。ティア、次は頼むな!』

『任せてください主人殿!』

『も、申し訳ない主人殿』


 肩を落とすベクター。

 木の葉隠れの術、幻夢導の術で、思った以上にケヴィンとディーケイの反応が良かった為、調子に乗ってしまった。


 苦手な解錠の術を、調子に乗っていつもどおりにうっかり使ってしまい、批判を浴びてしまうベクター。

 ベクターは『解錠の術・改』として使っているが厳密には錠を破壊する力任せの技。

 勿論、一族の中ではベクターの言う『解錠の術・改』を解錠の術として誰も認めてはいない。



 ◇◆◇



 扉の中へ足を運ぶとそこは教会とは思えない、陰湿な雰囲気。至る所に血痕があり、まるで砦にある地下牢のようだった。

 湿った空気が肌にまとわりつき、微かに血の匂いが鼻をつく。

 等間隔に置かれた灯火が不気味さをより印象付けていた。


 鼻をつく不快な匂いの中、ケヴィン達は地下を歩いていく。静かな地下道には水の流れる音だけが響いていた。

 途中、見回りの兵士がいたが、ベクターとティアが幻夢導の術で眠らせ目的の場所へと急ぐ。


 地下三階まで降りると、視界の奥にはこれまでと違って堅強な扉に守られた部屋が見えた。


 奥の部屋へと向かう途中、ケヴィンはある部屋の前で足を止める。


『ん、ディーケイ。この反応って』

『はい、魔力が小さいので恐らく捕らえられた子供達とかかと思います』

『本当、屑だなこの国は。ティア、解錠してくれ!』

『了解です!主人殿』


 ティアはタタタッと走り、扉の前に立つ。


 胸の前で印を組み『解錠の術』と唱える。今度こそちゃんとした解錠の術だ。

 ティアの印から液状の物体が出て来て、スルスルと錠に纏わりついていく。そして鍵穴へと入り込むとガチャリと錠が開く音。

 液状の物体はポンッと煙を出し消えていった。


 扉とを開くと中には痩せ細った子供達。

 皆。力無く寝そべったり壁に寄りかかっていた。

 ケヴィン達に反応するが目は虚ろで、子供達のその姿は痛々しかった。


 ケヴィンが舌打ちし「クソッ」と零す。

 それからディーケイに子供達を転移魔法で遺跡へと送るように指示を出す。


 四人は子供達を抱き抱え、何度か遺跡へと往復し子供達を保護した。

 その数、二十六人。

 その中にはようやく歩けるような歳頃の子供までいた。


 これに怒りの収まらないケヴィン。

 その後はベクターの幻夢導の術を使わずに、殴って兵士達を無力化していた。


 四人は奥の部屋までたどり着く。

 ケヴィンが反応を確認すると、精霊はやはりこの中にいるようだ。


 ティアの解錠の術で扉を開ける。

 中はこれまでの部屋と異なり天井が高く、広さ三十メートル四方の部屋。

 中央には鉄製の大きな機械類がコードで繋げられ、その上には大きな水槽。

 中には溶液に浸された水の精霊アクアがいた。


 彼女は目を閉じて眠ってるようにも見えた。

 薄青色のウエットスーツのようなものを纏い、短い髪の毛が水の流れで微かに揺れる。

 ハルナのように幼さが残る容姿。

 中性的な顔立ちをしており、身体中に管を刺されている姿が痛々しい。


 ケヴィン達が水槽に近づくとアクアが反応した。


『ル……ナ?ルナなの?』

『悪いがルナじゃない、ルナの頼みで君を助けに来た!動けるか?』

『んんっ、魔力が少なくて全然動けないや。目も見えないし、僕のことはいいから君達は早くここから出た方がいいよ』

『おいおい、今来たばかりだぞ?今そこから出すから少しだけ待っててくれ』


 ケヴィンがトンッ、トンッと機械類の上を登り水槽の上に立つ。そしてすぐに水槽の中へと潜っていった。ディーケイもケヴィンの後に続く。


 二人でアクアの身体に刺さる管を取っていると――『誰か近づいて来る』とケヴィンが念話で警戒を促し手を止める。


 程なくして一人の少女が姿を現わす。


「誰か、誰かいるのですか?!」

『ベクター』ケヴィンがベクターを見向き指示を出す。ベクターは『御意に』と応え幻夢導の術を発動。

「アクアちゃん、大丈夫ですか?アクアちゃ……ん」少女が何かを言い終える前に幻夢導の術にかかり眠りに落ちる。


『あっ、悪い。知り合いだったか?ちょっと眠ってもらった』

『多分、今の声はリリアだと思うけど』

『そういえば目が見えないって言ってたな。ちょっと待ってろ、今魔力を送る』

『んんっ?!』

『キツイか?』

『んーん。ちょっとびっくりしただけだよ。ありがとう!あっ、やっぱりリリアだ。危ないから来るなって言ったのに』

『やっぱ知り合いか、身体に害はない。眠らせてるだけだ、一日経てば起きるだろう』


 その言葉にアクアは安堵し、視線をケヴィンへと向ける。そしてまじまじとケヴィンを見つめ、

