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3.召喚 3

 3


 ケヴィンはまるで物を見るかのようにサンドエルを見据え、銃の引き金を引く。


 ――再び鳴り響く銃声。


 撃たれた弾丸はサンドエルの座る玉座に命中し、背もたれにある青く大きな宝石を撃ち抜いて粉々に砕く。


 目視できない……

 抗えない脅威。


 硬い宝石を破壊する威力。

 それを目の当たりにしたサンドエルは全身に汗を流し顔を青ざめていく。


 ケヴィンは銃口をサンドエルに向けたまま、一歩、また一歩とゆっくりと歩み寄りながら、


「お前らが力で俺達を従わせるつもりなら、俺も同じように、お前らに力を向ける。今こうしてみせたように、俺達はお前らに対して抗う術を持ち、俺達が持っている兵器を使えば、こんな城なんか一瞬で粉砕できる。まぁ、権力のある奴は大概、お前らみたいに勘違いしているのが呆れるほどいる。そいつらは自分達がしてきたことが、自分の身に起きる可能性を全く考えてない奴ばかりだ。お前、さっき教育とか言ってたよな?これほどのことをしてくれたんだ。選択肢を二つやる。今すぐ楽に死ぬか、苦しんで国と共に死ぬかどちらか選べ!」

「――ま、待ってくれ!すまない悪かった。非礼を詫びる、ケヴィン将軍。この通りだ!そ、それに我が国は貴殿の国と戦争をする意思はない!」


 リエラ王国の王であるサンドエルが、ケヴィンに頭を下げ必死に許しを請う。

 それを見ていた配下の者達は目に驚愕の色を浮かべるが、ほとんどの者達は納得もしていた。


 歴代騎士の中でも最強と言われていたレイモンドをあっさりと倒し、そのレイモンドを盾代わりに使う非情さ、そしてアインツを撃ち抜いた攻撃。

 尚且つケヴィンの背景に見える強大な国。

 彼はその国の将軍であり、リエラ王国との戦争を仄めかしているのだ。


 十万の兵をたった半日で壊滅?

 普段ならあり得ないと笑ってしまう話だが目の前で遥かに進んだ文明の力を見せつけられた。

 彼らが言うように五百年以上も進んだ世界ならば、軍を召喚しこの国を滅ぼすことなど容易なことなのだろう。


 なによりもこの場にいる者達の直感が、彼らの言葉は真実であると告げるのであった。


 頭を下げるサンドエルを冷たい眼差しで見つめるケヴィン。

 彼は銃口を向けたままサンドエルに応える。


「へぇ、戦争する意思はないだと?随分と都合の良いことを言うんだな。その場凌ぎにしか聞こえないぞ。この短時間でお前らから二回も襲われてそれを信じろというのか?」

「ケ、ケヴィン将軍が疑うのも、儂は充分に理解しているつもりである。貴殿に信用してもらう為の時間を、我が国にその機会を与えてはくれないだろうか。この通りだ!」


 サンドエルは床に跪いて深々と頭を下げる。


 これまでの一連の流れによって謁見の間は完全にケヴィンに掌握されていた。

 皆がケヴィンの行動に注視し、迂闊に発言や行動を起こせない。

 もはやどちらが王なのか分からないほどに神経をすり減らしていた。


 王の謝罪で歩みを止めるケヴィン。

 銃を向けたままどうするべきか思案を巡らしていると、エレインが「話を聞いてみては?」と提案。

 ケヴィンは面倒くさそうな表情を浮かべながらも仕方なくエレインの提案を受け入れる。


 話を聞く前にサンドエルに指示を出し、室内にいる者達全てを左端の壁側に移動させていく。

 これは死角からの攻撃を防ぐ為。

 そして集団をまとめることで的を絞りやすくする為にリエラ王国の者達を移動させた。


 総勢三十人近くが一箇所に集まり、その前に王であるサンドエルが立たせる。


「ようやく話が出来る状況になったな」

「閣下、お話の前にご相談があります。実は私が持っているタブレットに以前閣下が戦争した時の映像を保存しております。今後の立場というものを明確にする為に、この者達にお見せしても宜しいでしょうか?」

