37.ティアの一日 2
37
王都にて建設中の教会を離れ、服飾班の講習をしている場所へ移動するティア。
そこはコミュニティ毎に建設した集会所の一つ。
扉を開けると中には紫狐族、エルフ族、ゴブリン、ハーピー等の様々な種族の女性人が集まり会話に花を咲かせていた。
賑やかな声の中、席を探しながら歩み進めると奥の席からハルナの元気な声。
手を振りながらティアさんこっちだよ〜と促される。
こんな何気ないこともティアにとって初めてのこと。
パタリパタリと尻尾を揺らしながらハルナの元へ急ぐ。
席に座るとお子様組が大人しく作業に没頭している。非常に珍しいことである。
ゔんゔんと呪咀の吐くように唸りながら作業をする手元には先日マスター会で決まったチームワッペン。
黒を基調に赤文字のシンプルなデザイン。
魔物達や獣人族の衣服に縫えば人族や冒険者に襲われにくいだろうと考えて作った。
チーム名はケヴィンが使う武器からとっている。
黒い弾丸、ブラックバレット。
ワッペンにはハルナの世界で使用していた文字を更に簡素化し『B×B』と刺繍。
「ぐぬぉ、む、難しいのです!この針、いうこと聞いてくれないのです!」
「落ち着いてソフィ。お姉ちゃんが手伝ってあげるから!」
「ハルナ、いつからソフィのお姉ちゃんになったのです?」
「ふふふっ、今日はそういう気分なの!」
「ハルナがお姉ちゃんか……どっちかというと僕達の妹じゃない?」
「リヴ様の言う通りですわ!世話の焼ける妹って感じ!」
「うぅー、皆酷くない?私だって最近はしっかりしてるねって言われるんだよ?」
「あ、わ、拙者はハルナ殿がお姉ちゃんだったら嬉しいで御座るよ!」
「本当?!もうティア大好きー!」
ハルナに抱きつかれ照れ笑いを浮かべるティア。
お子様組はハルナが言った「しっかりしてるね」という件について半目で厳しく言及。
そもそも、お子様組とハルナ、エル、スラッシュ達の問題児に関していえば、そんな声など誰も聞いたことが無い。
ハルナは視線を外しながら言葉を濁す。
それもそのはず。
言われていないのだから。
彼女達はその類いの言葉を余りにも言われない為、各々選挙の街宣車のように自ら布教活動に勤しんでいるのだ。
現場を押さえたと、ここぞとばかりにお子様組の追及が激しくなる中、話題はふとしたきっかけでエレインの話に。
「そういえば、エレイン殿の協力は得られたので御座るか?」
「エレインは金さえちらつかせれば、どんなことでもするのです!」
「そうそう!僕思うんだけど、エレインってエルの次くらいに単純だよね!」
「そうですわ!相変わらずのチョロインでしたわ!」
「うぅ、エレインさんの扱いが雑すぎる〜」
「ハハハハハ……」
お子様組のエレインの扱いは相変わらず。
彼女達は最近、エレインが怒っているときは取り敢えず金の匂いをチラつかせて逃げていた。
因みにエルの場合は取り敢えず飯を食わせておけば大人しくなるというのが、お子様組の共通認識である。
談笑しながらも作業は着々と進み、講師が事前に用意したお手本とまではいかないが、各自満足のいく出来栄えに完成。
互いに手に取り合いながら、胸にあてがったり、肩にあてたりと嬉しそうにはしゃぐ。
「そういえば今日ね、皆に見てもらいたいものがあるの!」
「何で御座るか?ハルナ殿」
「ジャッジャーン!ケヴィンさんのフィギュア!エルに作ってもらったの!」
「ふぉぉおー!カッコイイのです!」
「うん、うん!やっぱりマスターは銃を構えている姿が一番だよね!」
「はぁぁ、マスター。惚れ惚れしてしまいますわ!」
「それとね、もう一つあるの。ジャッジャーン!エレインさんのフィギュア!」
「……」
「えーと……悪魔?悪い顔してますわね!」
「ま、エレインならレッサー悪魔なのです」
「だね、でも怒ってる顔はそっくり!」
(ハ、ハ、ハルナどのぉぉぉぉぉぉお?!
さ、さ、さすがにそれはエレイン殿に怒られるで御座るよ?しかも何でそんなに髪の毛が逆立ってるで御座るか?エレイン殿に角は生えてないで御座るよ?)
