表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/50

27.報復 3

 27


 リヴとスラ吉が隠蔽工作をしている頃。

 アイシャもまた首謀者の貴族邸に侵入し、着服に関係ある書類を盗み出すことに成功していた。


 書類を回収しニコニコ顔のアイシャ。

 彼女はケヴィンに頼まれたお使いが無事成功したことに、単純に嬉しかった。

 帰ったらケヴィンに褒めてもらう!そう考えるだけで顔が緩む。

 屋敷内を歩く足取りも軽く、鼻歌交じりにスキップを踏み帰路を急ぐ。

 そんな浮かれた状態の彼女は、見回りの兵士がいることなど、すっかり忘れていた。


 血の雨作戦によって天罰を恐れ、私兵や使用人達か逃げ出し、人が少なくなっていた屋敷内にアイシャの鼻歌が響く。


 侵入先でそんなことをすれば当然、それに見回りの兵士が気付く。

 アイシャは程なくして見回りの兵士達に見つかり「おい、誰だ?そこの者!」と声をかけられてしまう。


 嬉々としてスキップを踏み、楽しそうに笑顔で鼻歌を歌っていたアイシャ。

 兵士に声をかけられ、自分が貴族邸に侵入していたことをふと思い出し、その場から逃げ出す。


(はあ、まったく。面倒ですわね。帰ってマスターに褒めてもらわないといけないのに)


 アイシャは屋敷内を走り回り、窓から飛び降りて庭へと移動し周囲を見渡す。

 どうやら先ほどの見回りの兵士達はついてきてないようだ。


 それから彼女は人化の魔法を解く。

 淡い光が身体を包み込み、人の姿をしたアイシャが本来の姿へと戻っていく。

 魔法が解けたアイシャ。

 三階建ての屋敷が小さく見えてしまう巨体。

 体長は三十メートルを超え、王都行進に参加した竜よりも倍近い大きさ。

 真っ赤な鱗が鈍い光を帯びている。

 アイシャはそんな巨大な竜の姿へと戻り屋敷を見下ろしていた。


(久しぶりにこの姿になりましたわね。そういえば、マスターに初めてこの姿を見せた時、たくさん褒めて頂きました。

 ふふふっ、今でも撫でてもらったあの感触は忘れません!

 今日は初めての任務。あの時のようにマスターに撫でてもらえるに違いありませんわ!)


 大きな前足で頰を押さえ悶絶するアイシャ。

 巨大な竜が身体をくねらせながら悶えている姿は中々にシュールな光景であった。


 そんな身体をくねくねさせている竜が突然庭に現れれば、見回りをしている兵士達、そして屋敷内にいる者が気付かない訳がない。


 兵士達は腰を抜かし「竜だ、竜が出た!」「て、天誅だ!神が天誅を下しに来た!」「嘘だろ?ま、まだ死にたくねぇ」と各々叫び、這い蹲りながら逃げていく。


 そんなことなど気にすることなく、ケヴィンに褒めてもらった時の想像を続けるアイシャ。

 彼女の尻尾は正直だった。

 任務完了の嬉しさ、ご褒美への期待もあり、その大木のような尻尾を無意識のうちにブンブンと左右に揺らす。


 それは犬や猫がパタパタと尻尾を振っている可愛らしい光景などではない。

 ひとたび揺れれば風を切る音が響く。

 鞭のようにしなり鋼よりも硬い。

 その尻尾は触れてしまえば一瞬で命を落としてしまう死神の鎌のようなものであるのだ。


 そして不幸なことに彼女が左右に揺らす尻尾が屋敷の屋根に直撃してしまう。


 しっかりと繋がっているはずの屋根と壁。

 屋根に尻尾が直撃すると、綺麗サッパリと屋根だけが飛ばされていく。

 それはまるで野球のティーバッティングでもしているかのように。

 飛ばされた屋根は轟音と共に敷地を囲む外壁にぶち当たる。


 それが三回ほど続き、自分の尻尾が屋根を壊していることにようやく気付くアイシャ。


(えっ?!えええええぇぇぇぇーー?!

 嘘でしょ?!も、もしかして。これ私がやってしまったのかしら)


 そう、やってしまった。

 あれほどケヴィンに壊すな、食べるな、殺すな、と言われているにも関わらず盛大に壊してしまった。


 お子様組の中ではまともそうな雰囲気を醸し出すアイシャではあるが、実のところそうでもない。

 リヴやソフィと違って常識ある行動をする彼女だが、トラブルに愛されている竜なのであった。


 今回は自分でトラブルを作り出してしまったが、彼女が真面目にすればするほど自然とトラブルの方から彼女に歩み寄ってくる。

 そんな彼女は思考を巡らせる。


(えーと、まずは……私の尻尾が屋根を壊してしまった、ということは間違いないないみたいですね。マスターに壊すなと言われていたのに、私としたことが……

 まぁ、過ぎてしまった事は仕方ないですわ。

 問題はマスターにどう報告するかです!