「ん、構わない。好きにしてくれ。しかし、よくそんなの保存してたよな?」

「ふふっ。私、こういうの大好物なんです!閣下の武勇、みなさんにも見て頂きましょう!」


 エレインはそう言うと、早速キャリーバックの中からタブレットを取り出し操作する。


 エレインが言っていたのは戦争映画の爆撃シーンを集め保存していたもの。

 彼女はタブレットの操作を終えるとサンドエルの前まで歩き、説明を始める。


「これから皆さんには私が所有している閣下の数ある武勇の一つ。戦争時の映像を見て頂きます!この画面に注目ください!」


 タブレットに視線が集まる。


 そしてエレインが再生ボタンを押すと映像が流れていく。


 そこに映された映像はリエラ王国より遥かに進んだ街並みが映し出されていた。

 道路を車が行き交い、電車が走り、飛行機が空を飛び、高層ビルが乱立する世界。

 リエラ王国より遥かに進んだ都市。


 リエラ王国の者達は唖然とした表情を浮かべながらその映像に見入っていく。

 これまでの常識が覆る。

 鉄の塊が馬もなく走っている。

 人が小さく見えるほどの建造物がいくつも建っており、大きな鉄の塊に大勢の人が乗り、高速で移動していく。


 それから場面は変わり、空には幾多もの戦闘機が編隊を組みながら飛行している。

 そして次の瞬間。

 戦闘機から次々にミサイルが放たれ、爆撃され変わり果てていく都市。


 街が大きな爆音と炎に包まれ、高層ビルが崩れ落ち、人々が爆風で飛ばされ、あっさりと死んでいく、そんな映像が次々に流れる。

 綺麗な街並みは瞬く間にその姿を変え、目の前に映し出されているのは炎で赤く染まる街並み、粉々になった建物の残骸。数え切れないほどの死体。


 目を見開き言葉を失うサンドエル。


 皆同様に蒼白とした顔色で、食い入るようにタブレットを見つめていた。


 その様子を楽しそうに観察するエレイン。

 彼女はタブレットの映像を止めて、満面の笑みを浮かべ、

「あなた達は強大な戦力を持つ閣下に対して、どのようなもてなしを施したのでしょうね?ふふふっ、今更言っても遅いと思いますが、この国が映像のようなことにならないようにして下さいね!」

 と言うとその場から下がり、ケヴィンに頭を下げる。


 そこからケヴィンが話し合いを始める。


 ケヴィンの話は映像を見たおかげもあり、スムーズに進んでいく。


 まずケヴィンが提示したのは、召喚により被った損害の賠償である。

 その額、王宮の年間運営費の二割。

 エレインの分を合わせて四割支払うことをリエラ王国に約束させた。


 そして次に提示したのは襲って来た二人に関する慰謝料。

 その慰謝料をどこから捻出させるかケヴィンが顎を撫でながら思案していると再びエレインが提案。


「閣下、私の国では彼らのような行為は全て財産没収の上、死罪となります。ですが今回の件に関して、ここにいる全ての人達にも責任があるかと思います。しかし全てを殺してしまうには閣下の流儀に反しますし、アレが言うにはこれから“協力”していくみたいですので、アレが先程言っていたように、程々にしておかないといけません。ですので今回の慰謝料は連隊責任として、ここにいる者達の一年分の収入で如何でしょうか?」

「ん、そうだな。まぁ、それだと関係ない民への影響はないし、一年分くらいならそこら辺で借金しても返せる額だろうし、それでいくか」


 エレインの提案を受け、慰謝料はこの場にいる全ての者達の一年分の収入を合計したものに決まる。


 とりあえず当面の生活費用が必要な為、王宮の年間運営費を用意させ、計算が必要な慰謝料は後日回収することになった。


 談笑するケヴィンとエレイン。

 二人は事前に打ち合わせしていた訳ではなかったが目的は一致していた。

 その目的とは召喚した国から金を捻出させ、搾り取ろうと企だてていたのだ。


 まずケヴィンは少ない情報からそれほど文明が進んでいない国であると判断。

 ベネスとの会話から召喚魔法では召喚された者の情報が一切分からないということを聞き、それを利用した策を講じた。


 魔法レベルの違い、文明の違い、装備の違いを指摘しリエラ王国を小国であると蔑み、騎士を煽って襲いかからせた。

 ケヴィンは自分の実力を示した上で、帝国の次期皇帝と名乗り、戦争を匂わせた。


 そして損害賠償金の請求。


 すべての目的はここにあった。

 アインツの襲撃は想定外だったが、それもケヴィンにとって都合の良い方へと動いた。


 それから最後の仕上げ。

 エレインが戦争映画の爆撃シーンを見せ、破壊されていく街並みの映像をサンドエル達の脳裏に焼き付けてた。


 場を全て整えた上での交渉。

 これによってケヴィンとエレインの筋書き通りに話は進んでいった。


 リエラ王国は教育するはずであった二人に逆に教育を施され、現在ではすっかり彼らに抗えない立場になっていた。


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