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18.畑作り 1

 18


 リヴィアの雫に宿泊したケヴィン達一行は、早めに朝食を済ませ古代遺跡の南に位置する集落に来ていた。


 この集落はディーケイが指揮を執り、集まってくる魔物達用に森を開拓し、住めるように整えた場所であり、簡素な作りではあるが土魔法で作られた宿泊所も用意してある。

 大きなキャンプ場のような場所には、中央に広場があり、広場を囲むように現在建築中の住居が並んでいる。


 その広場にケヴィンが姿を現わす。


 今日の彼は昨日エレインの店で購入したタンクトップに作業用のズボン、そしてブーツを履いており、やる気満々の姿。

 一緒について来たエレインもまたTシャツに作業用ズボンを履いている。

 そしてお子様組の三人は、昨日エレインの店でお揃いの服がいいと駄々を捏ねた甲斐もあり、ケヴィンとまったく同じ服を着ていた。


 ケヴィンが広場に姿を見せ、それに気づいた魔物達、獣人族達は足早に広場に集まり綺麗に整列。

 そしてその場に跪いて頭を下げていく。

 広場に集まっているのは、ゴブリン、オーク、巨人族、兎人族、ハーピー、スライム等々多種族に及び、その数は千を超えていた。


 魔物達は緊張のせいか皆顔を強張らせていた。それを見たケヴィンは困った顔を浮かべ、


「皆。顔を上げてくれ!ディーケイから話を聞いていると思うが俺がケヴィンだ。今後とも宜しくな!まぁ、この腕輪のこともあってこの場所に皆集まって来たと思うんだが、せっかく来たんだ、皆仲良くやってくれ!」


 と声をかける。


 すると魔物達の集団の中からゴブリン族と兎人族の幼児二人がケヴィン達のいる方に向かってトテトテと駆け寄って来るのが見えた。

 駆け出した二人の幼児に気づいた魔物達は、慌てて「こら待ちなさい!」「魔王様に失礼だぞ!」と声をかけるがトテトテと駆け出す。


 集団の前方で跪く大人達が手を広げ制止を試みるが、幼児達は彼らをピョンと軽々と飛び跳ねて制止を振り切り、ケヴィンの前にたどり着く。


「あのね、まおーさまにおはなをつんできたの!よかったらどーぞ!」

「ん、まおーさまにやくそうとってきた!つかれたらこれがきく!かいふくする!」


 三頭身と四頭身の小さな身体の幼児達。

 その手の中には綺麗な黄色の花と薬草が握られており、無邪気な笑顔でケヴィンに差し出す。

 ケヴィンは幼児達の目線まで腰を屈め、二人の頭を撫でながら「おう!ありがとな!じゃお返しに飴ちゃんをやろう!」と言い、空間収納から二つの飴を取り出し二人に手渡す。


 幼児達は首を傾げ「あめちゃん?」と言い不思議そうに手のひらの飴を見つめる。

 ケヴィンはその愛くるしい姿に目尻を下げ「この紙を取って食べるんだ、ほら口開けて!」と言い微笑む。

 飴を口に入れた幼児は「ん、あまい!」「おー!おいしい!」と声を上げ、手足をバタバタさせて喜ぶ。


 幼児達を心配そうに見つめていた魔物達。

 二人のまばゆいばかりの笑顔を見て、顔を綻ばせていく。


 姿勢を正し跪いたままの魔物達の姿を見て、ケヴィンは立ち上がって再び声をかける。


「皆、初めに言っておくが俺は魔王じゃない!だから跪いて頭を下げたり、王様みたいに崇めたりしないでくれ!俺がここに来た目的は一つ。この場所に皆が安心して住めるような場所を作る為だ!皆が今までどんな環境で過ごしてきたかはリヴ達から話を聞いている。人族から追われて小さな群れの中で隠れるように生活してたんだろ?人目を忍んで、ただただその日が過ぎていくのを待ってんのは、生きているって実感なんか無かっただろう」


 ケヴィンの言う通りここにいる魔物達、獣人族と呼ばれる者達は人族から住む場所を追われ隠れ住んできた者達。

 疎まれ、虐げられながら生きてきた。

 それが百年近く続いている。


 そんな状況で安心して暮らせるはずがなかった。

 人族に見つかれば討伐隊や冒険者を派遣され、逃げながら住む場所を移住してきた。


 広場に集まる魔物達、獣人族達に目を向けると種族によっては痩せ細った身体の者も多い。


「そこでだ、俺達がこの場所で毎日の生活が楽しく過ごせるような事を色々と考えてきている。その一つが畑作りだ。皆で協力して土を耕し、水をやって種を育てて、実を収穫して、そいつを料理して食う!汗水流して一から育てた野菜、果物は、形なんか不恰好でも格別に美味いぞ!そこらの上等な肉なんか目じゃねぇ!食い物の中で一番美味いのが、自分達が丹精込めて作った物って決まってんだ!ということで、時間がもったいないから畑の予定地に行くぞ!」


