42.冒険者 4
42
――リエラ王国冒険者ギルド・応接室
イジー達がリエラ王国の冒険者ギルドへ報告してから一週間が過ぎた。
その間、ケヴィン達によって帝国冒険者ギルド長の擬装依頼の証拠品等が集められ、今日はその報告へケヴィンが来る予定である。
約束の時間を前に、緊張した面持ちの『金色の騎士』のメンバー四人。
彼らの服装はもちろん正装の黒スーツ。
もちろんケヴィンと同じ仕様のもの。
いつの間にか悪化している症状を前に、グレイはただ笑うしかなかった。
ほどなくして応接室にディーケイ、そしてケヴィンが姿を見せる。
四人はケヴィンを見ると歓喜溢れる表情を浮かべ、すぐさま立ち上がってからの最敬礼。
まるで練習でもしたかのような全て揃った所作。
それから最敬礼の体制で「お初にお目にかかります神様、お会い出来て光栄です!」と四人はシンクロさせて挨拶。
ケヴィンは目の前の光景を見て顔を引きつらせている。
(怖ぇぇぇえ!何これ、凄ぇ怖いんだけど。
大丈夫なのかこいつら?!ってか、神様ってなんだよ!誰の影響を受けてそうなった?!)
ケヴィンの隣にいるディーケイは新たな信者を見つめ、コクコクと頷き目を輝かせている。
ケヴィンとディーケイが席に座る。
だが四人は最敬礼を維持したまま。
ケヴィンが困り顔で席に座るように促すと、残像が残るようなスピードでソファーに座る四人。
お互い挨拶を済ませて、ケヴィンが話を始める。
「今回は君達を巻き込むような結果となって済まなかった」
「いやいやいや、神様。むしろ今回このようにお会い出来て嬉しく思っております!」
「ん、神様は至高の存在。むしろご褒美!」
「ビビアンのいう通りです。だから神様、お気になさらないでください!」
「俺、いや私は今日の為に生まれてきたといっても過言ではありません!」
「おぉ!皆さん、マスターの素晴らしさを理解しているのですね。いや、実は――」
「――ちょっと待てディーケイ!落ち着け、ブリッジを何回もクイクイすなっ!」
会談の頭からディーケイスイッチ――これから熱く語りますという合図――が何度も実行。
これまでケヴィンはディーケイスイッチを何回も見て来たが、何度もスイッチを入れるのを見たのは初めてで、これには流石に焦って話を止めに入った。
しょっぱなから、まともに話が出来ない。
ケヴィンは少し間を置いてから今回の件について報告を重ねていく。
その内容はギルド長による擬装依頼の証拠書類、会話の録音・録画の素材、依頼人に関する情報。
その依頼人に関してもギルド長同様に証拠品を押さえてある。
「まぁ、ギルド長に関しては見て貰った方が早いだろう。君達は被害者だからな。ディーケイ、アレを用意してくれ!」
「了解です。マスター」
ディーケイが空間収納から録音・録画の魔術道具を取り出し、テーブルに専用スタンドを置き、皆で観れる位置へと設置する。
魔術道具に融合結晶をはめ込む。
この融合結晶は録画した内容を良きようなところだけを切り取り編集したもの。
ディーケイが魔術道具を起動させ、映像が流れていく。
映像に映ってるいるのは帝国冒険者ギルドのギルド長と副ギルド長……
『――それでギルド長、金色の連中が帰って来たら如何致しますか?』
『まぁ、何時も通りじゃな。第一皇子が奴等に冤罪をかけて捕らえられるじゃろう。そしたら前のクラン……』
『スティングのクランでしょうか?』
『そう!それみたいに処分されるじゃろうな。所詮冒険者などはそんなもんじゃろうて。第一皇子が罪と言えば覆すことなど出来ん。今のうちに第一皇子に功績を挙げて貰わんと第三皇子に次期皇帝の椅子を取られかねん』
『確かに第三皇子の勢いは脅威ですからね。しかし第一皇子の陣営は先日商業ギルドと鍛治ギルドの連中を大量に粛正したばかりですが、大丈夫なんでしょうか?』
『心配することなかろう。所詮は平民の連中、皇子の功績となるのじゃからむしろ光栄じゃろう』
映像を見ている四人はまさに怒りの形相で、拳を握る手の色が変わるほど力が込められていた。
各ギルドの大量粛正は帝国内で周知された内容であり、つい先日商業ギルドの重役を含めた職員と鍛治ギルドの職員が大量に粛正されている。
このことは大々的に公示され、第一皇子が国政を蝕む不正を暴いたとし、英雄のように扱っていた。
もちろんそのような事実はなく、ケヴィンが調べた結果、全て冤罪であった。
粛正された者達は家族を含めて百人は超え、帝都では大きな反発の声が上がっている。
「クソッ、馬鹿みてぇな話だぜ!あんなクソ皇子の為に何人もの人間が死んでいったなんてよ!」
「彼奴ら、絶対に許さない!皇子諸共この手で葬ってやりたいわ!」
「ん、同感。城に極大魔法ぶっ放す!」
