12.王都行進 1
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ケヴィンが再び王都へと向かう日。
王都の外門前ではエレインとハルナそしてマティスがケヴィンの到着を待っていた。
約束の時間まではまだ余裕があり、約一カ月ぶりの再会を楽しみに待つ三人。
そして三人の後ろには何故かベネスも控えていた。
ここにベネスがいるのはエレインからの要請によって。
彼女はハルナとディーケイの話に聞き耳を立て、ケヴィン達が今日どのように来るのかを事前に知っていた。
もしその状況でケヴィン達が来たのであれば、門の中には入れないだろうと考え、予めベネスを呼んでいたのである。
しばらく待っていると突然、巨大な影が現れ路を覆う。
そしてその影の中から隊列をなし、行進する黒い鎧を着た大柄な騎士達が姿を現わす。
彼らは人族の大人よりも背が高く、左手には盾、腰には長い剣をさし、闊歩していく。
三百はあろう黒騎士の隊列に続いて、オーガとウルフの隊列が行進をしてくる。
オーガ達も黒騎士達と同様に大きな体格をしており、目を見張るのが彼らの丸太のように太い腕。
オーガにしては異常ともいえるような筋肉を付けた逞しい脚。
その後続にはウルフの隊列も足並み揃えており、体高三メートルはあろう大きな体。白銀の綺麗な毛をなびかせながら堂々と行進していく。
そしてようやくケヴィンを乗せた馬車が、影の中から姿を現わす。
明らかにサイズがおかしい真っ黒な毛並みの馬に引かれ、ケヴィン達が馬車に乗っている。
ケヴィン達が乗る馬車は、この日の為にディーケイが作った特別仕様。
ディーケイが王都に行くならばパレードみたいなタイプがいいだろうと考え、囲いのないオープン仕様にしてある。
そして馬車の後に続き、隊列をなすのが真っ黒なローブを着て左手に杖を持つリッチ達。
三百ほどの骸骨集団が隊列を組んで行進に参加。
骸骨なので表情が分からないが、堂々と胸を張り歩く様は誇らしげにも見える。
先頭を歩く黒騎士達が門の前に着くと、綺麗に二手に分かれ、中央に馬車が通る道を開ける。
続いてオーガ、ウルフの隊列も同様に中央を開け、皆一斉に跪き、こうべを垂れて主人の到着を待つ。
「なぁリヴ、なんか皆引いてないか?ほら見ろよあの兵士達。皆、真っ青な顔しているぞ!やっぱりやりすぎだったんじゃないか?」
「いえいえ、そんな事ありませんよマスター!王と言ったらパレード。パレードと言ったら行進じゃないですか!」
「あー、そうじゃなくてな。数が多いんじゃないかっていう話の方だよ」
「そうでしょうか。魔王軍の時はこの十倍くらいの行進でしたよマスター。今日はむしろ少ない方です!」
「そうなのか?まぁ、俺はこっちの世界の普通っていうのが分かんないから、リヴがそういうなら、まぁ大丈夫なのか」
リヴが満面の笑顔を見せる。
それを見てケヴィンは安心した表情を浮かべ視線を門の前へと戻す。
エレイン達が来ているのに気付き「おっ、エレイン達が来てるぞ」と言うと、ディーケイが「同士が手を振っております!」と言い席を立ち、手を振ってハルナに応える。
馬車が門の前に着くと、ケヴィンは馬車を降りてエレインに歩み寄る。
「エレイン、久しぶり!いつもディーケイが色々と世話になっていて悪いな」
「お久しぶりです閣下。こちらこそハルナの面倒を見て貰っているようなものですから。
閣下も色々とご苦労しているみたいで」
「ふっ、エレインも大変そうだな」
「そうなんですよ閣下!ハルナったら、ってここで話をする内容ではありませんね」
「それよりも、待ち合わせ場所は城の門にしたはずだけど。なんかあったのか?」