 ケヴィンがリヴ達から話を聞いて用意した一つ。

 それが畑作り。

 自分達で作物を育て、収穫し、それを料理して食べる。

 とてもシンプルなものではあるが、これには狙いもあった。


 人族から疎まれ追われてきた彼ら。

 その心の奥底に『自分はこの世界には必要がない存在』といった考えが根付いている。


 ケヴィンはそれを何とかしたかった。


 そこで考えたのが共に作物を育て、時間を共有することによって生まれていく繋がり。

 そして収穫した時の喜び。

 収穫した作物を料理し、自分達が育てた物を誰かに食べてもらう。

 美味しければ作物を作った者達も嬉しいし、そうでなければ頑張るだろう。


 彼らにとって繋がりというのは小さな群れの中でしかなかった。

 そして誰かの為に作り、与えるということも極端に少なかった。

 それが畑作りを考えた理由だった。

 勿論、料理もその一環でもある。


 元々彼らは料理というのは最低限のもので済ませていた。

 それこそ、ただ焼くだけだったり料理と呼べるようなものではない。

 それは環境のせいもあった。

 身を隠しながらの生活。

 あまり火を使って料理をするというのは避けなければいけなかったのだろう。


 料理も畑作りと同じように、作ることの喜び、与えることの喜びが得られるとケヴィンは考えている。


 畑作り、そして料理にはそんなケヴィンの思惑があった。



 ケヴィンは鍬を肩にかけ畑の予定地へと足を運ぶ。

 魔物達は緊張していた表情が和らぎ、立ち上がってケヴィンの後を追っていく。


 ケヴィンの言う通り、魔物達は日々の生活をただ費やし、老いて死んでいくのを待っている、そんな日々を過ごしていた。

 そんな時、伝承の宝具に選ばれた王が現れ、この場所に足を運んだ。

 その王が魔物達が安心して住める場所を作り、毎日の生活が楽しく過ごせるような考えがあるという。


 魔物達、そして獣人族達は期待に胸を膨らませ、自然と目に光を宿していた。

 彼らは畑の予定地へと歩みを進める中、いつの間にか頬を緩ませていた。


 予定地に着くとそこは森の木が伐採されただけの場所。

 広大な土地ではあるが、どう見ても畑ではない。


 視界の奥まで広がる広大な土地を前にして、ケヴィンがニヤリと笑い「よーし耕していくぞー!そんじゃまず力自慢の奴ら、ディーケイから鍬を貰ってこっちに来てくれ!」と言い手招きをする。


 ケヴィンの声にゴブリン、オーク、巨人族の力自慢の魔物達が鍬を手にケヴィンの下に続々と集まる。


 ケヴィンは集まった魔物達に鍬の使い方を教え、魔物達は皆見よう見まねで土を耕していく。

 掘り返された土の中には木の根や小石が混ざっており、まだまだ畑には適さない。

 作業が進む中、ケヴィンが再び指示を出す。


「よーし、次は細かい作業が得意な奴ら、こっち来て土の中にある石や根っこを取り除いてくれ!」


 ケヴィンの声に続々と魔物達が集まってくる。その中にはエレインとお子様組の姿もあった。

 ケヴィンは心配そうな表情を浮かべ、エレインに声をかける。


「なぁエレイン、本当に大丈夫か?この作業、地味に腰をやられるぞ?」

「舐めないで欲しいわケヴィン!こう見えても結構鍛えてるんだからね!」

「そうなのです!エレインは毎日寝る前に、おっぱいた、フグッ――離すですエレイン!」

「ソフィ?その事は誰にも言っちゃダメって言ったでしょ?」

「まだ言ってねーのです!言う前に口を塞がれたのです!」

「まぁ、約束も守れない口はこの口かしら?」

「いでぇぇのれふ、てをはなふれふ、へれいん」


 エレインがソフィの口に親指を入れ、おもいっきり引っ張っている。

 その鬼のような表情のエレインを見て、ケヴィン、アイシャ、リヴの三人は顔を引きつらせていた。


 しばらくの間ソフィは同じ過ちを繰り返し、その度にエレインに口を引っ張っられていたが、埒があかないと諦めたエレインはソフィの首根っこを掴み、作業場へと移動していった。


 畑作りは順調に進んでいき、耕された土も小石や木の根がない畑らしい土になってきた。

 ケヴィンはその土を手にとって「よーし、次は荷物の運搬が得意な奴ら、あっちにいるディーケイから畑に使う袋を貰って来て、こっちに持って来てくれ!」と指示を出す。


 ハーピーやスライム達を中心にディーケイから貰って来た袋を持ってくる。

 それからケヴィンはその袋を開け、魔物達の耕した土と持ってきた袋の中にある土を混ぜるように実演しながら教えていく。

 ハーピーが出来ない作業は他の魔物達が手伝いながら丹念に土を混ぜていった。


 汗を流し、刻々と作業を続ける。

 そしてようやく畑らしい土になった。


 作業に没頭していると気付けば太陽は真上に位置し時間は昼時だった。


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