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25.報復 1

 25


 ――リィヴアの雫、和室。


 朝から元気なお子様組の三人は、昨夜の侵入者達のことなど気にするまでもなく、ワイワイと朝食を食べている。

 対して大人組は表情に少し疲れが見えていた。


 昨夜は侵入者を捕縛した後、尋問に次の計画の準備、そして朝から首謀者の情報収集。

 ベネスを訪ね今後の打ち合わせをしていた。その為あまり睡眠がとれていない。

 そんな大人組の三人に、今日はティアが加わり一緒に食卓を囲んでいた。


「ディーケイ、ティア。絶対に誰にも見られては駄目だからな!離れた場所で術をかけてから実行するんだぞ!」

「了解です。マスター!」

「主人殿、お任せ下さいで御座る!」

「それにしても、血の雨が降ってくるなんてトラウマになりそうね!」

「ふふっ、そうですね。でも王都で血の雨が降ったら話題になることは間違いないでしょう」

「うふふ、まさかこんな報復をされるとは思ってもいないでしょうね!」


 彼らが話しているのは、諜報を差し向けた首謀者達への報復のことである。

 結局、侵入者達は尋問によってあっさりと主人の名前を口に出し、ディーケイの使い魔達の追跡と照らし合わせ、首謀者の三人が分かった。

 首謀者は三人の貴族。

 彼らは予想通り、エレインとハルナを誘拐し自分達の都合の良い物として扱うつもりだった。


 そんな貴族をケヴィン達が許すはずも無く、身を以て実感してもらう。

 その報復としての第一弾。

 それが彼らの話す血の雨であり、文字通り貴族達の屋敷に血の雨を降らせるつもりなのだ。

 ただそれは魔法などで天気を操って降らせるみたいなものではなく、ディーケイが魔術道具製作の為大量に保存している魔物の血を、空間収納を使い貴族邸の上空から降らせていく。というのが報復第一弾の概要である。


