17.秘密の会
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食事が終わる頃、室内にいた給仕達はかつてない程の疲労を顔に滲ませていた。
それほどまでに彼らの食べるスピードと量が異常なものであったのだ。
出せばあっという間に消えていく料理。
明らかに自身の体積を超える量を食べるお子様組の三人とスライム。
給仕として培った経験を打ち砕くような食事風景。
まさに戦場だった。
ケヴィンはそんな疲れ切った給仕達を横目に「すまないなマティス、ウチの子達が」とマティスに申し訳なさそうに声をかける。
マティスは微笑みを浮かべ「いえ、彼らにもいい経験になったと思います」と給仕達へと視線を移す。
夕食を済ませてマティスが用意してくれた宿泊部屋へと移動したケヴィン達。
その部屋は大きなリビングと三部屋の寝室がある家族用の部屋 。
お子様組の三人に加え、スラ吉とディーケイ。この四人と一匹は目を離すと何を仕出かすか分からない。
その為、ケヴィンはマティスに頼み家族用の部屋を用意してもらった。
各々、自由に過ごす中、ケヴィンは日課であるトレーニングをする為に地下にある訓練施設へと足を運ぶ。
ケヴィンの訓練はいつも通り深夜まで続きトレーニングを終え部屋に戻ってくる頃には皆、ベッドに入って寝静まっていた。
ケヴィンもベッドに横になり瞼を閉じた。
◇◆◇
ケヴィンがベッドに入ってから少し経った頃。
リビングからヒソヒソと聞こえてくる話声。
話をしているのは四人と一匹。
彼らは今日もまた日課であるマスター会を開いていた。
瞼を閉じて寝ていたケヴィン。
彼らの怪しげな行動を察知し、リビングで話をする声にベッドに横になりながら耳を傾けていた。
ケヴィンが起きていることも知らず、リビングではディーケイが三人にホットミルクを用意し、席に座る。
司会のアイシャが姿勢を正し「では今日のマスター会を始めます!」と言うと、パチパチと拍手が鳴り響く。
(は?マスター会?なんだそれ?)
ケヴィンはベッドの中で顔を顰めながら、聞いていた。
「ハイ!じゃあ今日は僕からね!今日の行進は成功したと思うんだ。マスターが楽しそうにエレインさんを馬車に誘ってたし、馬車の中で大笑いしていたからね!」
「そうですね、マスターがお腹を抱えて笑っている姿を見るのは私も久しぶりでした。そういう意味では今日の行進は成功とも言えるでしょう!」
(違ぇーよ、何言ってんだお前ら!エレインを馬車に乗せたのは巻き添えが多い方がいいからであって、楽しそうに誘った訳じゃねー! それに馬車で笑ってたのはアイシャとソフィが周りを気にせず、自分の恥ずかしい秘密をベラベラと話してたからだぞ!)
そう、それは彼らの勘違い。
ケヴィンは決してあの行進を楽しんでいた訳ではない。むしろやりすぎた状況から目を背けていたかったのだ。
そのケヴィンの様子を見て四人と一匹は、マスターが楽しそうにしていたと嬉しそうに和気あいあいと話をしている。
ケヴィンはベッドに横になりながら頭を抱えていた。
そんなケヴィンに更に追い討ちをかけるように話は続いていく。
「うん、やっぱり人族は派手なのが好きなのでしょう!エレイン殿の店に来ていた婦人達も派手な方が多かったですし、マスターも今日の行進を派手にした竜達の頭を撫でながら、活躍を褒めておりました!」
「羨ましいのです!私も頭撫でて欲しいのです!」
(こら!違うぞディーケイ!エレインの店に来ていたおばさん達と一緒にすんな!あんな派手な格好が好きなのは、おばさんだけだからな! それに竜達を褒めてたんじゃねー。変なことに付き合わせた竜達を労ってたんだ!)
自分達が計画した 魔物達による王都行進。
その行進がケヴィンに喜んでもらえたと満面の笑みを浮かべる四人と一匹。
彼らはケヴィンの心情など知らずに、ホットミルクを飲みながら互いに称え合う。
「しかしリヴ様の言った通り、今回は全力を尽くして正解でしたね。やっぱりマスターの言う“ほどほど”と言うのが、私達の全力と同じくらいというのが、今回の件ではっきりしました!」
「でしょう!僕の言った通りだよね。マスターのほどほどイコール僕達の全力なんだよ」
「はっはは。では次はもっと派手にしないといけませね。我々の成長した姿、マスターに見てもらいましょう!」
「……」
「そうなのです!これからが本番なのです!世界中にケヴィン様の名を広めて、そして褒めてもらうのです!」
(こらこら!お前ら何を考えてんだ!あれほど言ったのに、何をどうすれば“ほどほど”イコール全力になるんだよ?それにもっと派手にするだ?十分派手だっつーの!
はあ、頭痛え!あーもう面倒だ。さっさとと寝て、明日考えよう……)
ケヴィンは布団を被り、瞼を閉じる。
ケヴィンが彼らの行動を制限する為に言っていた「ほどほどにしなさい」という言葉。
彼らに対して重しであり枷の筈だった。
しかしながら重しであるはずの言葉はいつの間にか、捻じ曲げられて解釈されており、今や彼らの行動を制限するどころか、加速装置の如くその役割を担っていた。
その事実を知ったケヴィンは、面倒だとばかりに彼らの話を止めることなく、寝てしまう。
こんなところもケヴィンのマイペースな性格なのだろう。
静かに眠りにつくケヴィン。
そんなケヴィンとは対照的にリビングではマスター会が盛り上がっていく。
「マスターは派手なのが好きなんだね!今日使った魔法も派手だったし、おっきいのが好きなのかな?」
「かもしれませんね。でも竜達はすでにマスターの配下になっていますし、他に大きくて派手なものといったら……」
「お城なのです!ケヴィン様には大きくて派手なお城が似合うのです!」
「……」
「うん、僕もそう思うな。じゃあ今度はマスターの為にお城を用意する計画を立てない?」
ケヴィンが眠りにつくとマスター会は今日一番の盛り上がりをみせ、彼の知らないところであり得ないような計画が立てられ話が進んでいく。
そこには主人であるケヴィンの意思など関係なかった。
そもそもの話。
ケヴィンは別に大きいのが好きな訳でも、派手なものが好きな訳でもない。
それがマスター会のメンバー達の解釈によって誤解され『お城を作ろう』という訳が分からない話になっている。
それにこのマスター会のメンバーたち。
マスター会という割にはマスターであるはずのケヴィンの意思を全く気にしてない。
しかもタチの悪いことに皆、善かれと思い込んで行動しているのである。
更に不幸なことにメンバーたちは皆、勘違いをしてしまう節があるのだ。
今回の大勢の魔物達を率いた王都行進も、初めはケヴィンが宝具(腕輪)を見ながらアイシャに「取れるよな?」と訊ねたことが発端である。
アイシャの中ではそれが何故か、不安そうに「天下が取れるよな?」と聞かれたと勘違いし、それが「もっと戦力を増やそう」という話になり、戦力を外に見せつける軍事パレードのような話にまで進展してしまう。
単なる勘違いで済めば幸いなのだが、メンバーたちは実行する力を持っている。
恐らく、今後もケヴィンの苦難は続くであろう。
読んで頂き有難う御座います。
行進後の話からこの辺まではエタりながら書いた記憶しかありません。
書きたい部分を書いて満足して、どうせ誰も読んでくれませんよ、とエタります。
――皆さまへのお願いです。
エタったり、自棄になったり、一カ月や半年ほど放置しながら書いてます。
それはもうグダグダです。(笑)
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