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46.ルナ

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 ケヴィンの腕輪が光を放つ。


 同時に周囲――大地、木々から青い粒子がふわりと浮かび上がった。

 視界を覆い尽くす青い粒子。まるで別世界にいるかのような場景。


 何千、何万もの青い光。

 花びらが舞うように、ゆらりゆらりと舞い上がり、風に運ばれるようにケヴィンヘと向かう。

 

 ケヴィン達はその様子をただひたすらに見つめていた。

 害意は感じられない。

 むしろ青い光は温かく、優しい温もりすら感じた。

 唖然と見守るケヴィン達の中で、四人の狂信者達だけは跪き恍惚とした表情で祈り始める。


 青の粒子。

 一つ、またひとつと重なり合う。


 集まった光は次第に人の姿へと変化していき、やがて少女へと姿を変えた。

 金髪、青い瞳の少女。

 その少女はケヴィンが初めて遺跡に来た時に出会った少女だ。


 突然現れた一人の少女。

 その美しさに皆、魅入られてしまう。


 少女はケヴィンヘ歩み寄り、スカートの両端をつまみ頭を下げる。

 この世界にはない洗練されたドレス、美しい顔立ち。


 少女は頭を上げると、満面の笑みを浮かべケヴィンを見つめ、


「やっと、会えましたケヴィンさん!」

「君は初めてここに来た時に会った――」

「――はい、ルナと申します!ケヴィンさん、仲間達を――皆を救ってくださりありがとうございます」

「ということは、君はやはり宝具なのか?」

「えーと、半分は正解です。その辺のことを詳しくご説明したいのですが、実はここに姿を留めていられる時間がありません。その件はまた改めて説明させてください。

 私が今日ここに来たのはケヴィンさんにお願いがあって来ました」

「ん、お願い?」

「はい、仲間達にここにまでしてくださったケヴィンさんに頼むのは心苦しいのですが、私には頼める人もいなく……」


 悲痛な表情を浮かべるルナ。

 彼女が言葉に詰まるとケヴィンはすかさずフォローする。


「あー、君がいう仲間達がここにいる者達なら、俺にとっても大切な仲間だ。それに皆にも色々助けられているし、勿論この宝具にも助けてもらっている。俺に出来ることなら、遠慮なく言ってくれ!」


 ルナはケヴィンの言葉で安堵し、少しだけ表情が和らぐ。


「ありがとう!ケヴィンさん。今日、私がここに来たのは、私のお友達が危険な状態で、その、私達のように魔力を基とした生命体はケヴィンさんを通じて彼女の、えーと説明が難しいのですが、彼女と通じ合うことが可能です。それが数日前から、彼女の反応が弱くなっていて、それで私……どうしたらいいか分からなくて」

「なるほど、君の友達が危険な状態。それで俺に状況を見て来て欲しいってことか」

「はい、お会いしたばかりのケヴィンさんに頼むことではないのですが」

「ん、それは構わない。とりあえず話を聞こう。で、さっき俺を通じて友達の状態が分かるって言ってたけど、俺にも分かるようにリンクさせることは可能なのか?」

「はい、えーと。これでどうでしょうか?」


 ルナがケヴィンに近寄り、そっと宝具へ手を添える。

 すると宝具が淡く光り――

 ケヴィンはルナが言っていた反応というものを感じることが出来た。


 それは感覚的なものであり、目の前にある物に手を伸ばして取るように、おおよその距離と場所が分かり、その大きさまでもが把握できた。


 遠く離れているはずなのに、まるで目の前にいるかのような不思議な感覚。


 ケヴィンがこれまで培った常識にはない、探知方法だった。


「凄いな、これが君の友達の居る場所?」

「はい、ここから南西にある場所でずっと動かない状態です。私はずっとイニシアティ――古代遺跡――の深部にいたので、ここ三百年ほど世界についての状況が分からないので、そこがどういう場所か分からないのですが……」