カッコイイでしょ?とドヤ顔のハルナ。
キャッキャキャッキャとお子様組が騒ぐ中、ティアは今日一番の動揺を見せる。
そもそも、ハルナの感覚は明らかに厨二よりの感覚。
自身の黒勇者衣装、暗黒戦士風装備に始まり最近ではエレイン商会で販売している衣服類。
世間一般には受けづらい内容であり、少しだけズレているのだ。
ハルナがめちゃくちゃカッコイイと思っていても、それが世間に通用するかは別問題。
ましてや悪魔さながらに容姿を変えたエレインフィギュアが本人が喜ぶはずは無い。
加えてハルナに悪意が無いのもタチが悪い。
ハルナは嬉々として毎回このような行動をとるのだが、本人が喜ぶ確率は低い。
しかしそれにもめげずに繰り返すのがハルナだった。敢えて付け加えると同士であるディーケイもある意味共犯なのだ。
服飾班の講習時間も終わりティアは皆で遺跡のダイニングルームへと移動する。
このダイニングルームも当初使用するのが五人しかいなかったが、受講システムを導入したり、エルの研究仲間やディーケイの研究仲間を呼んだことで手狭となった為、遺跡内の広い居室へと移した。
新しいダイニングルームは大人数が収容可能な広さをもち、貴族連中の晩餐会に使われる居室に引けを取らないほどである。
しかし所謂晩餐会のような雰囲気ではなく、落ち着いて過ごせるレストランという内装。
そして実用性を考え、調理人が五、六人いてもスムーズに調理ができるアイランドキッチンが室内に完備され、温かいものを温かいうちに食事することが出来る。
ダイニングテーブルは長テーブルが六つ。
食事だけではなくコミュニティ毎のちょっとした打ち合わせにも使用されている。
ダイニングテーブルが並ぶスペースを抜けると奥にはゆったりと座りながら歓談できるソファースペースがあり、住民達はリビングのように使用している。
ティア達がダイニングルームへ入ると香ばしく美味しそうな匂いが出迎える。
六人の調理人達がいそいそと料理を作る。
お子様組に大甘な副料理長の指示のもと料理好きな受講生が腕を振るう。
テーブル席の一つでは紫狐族が書類を広げ打ち合わせをしており、隣のテーブルではディーケイを含めた研究者チームが熱く語り合っていた。
奥にあるケヴィン達がよく使用するテーブル席では、ケヴィンがパソコンを前に難しそうな顔で考え事をしている。
そんなケヴィンのことなど関係なしに、お子様組はケヴィンを見つけ我先にとバタバタと駆け出していき、べったりとひっつきに行く。
あーだ、こーだと今日あった出来事を話すお子様組を前に、ケヴィンは持ち前のスルースキルと上達した相槌。それに加え表情の変化を添えながらお子様組を上手にあしらう。
そんなケヴィンに関心し、ティアはいつものようにキッチンへ向かい人数分の飲み物を用意する。
お子様組の話がひと段落すると今度はハルナがキラキラと目を輝かせながらケヴィンに声を掛ける。
「ねぇ見てケヴィンさん、これエルに作って貰ったんだよ!」
「うわっ、これ俺か?!上手いこと仕上げたなぁ。まさか売り出すとか言わないよな?」
「えっ?駄目なの?」
「駄目、駄目。そんな目で見つめても許可しないかんな!」
「むぅ、そっか。じゃあ本命のコッチは?」
「ん?えーと……もしかしてこれ、エレイン?」
「正〜解!えへへカッコイイでしょ?!」
ハルナがエレインの悪魔フィギュアを出す。
すると……
ソファースペースから本人が登場。
しかしハルナはエレインが近付いてくるのに気付いておらず、その様子を見ていたティアがまるで鯉のように口をパクパクとさせ、右へ左へとあたふたし始める。
(あぁぁぁぁぁハルナどのぉぉぉぉぉお!
う、う、後ろに、後ろにエレイン殿が、エレイン殿がいるで御座るよ?そのフィギュア絶対に怒られるで御座るよ!)
「へぇ、カッコイイかしら?ねぇハルナ、私こんな怖い顔してる?」
「へ?……あ、エ、エレインさん。お、落ち着いてください」
「あら私は落ち着いてるわよ?ただちょっと、血管が何本かぶちぶちしてるけど」
「あー、もしかして……今回はプンプンの方ですか?カッコイイと思うんですけど?」
「ハルナ、今回もよ。だから宿に戻ったら今日もお説教ね。こないだも言ったけど何かする前にちゃんと私に言ってよ!」
「えー、それじゃサプライズにならないじゃないですか!」
「これはこれである意味サプライズよ」
「エヘヘ、大成功!」
「褒めてないわよ!ハルナ」
「いひゃいれすへれいんさん、ほっへがとれそうれす」
初めは怒っていたエレインもハルナに悪気がなく良かれと思ってやったことを察し、いつもどおりのエレインに戻る。
ティアにしてみれば意外な反応。
ハルナが凄く怒られるのではないかと、あたふたしてしまうほど焦ったのに。
(あれ?!思ってたよりも怒られないで御座る。うーん、分からぬで御座るな)
首を傾げ考え込むティア。
その背後から出来上がった料理が続々と運ばれてくる。
お子様組が席に座る。
今日は彼女達が大好きなチーズハンバーグ。
目を輝かせニッと笑みを浮かべると、それを見て副料理長が満足そうにグッと親指を立てサムズアップ。
それに応えるようにお子様組も三人揃ってサムズアップ。
副料理長がお子様組に甘いだけあって、遺跡内での食事はかなりの割合でお子様組の要望が通る。
愛情溢れる副料理長の料理に舌鼓を打ちながらの賑やかな食事。
話題はスラ吉のことで盛り上がっていた。
というのも、ここ二日ほどスラ吉は寝込んでいるのだ。寝込むといっても病気ではない。
スラ吉がいうには進化するそうだ。
未だに謎の多いスライムの生態。
進化すると聞けば話が盛り上がるのは必須であった。
各々こう進化するのではないかと予想を立てたり、現存するスライムから仮説を立てていったり、こんな風に進化して欲しいと希望したりと話が尽きない。
そんな中、奥のテーブル席で一人の男が立ち上がり、笑顔でケヴィン達の席へと向かってくる……




