40.冒険者 2
40
――リエラ王国冒険者ギルド
冒険者ギルドの応接室では金色の騎士の四人がギルド長であるグレイに、帝国ギルドにて受けた依頼について報告をしていた。
「あー、やっぱりその依頼はギルドを通した依頼じゃないみたいだね!」
「マジかよ?!あのクソ爺、ギルド依頼でそのうちSランクの強制依頼になるとか抜かしやがって!」
「ん、悪質な職権濫用。処罰すべき!」
「そうだね。そもそもあそこは特定重要保護地域だし、そういう依頼はないはずだよ?」
「それは私達のミスね。一度リエラのギルドで情報収集してから行くべきだったわ!」
「あぁ、それは確かにそうだわな」
イジー達は帝国冒険者ギルド長に騙されていた。イジーの懸念が当たっていたのだ。
しかしそれとは別に面倒な予感。
それは冒険者ギルドを通さずに多額の報酬を出す依頼者についてである。
間違いなく貴族が絡んでいるだろう。
今後について話し合いを進め、グレイは先程話に出した特定重要保護地域の書類をテーブルに並べ、内容を説明していく。
これはイジー達の目で確認し、本物であると理解してもらい、リエラの冒険者ギルドがイジー達の信用を得る為でもあった。
「しかし面倒なことになりそうだな」
「本当、また貴族絡みなんて」
「どうすんだ?イジー」
「あー、この件だけどね。場所があの御方と関係があるから、一度私の方から報告するから二、三日ほど時間をくれないかな?」
「「神様のこと知ってんのか?!」」
「えー、と。神様?!」
「ん、デスアーマーのマスター。銀髪の少年が神様と言ってた」
「なるほど、それは多分リヴ君だね。まぁ、あの御方はこの国の国王よりも遥かに上位の人だけど、ついに神様になったのか」
「何でもいいから教えてくれ!神様に教えを請いたいんだ!」
「ん、私達敬虔な信者!」
帝国ギルド長の話があらぬ方向へとねじ曲がっていく。
四人とも身を乗り出す姿に、グレイは苦笑いを浮かべながら「凄い食い付きだね」と呆れていた。
四人から勢いよく質問が飛び交うが、グレイは私の一存では話すことが出来ないと断りを入れる。
そしてしばらくの間、四人はまだ見ぬ神様が如何に素晴らしいのかという布教活動に発展。
「な、なるほど。イジー君達の熱意は伝えておくよ。まぁ元々、私の方にも帝国が変な動きをするかもしれないと言ってたから、あの御方も予想していたかもしれないけどね」
「ん、流石神様!」
「なんかもう貴族のことなんか、どうでもよくなってきたな!出来るなら神様にお会いしてぇぜ!」
「本当に好きなんだねぇ。なら王都にいる間、エレイン商会に行ってみたらどうかな?あの御方にも所縁の深い店だから」
「よし!行くぞ」
「おう!」「ん!」「急ぐわよ!」
「ちょっ、ちょっと待ってよイジー君。まだ話終わってないでしょ?」
もう話が終わったとばかりに立ち上がって扉に身体を向ける四人。
それを慌ててグレイが引き留める。
引き留められた四人は「まだ話あるの?」と、大人としては晒してはならない残念な表情を浮かべ、渋々話を聞くことに。
グレイの話とは帝国ギルドに知らせずに進めたいので、今日聞いた話は四人の中で留めておいて欲しいということ。
それにケヴィンに相談してから方針を決めるので、二、三日待って欲しい。その間に依頼を受けてしまうと帝国ギルドに怪しまれる可能性があるのでクランメンバーにも依頼を受けないで欲しいという旨をグレイは説明。
それから、方針が決まったら、ギルドから連絡するので泊まっている宿を教えて欲しいとお願いされる。
グレイの話を聞いている四人はSランクらしからぬ、ソワソワと落ち着かない様子で話を聞く。
ようやく話を終えると、待ち構えていたように勢いよく応接室を出て行くのであった。