 そういえばハルナが昨日、古い家をリフォームして新しく生まれ変わるようなことを言っていましたね。

 昨日行ったお店も大分古くなったから、色々と手直しして新たに作り直したと言ってました。

 そうそう。店主も見違えるように生まれ変わったと喜んでいました……

 こ、この屋敷も随分と古いですわね……

 そ、そうですわ!このお屋敷はリフォーム中なのです!うんリフォーム中……リフォーム中……)


 アイシャの中で貴族邸はリフォーム中の屋敷ということに落ち着いた。

 自分が盛大に破壊したにも関わらず。



 ◇◆◇



 時、同じく別の貴族邸ではディーケイとソフィが任務を終えて貴族邸の前で話し合っていた。


「流石にソフィと一緒と言われた時は今回の任務は駄目かと諦めてたけど、これで一安心だな!」

「失礼なのです!ソフィのお陰で誰にも見つからずに済んだのです。報酬はバケツプリンを所望するのです!」

「はい、はい。明日作ってやるよ!しかし、せっかく新型の兵器を試せるいい機会なのに、今日は壊して駄目なんて勿体ない話だな」

「――なんなのです?新型の兵器って」

「おっ、よくぞ聞いてくれた!新型兵器っていうのは、このグレネードランチャー型魔法兵器のことで――」


 ディーケイが空間収納から兵器を取り出して、楽しそうに説明していく。


 ディーケイが手に持っているのは、ケヴィン監修のもと作製した兵器。

 見た目はグレネードランチャー。

 だが中身は魔法を組み合わせて作ったものである。引き金を引けば誰でも使用することが可能で、その威力は上級魔法を上回る。

 

 難しい話が苦手なソフィはディーケイの話などまったく聞いておらず、ただその兵器を見て「おぉ!カッコイイのです!」と正直な感想を言う。

 それに気を良くしたディーケイは、更に熱く使い方や威力の説明をしていく。


 上級魔法よりも威力が高いと言われ、黙っていられないのが魔法が得意なソフィ。

 彼女は怪訝な表情を浮かべ「本当なのです?ただの筒にしか見えないのです!」と応えると、ディーケイの説明は更に熱を帯びる。


 しまいには決して手に持たせてはいけない相手に兵器を渡し、我を忘れ熱弁を振るう。

 渡された兵器を手に取って構えるソフィ。

 目を輝かせ「これは、ケヴィン様の銃みたいでカッコイイのです!」と褒めると、ディーケイは目尻を下げ「そうだろう、そうだろう」と応え満足気。


 ディーケイがふとソフィへと視線を戻すと、彼女は屋敷へと兵器を構え、撃つシュミレーションをしていた。


 その様子を見てディーケイは顔を強張らせながら「お、おいソフィ。その引き金は絶対に引いて駄目だからな?」と言うと、ソフィは指摘された引き金をじっと見つめ「これのことです?」と、指を引き金にかける。


 それを見てディーケイは慌てて「こらソフィ。それだ、それ!いいか絶対に引くなよ?」と再び強く念を押す。


 ソフィはニコリと笑い「おぉ!ディーケイは勉強熱心なのです!それは昨日ハルナに教えてもらった”前フリ”なのです?」と尋ねる。

 しかしそう言われたディーケイは何のことを言っているのか検討がつかず首を傾げ「はあ?」と応えた。


 ソフィが教えてもらったと言う“前フリ”とは、昨日ハルナが風呂場でふざけて遊んでいた時にしていた、所謂お約束芸である。


 一緒に風呂に入っていないディーケイがそんなことを知っているはずがない。

 だがソフィは一緒にいたと勘違いし、昨日ハルナにされた「押すなよ!×3」からのお約束をしていると思い込んでいた。


 そうとは知らずディーケイは続けて「いいか絶対にそれを引くなよ!」と言った時。

 ソフィがカチリと引き金を引く。

 それはまさにお約束。

 兵器から魔法弾が勢いよく放たれ、ドンという音。魔法弾は屋敷へと命中。

 あり得ないほど轟々と燃え盛る屋敷。

 それを見たディーケイは、慌てて魔法を放ち消火していく。


「ば、馬鹿かソフィ?引くなって言っただろ!」

「前フリじゃなかったのです?」

「何なんだよ?その前フリって」

「昨日ハルナにお風呂で教えてもらったです」

「アホか!俺、同士と一緒に風呂に入ってないだろ?そん時、俺いたか?」

「そういえばいなかったのです。じゃあ、い、今のは前フリじゃないのです?」

「当たり前だ!はあ、どうすんだよコレ。半分は焼けてるぞ?」

「か、火事になってた事にするです」

「な、なるほど。ソフィは馬鹿だけどそれは名案だな。火事場泥棒っていう言葉もあるし。うん、いいかもしれないな」


 顔を見合わせる二人。

 お互い苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 そう、やってしまったのだ。

 結局のところ二人は火事になっていた屋敷に侵入し、書類を盗んだことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