「多分、場所的に聖・フィーリアだな」

「聖・フィーリア、聞いたことがありません。やはり三百年も眠っていると、知らないことがあり過ぎて駄目ですね」

「そんなこと――ん?!ルナ、身体が」

「えぇー!嘘、もう消えかけてる?せっかく皆と会えたのに、短すぎるよ」


 ケヴィンと話をしている最中、ルナの身体にノイズが走ったように――まるでパズルのピースが剥がれ落ちるように身体の一部がなっていく。


 ルナは残念そうな表情を浮かべるも、端的に説明を重ねる。状態を確認して欲しい友達というのは水の精霊アクア。

 彼女もまたルナと同様に魔力を基にした生命体。

 ルナの推測では反応が弱くなっているのは、魔力を使い続けているからではないかと考えていた。


 ルナ達のような魔力を基とした生命体は、魔力が枯渇すると核――人でいう心臓が機能しなくなり消えてしまう。

 普通ならば大地、水、大気中に存在する魔力を吸収し維持するのだが、使う魔力量によっては枯渇してしまう。その危険な状態にあるのが水の精霊。


 ルナはすがるような想いでケヴィンへ願う。

 どうか助けて欲しい。二千年の時を共に過ごした大切な友人。失うのが怖い。

 焦り。恐怖。祈り。

 その表情は大きな悲しみを滲ませ、切迫した状態というのは誰の目から見ても明らか。


 ケヴィンはルナに助けることを約束し、話を進めていく。


 魔力が枯渇した状態を回復するには、精霊の身体に触れ魔力を送ればとりあえずは窮地を逃れ、後は体内の機関が元の正常な状態へと戻していくという。


 精霊の処置を聞いたケヴィンは消えかけているルナを心配そうに見つめ「ルナは大丈夫なのか」と訊ねた。

 そう心配するのは当然のことで、今聞いた話が目の前のルナに起きているのだ。

 ルナは優しく微笑み言葉を返す。


 ルナの場合は精霊と違い宝具――イニシアティリングに核があり、破壊しない限りは大丈夫だという。


 今回、外へと出て来たのは、ケヴィンを通じて外の様子が分かるようになり、友達の状態が心配で出て来た。

 ルナがいうには本来ならば、もう少し仲間達――魔物達や獣人族の契約者――が集まらないと、外に出れないらしい。

 その為、外の世界で姿を留めていられる時間も限りがあった。


 ルナが説明を重ねている間も、時間は確実に過ぎている。その姿もケヴィンが出会った頃のように半透明になっていき、所々穴が開くように抜けていく。


 残された時間がないと悟ったルナはゆっくりと周りを見渡し、周囲にいた魔物達、獣人族達へ、まるで我が子を見守る母のような慈愛に満ちた眼差しで一人ひとり見つめる。


 一方、視線を向けられた魔物達、獣人族はその温かな眼差しに頭を垂れていく。

 どこまでも深い愛情。

 慈愛。無償の愛。

 ルナの瞳にはその深く、温かな優しさが含まれていた。


「ケヴィンさん、残念ですが……時間が」

「あぁ、そのようだな。色々と聞きたいことはあったんだが、また会えるんだろ?」

「はい、またお会い出来ると思います!」

「精霊の件は心配すんな!俺達が何とかする」

「本当に、本当にありがとうございます。では……の件、……しく……がいします」

「了解、またなルナ」


 ルナが霧のようになってゆっくりと消えていく。


 再会はほんの僅かな時間だった。

 三分にも満たない時間。

 ケヴィンはそんな僅かな時間でも再び出会えたのが嬉しかった。


 本当はもっと沢山の言葉を交わしたかった。聞きたいことも山ほどある。

 遺跡について、イニシアティリングと呼んでいた腕輪について。

 魔物達や獣人族達について。


 しかしそれらを聞くには今回は時間がなかった。

 だがルナの口からまた会えると聞き安堵した。

 

「イニシアティ、か」

「マスター、イニシアティとは古代言語で『闇の中に差す光』だったと思います。まさにマスターに相応しい言葉です!ちなみに現在はこの言語から派生した言葉で『先導者』という意味合いもあります。これこそマスターを現す言葉。このディーケイ、そんなマスターの配下であることが幸せであります!」

「ん、落ち着けディーケイ。ルナに頼まれた一件もあるし、今からそんな興奮してたら持たないぞ!」

「ハッ、失礼しました!では早速、打ち合わせの準備を」


 ディーケイがそう言うと足早に遺跡へと駆け出していく。


 ケヴィンはディーケイの後ろ姿を見送り、ふと焼肉パーティーが開かれているコンロの方へと視線を移すと……

 そこには涙を流し手を合わせている狂信者の四人。いや、その他にも彼らのクランメンバー達も同様に手を合わせていた。

 魂が抜けたような幸せそうな表情で。


 それを見たケヴィンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 まずい――と本能が訴える。

 先程のルナとのやり取りは、今の彼らに一番見せてはいけないものだった。


 自分の目を疑ってしまうような幻想的な光景。古代言語のイニシアティという言葉の意味。そして――神の奇跡。

 信仰は時として都合の良いように解釈される。


 ケヴィンにとってのルナとの再会は彼らの信仰をより深く、より厚いものとしたようだ。


 ケヴィンは見間違いであって欲しいと願いつつ、近くにいたベクターに声をかけ、遺跡へと足を運んだ。



 ◆◇◆



 ケヴィンはダイニングルームで打ち合わせを重ねていた。


 まず向かうメンバーはケヴィン、ディーケイ、ベクターとティアの四人。


 状況が全く分からない為、とりあえずは最小人数で向かい、必要に応じてケヴィンが召喚するかディーケイが転移で追加部隊を連れてくることになった。


 お子様組が付いて行きたいと駄々をこねたが、ケヴィンは間違いなく潜入する形になると言い、潜入に向かないお子様組は置いていくことにした。


 その潜入先。

 ケヴィンが感じるアリアの反応が示す場所。

 聖・フィーリアにある大神殿。

 間違いなく神殿に何らかの形で、その身を留めているのだろう。


 ケヴィンは地図に指を巡らせ、ディーケイに転移位置を確認。


 ディーケイは何度か聖・フィーリアの大神殿に来たことがあり転移は可能だった。

 というのも昔、研究に必要な資料を見るため大神殿の図書室へ何度か潜入していたらしい。


 研究のこととなると危険を顧みないディーケイに、ケヴィンは呆れながら話を進める。


 今回は状況によっては精霊アクアを保護する可能性があるので、潜入は壊さず、殺さず、迅速に対応していく方針だ。

 大神殿の中にいるといっても、それが治療や保護されているのか、または捕らえられているのかがはっきりとしていない。


 だからこそ余計な争いの種になることを避ける。

 もちろんアクアが不本意に拘束されているならば容赦はしないつもりだ。


 ひと通りの打ち合わせを終え今夜、聖フィーリアの大神殿へと向かう。


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