◇◆◇
ギルドを後にしエレイン商会の前に着く四人。
彼らがまず始めに目にしたのが、店の入り口に立つデスアーマー改め黒騎士。
黒騎士の姿を見るや子供のように駆け出し、黒騎士の前に跪いて嬉しそうに話しかける。
もっとも彼らが話しかけている黒騎士は昨日彼らと対峙した者とは違う。
そんなこともあってテンション高めで話しかける彼らを前に、黒騎士は困りながらぽりぽりと頬をかいていた。
大人四人が大通りで跪き、満面の笑顔。
その姿は目立つこともあって、店の前には続々と人が集まってくる。
たまたま一階で仕事をしていたハルナが外の人だかりに気付き、彼らに声をかける。
とりあえず通行の邪魔になるので中で話を聞くことになった。
ハルナが奥にあるテーブル席へと案内し、席に座ると四人は興奮気味にハルナへと訊ねる。
「もしかして神様をご存知なんですか?」
「えーと、宗教の勧誘の方ですか?!」
「ん、違う!デスアーマーの主人、天上の人。すなわち神様!」
「あーケヴィンさんのことかな?」
「まあ!何という素敵な神名なのでしょう」
「全くだぜ、心が洗われそうだ」
初対面の少女にトンチンカンな質問をし、それに応えれば想定外の反応をする四人。
首を傾げるハルナに、彼らは間髪いれず昨日あった出来事を説明していく。
それから自分たちは敬虔な信者であるということを猛烈にアピールしていった。
おおよその事情を把握したハルナは言える範囲でケヴィンのことを話していく。
それは勿論、王都の住人達が知っている範囲内での内容だ。
しかし話をしていると、ついつい暴走してしまうのがハルナの悪い癖。
四人を前に立ち上がって一人舞台が開幕。
終演後にはたった四人のスタンディングオベーション。それはもう大絶賛だった。
皆が落ち着きを取り戻し、各々コーヒーを飲みながらしばし歓談。
「そういえば、私こういうの作って貰ったんですよ!カッコイイでしょ?」
「うぉぉぉぉぉぉ!こ、これが神様か?めちゃくちゃカッコイイぜ!」
「ん、愛人希望!」
「はあん!神様はどこまで私を虜にするのでしょうか!」
「ヤベェ、鳥肌たって来た!」
ハルナはエルに作って貰ったケヴィンフィギュアを見せると予想以上の好反応。
それに気を良くしたハルナは続いて本命である自慢の逸品、エレインフィギュアを見せた。
しかしこれには皆、曇ったような眼差しで「悪魔か」と一言。
すぐに視線を戻しケヴィンフィギュアに魅入る四人であった。
四人はハルナと出会い、演劇交じりの話を聞くことによって敬虔な信者から狂信者へとクラスアップしてしまう。
運命の悪戯。
そういっても過言ではない。
これがもし空気の読めるエレインやマティスだったら、ここまでの狂信者にはならなかった筈だ。
四人がケヴィンへの神様信仰が熱い内に、ハルナと出会ってしまった。
空気の読めないハルナとの出会いで信仰は更に加熱してしまったのである。
「ところでハルナさん。その神像、金貨百枚でどうだろう?」
「テメェ汚ねぇぞダフ!抜けがけすんな!」
「ん、百五十枚!」
「百六十枚はどう?」
「あ、あのですね皆さん。残念ですけどこの像はケヴィンさんから売り物にするなって言われているんです!これは売れないですけど、ケヴィンさんの着ている服とかはうちのお店で作ってるんで、そっちなら売れますけど……」
「――それ全部買おう!」
「ん、賛成。神様と同じ服……幸せ」
「ハ、ハルナさん。それはどこに?」
「落ち着きないイジー、飲み物が溢れるじゃない!」
憧れの人と同じ者を着たいという信者。
三階のフロアを案内され、ケヴィンが現在着ている黒スーツ、ネクタイ、 シャツ、靴をハルナが紹介。
四人はあろうことか、ケヴィンと同じサイズを着ようとし、商品を持って試着室に入ろうとする。