「いえ、特別ないのですが。ハルナとディーケイが『パレードをしよう!こういう時は派手に見せつけた方がいい』と話しているのを聞いていて、魔物達を引き連れていると王都に入れない恐れがありましたので、こちらでお待ちしておりました」
「あぁ、それでベネスが来てるのか。悪いなエレイン。色々と手間をかけたみたいで」
二人は約一カ月ぶりの再会に、自然と笑みがこぼれていた。
黒騎士の近くではハルナとディーケイが話をしており、ハルナは飛び跳ねながら堂々と立つ黒騎士を見て喜んでいる。
ハルナは大きな声で「凄い!カッコイイ」と連呼しながら黒騎士の鎧をペタペタと触っていた。
エレインは楽しそうに騒ぐハルナを見つめ「ハルナには困ったものです」と優しい微笑みを浮かべる。
ケヴィンは「楽しそうだな」とだけ応え、その口元は口端を上げていた。
それからケヴィンはエレインに見向き「エレイン、じゃあ馬車に乗ろうか?」と言うと、エレインは顔を引攣らせて「閣下、私達は別の馬車に――」と反応。
ケヴィンは話を遮り「――エレイン、こういう時は被害者は多い方がいいんだ!」と言い、悪戯な笑みを浮かべエレインの手を引いて馬車に案内する。
エレインは諦めの表情を作り「やっぱりこうなるのね」と小さな声で呟く。
ケヴィンは馬車に乗るアイシャ、ソフィ、リヴにエレインを紹介し、それから互いに自己紹介を済ませた。
遊んでいるハルナとディーケイを呼ぶと、ハルナとディーケイがマティスの両脇を掴み引きずりながら馬車に連れてきた。
馬車に座るマティスは苦笑いをし「エレインさんの予想、残念ながら当たってしまいましたね」と呟くと、エレインは瞳を濁し「そうなの、私にはどうすることも出来なかったわ」と力無く応える。
皆が席に座り、門が左右に開かれ先頭に立つ騎士達が隊列を組み中へと入っていく。
先頭には馬に乗るベネスと五人の騎士達が隊列を先導する。
ケヴィン達の乗る馬車が動き出す。
馬車の最前列にはアイシャ、ソフィ、リヴ、ディーケイと座っており、スラ吉はリヴの頭上に乗っていた。
真ん中の列にエレイン、ハルナ、マティスが座り、ケヴィンは最後列。
そして馬車を引く黒馬が知能が高いこともあり、御者席には誰も座っていない。
アイシャとソフィが席の上に正座し、背もたれに顔を乗せエレインをまじまじと見つめる。
二人に熱い眼差しを向けられているエレインは「どうしたの?」と二人に訊ねると、ソフィが「おっぱい大きいのです!何食べればそんな大きくなるのです?」と応える。
隣に座っているアイシャも「そうです!大きいです!魔法ですか?」と身を乗り出してエレインに訊ねる。
エレインは目を輝かせながら質問する二人の少女を面白がって考え込む仕草を見せる。
そして焦らしながら「うーん、何故かしら?」と応えると、ソフィが「ズルイのです!今の顔、絶対知っている顔なのです!」とぐんぐんと頭を揺らし悶える。
アイシャは鞄から小さな袋を取り出し「お菓子食べますか?」とエレインに訊ねると、エレインが反応する前にソフィが「アイシャ、買収するのはズルイのです!」と遮ぎる。
二人の言い争いが始まると、エレインは楽しそうにクスクスと笑い「そうね、これは私の秘密だから……二人の秘密を教えてくれたら、私も秘密を教えるわ!」と言うと、二人は我先にと自分の恥ずかしい秘密を口にしていく。
興奮し周りに人がいるのを忘れている二人。
その様子を見ていたケヴィンは、腹を抱えて大笑い。
そんな話をしながら、馬車は歩みを進めていき門を抜けて王都へと入る。
エレインは二人に後で教えることを約束し、二人は姿勢を正し、前を向いて座り直した。