「そんな、あんな奴の為にスティング達が殺されたのかよ……畜生!」
四人は各々、苛立ち、憤怒を吐き出す。
権力による理不尽。
道理に外れた所業であっても、皇族がそのように言えば抗うことは出来ない。
故にやり場のない気持ちが溢れ出す。
ケヴィンはそんな四人をじっくりと見据え、
「この件に関しては俺の方で手を打っている。君達も思うところがあるだろう。だが彼らへの報復は被害者の家族や友人達がするべきだと思う。俺達はその報復に最大限の協力をするつもりだ。最悪、俺達が関係者を捕まえて来て、報復のお膳立ても考えている。だから、この後のことは任せてくれないか?」
と真剣な表情で伝える。
この件に関しては昨夜、ドイル、ルシエル、グレイの三人と意見交換をした上での結論であった。
ケヴィン達が皇子への報復に動けば事態はすぐに解決するだろう。
しかしそれで解決しても、長い時間を共有した家族や友人達の気持ちはそれで収まることはない。
彼らは何も出来なかった自らを責め、後悔するだろう。
ほんの些細な反発、反抗でもいい。
抗うことの出来ない理不尽な結果。
それに対して残された家族や仲間が第一皇子らと対峙し、一歩踏み出し、死んでいった者達の為に行動を起こすことが、残された者達が報われるのではないか。
そして商人や住民達は黙って見過ごすほど馬鹿ではない。
武器は無くとも個が繋がれば巨大な組織へとなり得るし、武力がなければ雇えばいい。
ケヴィンはそのように考えていた。
ケヴィンは『金色の騎士』のメンバー四人に、自らの考え、第一皇子らへの報復、そのサポートなどを話していく。
彼ら四人は話を聞くうちに緊迫した雰囲気が次第に和らいでいき、その細やかな作戦に聞き入っていた。
「なるほど。流石は神様!完璧な作戦」
「ん、まさに神託」
「なあ、その神様って言うの何とかならないのか?」
「では我が神で、如何でしょう?」
「いや、内容変わらんだろ!」
「ん、それなら至高にして究極の存在ケヴィン様にすべき!」
「長えよ!そもそも、何でこんなことになってんだ?」
ケヴィンの疑問に四人の狂信者達は身を乗り出しながら説明をする。
黒騎士との対戦。
その種族を超えた異常といえる強さ。
そしてイヴとの出会いによって、その力を引き出したのが神様――ケヴィンであることを知り、ケヴィンに傾倒したこと。
彼らにとって力とは憧れであり、心から尊敬し、讃えるもの。
そしてハルナとの出会いによって、その信仰は過熱していき、ケヴィンがどれだけ素晴らしいかを本人を目の前にして語る四人。
あまりにも熱のある四人に対してケヴィンとグレイは呆然としながら聞いていた。
(怖ぇぇ!何なのこいつら?凄ぇ暑苦しい!クラン名が『金色の騎士』とかいうから、まともかと思ったら皆、少しずれてるし。
一人はド派手な髪型に隣がゴリラ。魔法使いの女の子は眠そうな目付きだし、回復役の娘は縦ロール、初めて見たんだけど。お嬢様?
これで騎士だったらぶっ飛び過ぎだろ。
けどまぁ、悪い奴らではなさそうなところが救いか)
「な、なるほどな。理解したくはないが、言いたいことは分かった。それで君達を今回巻き込んでしまった、お詫びに何か出来ることがあれば――」
「――是非、神様から黒騎士殿のように戦闘におけるご教授を!」
「あー、そうか。君達は今ハルナに剣を教えてくれてたんだったな。そっちの子達は魔法使いか?」
「「はい!」」
「なら、そうだな。ハルナに剣の基礎を教え終わったら、一度ハルナと一緒に魔法を四人に教えるというのはどうだ?」
「魔法でしょうか?」
「そう!君達二人は前衛みたいだけど、黒騎士達は身体強化の魔法で格段に強くなった。今さら俺が剣技を教えるよりは、遥かにいいだろう。身体強化や魔法を使う上での根本的な理論を理解して使いこなせば、更に高いステージの戦闘をすることができる」
「是非是非お願いします!」
「でも神様、ハルナちゃんは魔法が使えないのではないでしょうか?」
「あぁ、今のところな。だけど体内に蓄積されてる魔力量は相当なものだ。ハルナはそれを上手く使えないだけで、教えれば君達と戦った黒騎士を超えるポテンシャルはある!」
ケヴィンの意外な答えに驚く四人。
戦い方について学ぼうとしていたが、ケヴィンの口から魔法を教えるという言葉が出るとは思ってもいなかった。
四人は剣技や戦闘技術こそ黒騎士の強さの根源であると思っていたのだ。
しかしケヴィンがいうには魔法こそが戦闘能力を高め、格段に強くなるという。
しかも魔法が使えないハルナに黒騎士を超える素質があるとも。
このケヴィンは言葉には否応にも期待が膨らむ。
四人は眼を輝かせ、まるで子供のように無垢な笑顔を見せていた。