明らかにサイズが小さいスーツを抱えるムキムキのおっさん二人と、大きすぎるスーツを手に持つ女性二人。
それには流石にハルナが止めに入った。
結局はケヴィンが現在着ている服と全く同じサイズ一式を各自家宝として購入し、それとは別にサイズに合った同じ服を購入することになった。
そしてこの日はケヴィンが関係する商品が飛ぶように売れた。
ハルナが商品を手に取って「これはケヴィンさんが――」といえば、言葉を被せ「――購入しよう!」と躊躇なく購入。
お金には不自由してない彼らにとっては、ケヴィンと関係があれば良かったのである。
大満足の四人。
ニコニコと晴れやかな笑顔。
見る人が見たら引いてしまうような光景だが、そこは狂信者、周りの目など気にしてはいない。
「そういえば皆さん、黒騎士さんと戦ったんですよね?」
「ハルナさん、黒騎士殿はヤベェぜ。俺の長い冒険者人生で一番強かったのが黒騎士殿だ」
「そうだな、あれ程強くする神様はもっと凄ぇんだろうけど!」
「あれでも私達、手を抜かれてたのよね」
「ん、神様に教え請いたい」
「やっぱり黒騎士さん凄かったんですね。ケヴィンさんもよく、黒騎士さん五人とか十人同時に相手出来るなぁ。私もですね、いつも黒騎士さんやケヴィンさんに稽古つけて貰ってるんですけど、まだ剣の使い方が上手く出来ないんです。早く黒騎士さんのようにカッコイイ感じになりたいんですけど」
「ハ、ハルナさん。その辺詳しく頼む!」
ハルナは四人にリヴィアの雫の地下訓練室で黒騎士に毎日稽古をつけて貰っていること。
ケヴィンの集落に行き、戦闘班の訓練に参加し訓練していることを話していく。
「よし、宿を変えるぞ!」
「だな!」「ん!」「当然よね!」
「え?イジーさん達、さっき宿はもう確保したって言ってませんでしたっけ?」
「ふっ、ハルナさん。神様御用達の宿があるなら、そこへ赴くのが信者の務めです」
「あー、なんか言いたいことは分かります」
「そんでもってハルナさんに実はお願いがあるんだけど、ちょっと聞いてもらえねぇかな?」
「えと、なんでしょうか?」
「もし可能ならでいいんだけど、俺達も黒騎士殿と一緒に訓練してぇんだ。こう見えてもSランク冒険者だから訓練の邪魔はしない!なんならハルナさんに剣を教えることも出来るし、どうだろう?!」
「おぉぉぉぉ!イジーさん達Sランク冒険者なんですか?うぅ、この展開は熱い!これはもしや勇者ハルナ覚醒への道のりなのでは?でもでも、黒騎士さんと訓練してイジーさん達だけ強くなっちゃって、私だけ置いてけぼりのパターンもあるかも。ぐぬぬぅ、それそれで――」
「あー、ハルナさん?!ハルナさん?」
「あっ、すいません。えへへ、ちょっとトリップしちゃいました。えーと、黒騎士さんの件は多分大丈夫です。私も稽古つけて貰えるなんてラッキーです!宜しくお願いします!」
これにはお互いに利があった。
こうしてハルナと四人の奇妙な協力関係が生まれる。
今日の出会いにより、はまりかけていた大きな歯車がガチャンとはまってしまう。
暴走と暴走。
これで苦労するのは、あの御方であろう。
読んで頂き有難う御座います。
実は39話から50話までが直近で書いたものです。
個人的を大好きな狂信者達。
好き嫌いがあるかも知れませんが、良かったらお付き合いください。
そして残すところ後10話。ここまでお付き合い頂き有難う御座います。あと少しだけお付き合いください。
――皆さまへのお願いです。
面白い、続きが読みたい。と思って頂ければ幸いです。書いている時はそんなモチベーションだけで書いておりますので。
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