 ケヴィンにしてみれば血の雨を降らせるだけというのは、大分優しい方だ。

 しかしこの第一弾の作戦に関しては、次の計画への布石の役割がある。

 その次の作戦を成功させる為にディーケイの姿を誰かに見られる訳にはいかない。

 そんなこともあって隠密の術を使用出来るティアを集落より連れてきていた。


 そのティアは首を傾げケヴィンに尋ねる。


「しかし主人殿。本当に雨を降らせるだけでいいので御座るか?」

「ん、まぁね。今回はそれだけでいい。情報収集とお仕置きは今夜予定してるからな」

「そうね、血の雨作戦はなるべく多くの人に見て貰いたいから、人通りが多い時間帯にやるの。今回は情報収集やお仕置きよりも、そっちの方が重要なのよ!」

「なるほどで御座る!」

「まぁ、誰にも見られさえしなきゃいいから、気負わないでやってくれ!」


 ケヴィンの言う情報収集とお仕置きとは、今夜ディーケイとお子様組が実行予定。


 そしてディーケイとティアは人通りが多い時間帯が作戦実行に適していることもあって、早々に朝食を済ませて、装備品の確認と補充などの準備をしていく。



 ◇◆◇



 ディーケイとティアは王都のとある貴族邸の前に来ていた。


 二人は貴族区に入る前からティアの術によって姿を消し、徒歩で移動しその貴族邸、首謀者の一人の屋敷に足を運ぶ。


 貴族区は王城に近い区域で、なだらかな坂の上にある。その区域に立つ屋敷はどの家も広大な敷地と豪奢な屋敷ばかり。

 まるで眼下に見える王都の街へ自慢するように建てられていた。


 二人は難なく敷地の中へと侵入し、屋敷の南側。王都を見下ろす位置へと移動する。

 ディーケイは空間収納から透明のペンキと筆を取り出し準備していく。


「それが水を弾くペンキで御座るか?」

「そうなんですよ!凄いですよね、流石マスターです。このペンキの凄いところは水を弾くだけではなく、魔力を流せば発光するんです!あっ、そう言えばですね――」

「――ディーケイ殿!声が大きいので御座る。拙者の術は姿を消せるで御座るが、声は普通に外に聞こえるので注意して欲しいで御座る」

「おぉ、そうでしたね。いやいや、すいません。ついつい、熱くなってしまって!」


 と、ディーケイが謝りながら、用意したペンキに筆を浸していく。

 彼が持っている筆は二メートルを超える大筆。

 そして大きな筆を持って屋敷の中央部の外壁。王都を見下ろす位置へと移動し、書道家のような雰囲気を醸し出しながら、一心不乱に文字を書く。

 中々見事な筆さばきである。


 ディーケイは壁に文字を書き終えると、ひと仕事終えた職人のような表情を浮かべ「さぁ、終わりました。移動して血の雨を降らせましょう!」と言い、ティアは「了解で御座る!」と短く返答する。


 二人は外壁の上に移動し、ディーケイが屋根の上空へと右手を翳す。

 すると真っ黒な影が上空へと現れた。

 ディーケイの空間収納である。

 ただ空間収納だけだと雰囲気が出ないので、ディーケイがそれに魔法を重ねがけし黒雲で覆う。

 敷地内を黒雲が覆っていき日の光を遮っていく。

 そしてその黒雲からは、ポタリ、ポタリと魔物の血が雨のように振り始める。


 その異変に初めに気付いたのは敷地内を警備している私兵達である。

 彼らは空の異変に気付き、見上げていると、血の雨が降ってくる。

 一人の兵士が声を上げ「緊急!上空で異変発生、厳戒態勢をとれ!」と言うと、兵士達が庭に集まり出す。

 屋敷内からは使用人達がパニックになっており、悲鳴、そして怒声が聞こえてくる。


 ポタリ、ポタリと降っていた血の雨。

 その雨はディーケイの「あっ、間違えた!」という声と共に台風時のような豪雨となり、屋敷の屋根、壁、窓へと叩きつけるように降り注ぎ、庭は血の海の如く姿を変えていく。


 降り注ぐ血の雨はディーケイが特殊な液体を混ぜている為、乾いても血の跡が消えることがない。

 そんなペンキのような血の雨が降り注いでいる貴族邸は、まさに地獄にでもあるような恐ろしい佇まいへ塗り替えられていった。


 地面がぬかるむ程、血の雨を降らせたディーケイは空間収納を閉じ黒雲を消す。

 それから先ほどペンキで書いた文字に向かって、仕上げとばかりに魔力を飛ばしていく。


 屋敷の空を覆っていた黒雲が消えていき、血の雨が止んで使用人たちが窓を開け、恐る恐る外の様子を伺う。

 彼女達の目に映るのは、生々しく真っ赤な血で染まる戦場のような世界。

 屋敷内に再び恐怖に慄く声が響いていく。


 そんな中で一人の男が目を見開いて「お、おい!あそこ見ろ、何か書いてあるぞ!」と指を指す。

 皆の視線がその指を指す方へ集まり……

 そして誰もが唖然とした表情を浮かべながら、立ち尽くしていた。


 真っ赤な血で染まる屋敷。

 その屋敷の外壁には光を帯びた文字で「天誅」と大きくはっきりと書かれている。


 信じられないような光景。

 しかし今起きたことは、それこそ神にしか成し得ることが出来ない。

 私兵そして使用人たちは、この屋敷の主人である貴族が神の怒りに触れた。と、そう思った。

 心辺りは多々ある。

 いやありすぎた。

 それから彼らは荷物をまとめ、逃げ出すように血の雨が溜まるその屋敷から我先にと次々に出て行く。


 その様子を見てディーケイは呆れた表情を浮かべながら「では次の現場に行きますか」とティアに声をかけた。

 ティアは屋根を見つめながら「了解で御座る。しかし綺麗に光るので御座るな」と水を弾くペンキの出来映えに関心している。


 ディーケイはその反応に気を良くし、次の現場までの道中、延々とそして熱く語りながら歩いていた。

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