『えっ、嘘?!ローゼス?ローゼスなの?生きてたんだ!僕だよ、アクアだよ!ねぇ、覚えてないの?』

 動かない身体のままアクアは訴えた。


 ケヴィンは管を取りながら『悪いが人違いだ。名乗るのが遅れたが俺はケヴィン、そいつはディーケイだ』と言い、作業を続ける。


 アクアは我に返り『そ、そうだよね』と言い表情が曇る。

 そんなアクアを気にしたケヴィンは『まぁ、生きていればまたいつか会えるさ、体調はどうだ?』と訊ねた。


 管が取れた手足を動かすアクア。

 思うようには動かない。

 

『うん、まだ上手く動かないかな』

『そうか、よし全部取れたな。動かないならこうするしかないな』

『うわっ、ちょっと!ケ、ケヴィン、僕この体制恥ずかしいんだけど!』


 ケヴィンにお姫様だっこされるアクア。

 次第に顔を赤らめさせケヴィンから視線を逸らす。

 ケヴィンはそんなアクアに構わず、抱き抱えながら水槽の中から脱出。


 一度アクアを水槽の上で待機していたディーケイに渡し、上部にある機械類の上に立つと再びアクアをディーケイから手渡され抱き抱える。


 アクアは恥ずかしさのあまり『ケヴィン、だからこの体制恥ずかしいよ』と抗議。

 ケヴィンはそれならばとアクアを背負う。

 それでも恥ずかしさが残るアクア。

 ケヴィンの背に顔を埋めながら『うぅ、これも恥ずかしい』と呟いた。


『わがまま言う子は大きくなれないぞ!』

『ちょっとケヴィン!僕、こう見えてもケヴィンの何倍も生きてるんだからね!』

『あー、そういえばそうだったな。それよりあの子どうする?』

『リリアのこと?』

『あぁ』

『リリアは僕の大切な友達なんだ。出来ればここから連れ出して欲しい!』

『でも急に居なくなったら怪しまれないか?それに本人の意思もあるし』

『この子は凄く良い子、こんな場所にいるべきではないんだ!リリアが起きたらその辺は僕が説得するから!』

『まぁ、確かにここの連中は屑が多いみたいだからいい環境ではないな。ベクター!その子も連れて行く、頼むぞ!』

『ハッ、畏まりました』


 ベクターがリリアを抱える。

 ケヴィンは機械類を飛び降りると周囲を見回し、先程までアクアが入っていた水槽を見上げ『全部壊すか』と呟く。


 ディーケイは天井を見上げながら、

『マスター、あちらも魔術道具のようです』と応えた。視線の先には天井の一面を覆うほどの巨大な造形物。

 逆ピラミッド型の形を成し、先端部が水槽の上にある機械類と繋がっている。


 ケヴィンは表情を変えず『ならアレも壊すまでだ』と応えた。


 アクアを背負いながら巨大な建造物へと右手を翳す。ケヴィンの前には魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣は直径十メートルは超える大きさ。

 突然現れた魔法陣にアクアが『何、何?!魔法?!』と困惑している。

 灯火に照らされた薄暗い部屋がまばゆいほどの光に包まれていく。

 一瞬、光と影の世界となり――そこから魔法が放たれた。


 光は渦を巻くように天井の建造物を飲み込む、光が収まるとそこには何もなかった。

 そう、何も無いのである。

 巨大な建造物も天井も。

 天井だったそれは、大きな穴を開けられ美しい星空が見える。


 あまりの出来事にアクアは唖然とした表情で、

『えっ、と。ケヴィンって人族だよね?』

『ん、人間。人族だぞ』

『本当?人族で、この規模の魔法を使うなんて僕、見たことないんだけど』

『あー、じゃあ魔法が進化したんじゃないか?今のは初級魔法をアレンジしたやつだからな。アクアがここにいる間、魔法技術も進んだってことだろ』

『そ、そうなの?』

『アクア殿、マスターの魔法に関しては規格外でございます。あまり深く考えない方が』

『おいディーケイ、その言い方だと俺がおかしいみたいだろ!』


 ケヴィン達の隣ではベクターとティアが口をあんぐりと大きく開けて空を見上げていた。

 彼らは初めてケヴィンの魔法を見たのである。


(あー……主人殿はやっぱり凄いで御座る!天井に穴が開いたで御座る……)


 ティアがパチパチと瞬きをし、呆然と空を見つめる。時折、見間違いかと思いゴシゴシと目を拭うも、やはり天井に開けられた穴はそのままだった。


 それからケヴィン達は室内にある、あらゆる機械類を魔法で破壊していった。

 そしてひと通りの破壊を終える。


 最後の仕上げとして大聖堂前。

 転移した場所へと戻り、お決まりになりつつある血の雨を降らせ、天誅の文言も忘れずにいれ、遺跡へと転移した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