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11.古代遺跡の仲間達 3

 11


 ケヴィンは午前の訓練を終え、昼食を取る為にダイニングとして使用している部屋に入る。


 ダイニングルームはディーケイが以前魔王国で使用していた椅子やテーブル、装飾品で飾られており、品があり彩りも鮮やかではあるがランドリエラ王国の応接室のような過剰な装飾ではなく、白を基調とした落ち着いた部屋に仕上がっている。


 ダイニングルームではリヴとスラ吉、アイシャとソフィ、ディーケイの四人と一匹が食事の準備をしていた。


「おっ、リヴ、スラ吉。帰ってたのか。お疲れさん。どうだった?上手くいったか」

「マスター、バッチリですよ!言われたもの全部転写して来ました!」

「……」

「ん、スラ吉の言ってるお土産って何だ?」

「ずるいですよスラ吉!僕がマスターに言おうとしてたのに。実はですねマスター。僕達、城にある宝物庫を見つけたので、お土産に持って来ました!エヘヘ」


 リヴがそう言うとケヴィンに近づき、上目遣いでケヴィンをじっと見つめる。

  ケヴィンは手馴れた手付きでリヴの頭を撫でながら「おぉ、よしよし!大変だったろ、エライぞ」と褒め、リヴは嬉しそうに目を細め子供らしい笑顔を見せる。


 その様子を見ていたスラ吉が床の上でピョンピョンと飛び跳ねる。


 ケヴィンはスラ吉を抱き上げて「スラ吉も頑張ったな!大したもんだ」と言いながら、体を撫でるとスラ吉は嬉しそうにプルプルと震えて応えていた。


 それから皆で席に座り昼食。

 食事を用意したのはディーケイ。


 アイシャもソフィも料理が得意ではなく、はっきりといえば下手であった。

 リヴは問題外。

 意外にもディーケイが料理が得意であり、料理はディーケイの役目になっていた。


 食事を楽しみながら会話をしていると、アイシャがケヴィンに午後の予定を訊ねる。


「マスター、午後はどちらの訓練を予定しておりますか?」

「んー、午後も魔法の方かな。剣の方はある程度感じが掴めてきたし」

「畏まりました。でもマスターの魔法を拝見する限りでは、既に申し分ない程の高いレベルに達していると思いますが」

「ん、そうか?でも魔法を使った戦闘をしてから三週間だからな。なんていうか身体と感覚にまだ馴染んでいないような気がすんだよな。まぁ、感覚的な問題なんだろうけど」

「マスターはやっぱり凄いですよね!僕が知ってる中ではマスターが一番強いのに、それでも訓練をするなんて!魔物達もマスターに感化されて、一日中訓練に励んでいるんですよ」

「あっ、それ私も見たのです!前まではぐうたらしてたのにケヴィン様が来てから皆、真剣に訓練してるのです!」

「マスターのおかげで魔物達の実力も目を見張る程上がっております。いやぁ、戦争の日が楽しみです!」


 四人はケヴィンに感化された魔物達の変化に驚いており、ケヴィンはその話を掘り下げて聞いていく。


 魔物達や獣人族は先代の魔王が長く他国を荒らしていたこともあり、人族から虐げられ住む場所を追われるようになっていた。

 そして現在は多くの魔物達や獣人族達が他種族と交わることもなく、各々小規模な群れを作り、隠れ住むように暮らしている。


 野心のある魔物や獣人は魔王国や獣人国へ赴き、武勲を上げたりする。


 しかしそれはほんの一部、ひと握りの者に過ぎず、ほとんどの魔物や獣人は一つの地に留まり、生活に困らない程に狩りをし、ただ漠然と日々を過ごし一生を終えているという。


 戦争終結から百年以上経過した現在でもその状況は変わることがなく、多くの魔物や獣人達は日々の生活に楽しみを見出せないのが当たり前のようになりつつあった。


 その状況に変化が起きた。

 それが今回の件だ。


 魔物達や獣人達は訓練に励み、力を付けていくことに楽しみを見出し、精力的に鍛錬を重ねているのである。


 ケヴィンは話を聞きながら、顎を撫で思考を深めていく。


「うーん。やっぱり魔物達や獣人達が住む環境が原因かもしれないけど、生きることに楽しみを見出せないっていうのは良くないな。何のために生きてんだ?っていう心境なんだろうけど」

「そうなんです。戦闘が得意な種族や好きな者は、今回みたいな変化があるかもしれませんが、全てがそうとは限りませんので」

「そうだな、これは結構重要な問題だ。俺も案を考えるけど、皆も考えてくれ!」


 ケヴィンはそう言うと、四人は深く頷いて各々考え込む。


 それを見たケヴィンは「あっ、今じゃなくて来週まででいいぞ」と付け加えると、皆一様に食事に戻る。


 ケヴィンはリヴの言っていたお土産の件に話題を変えリヴに訊ねる。


「なぁ、リヴ。宝物庫から何持って来たんだ?」

「ふふふっ、よく聞いてくださいましたマスター!えーとですね。金塊と魔術道具、宝石に剣、あっ防具もありますよ!それと家具類に衣服、それからですね――」

「――おい、おい!どんだけあんだよ 」

「えーと、マスターがいつも訓練で使っている部屋が満タンになるくらいです!」

「ぶっ、そうか。が、頑張ったな」


 ケヴィンは想像の斜め上をいく数と量に、食事を喉に詰まらせる。

 そして困惑した表情を浮かべ思案する。


(参ったなぁ、リヴのやつ城の金全部持って来ちゃったんじゃないのか?まぁ、全部頂くつもりだったからいいんだけど、これは計画を変更する必要があるな)


 その様子をリヴはじっと見つめていた。


(あ、マスターが困った顔してます!思ったよりも少なかったという事なのでしょう。やっぱりあの時、ほどほどにしないで全力で全部の宝物庫を回るべきでした。

 次は全力でやります!マスター見ていてください!)


 リヴはぎゅっと力を入れて拳を握る。


 それから頭上で震えるスラ吉に「分かってますよ、僕も修行しなきゃいけませんね!」と小さな声で応えていた。


 ケヴィンは昼食を済ませる。

 それからソフィに声をかけ、いつものようにダイニングルームを後にし一緒に魔法の訓練に向かう。



 ◇◆◇



 ケヴィンがダイニングルームを出てから、部屋に残るリヴ、アイシャ、ディーケイの三人は食器類を片付けて、紅茶を入れ各々椅子に座る。


 アイシャが二人に視線を向け「では今日のマスター会を始めます!」と言うと二人はパチパチと拍手をし、スラ吉はテーブルの上でプルプルと震えている。


「まずは私から。昨日マスターが不安な顔をしながら『天下がちゃんと取れるのか?』と聞かれました。やはりマスターは現状の戦力に不安を抱いているようです」

「やっぱりそうなんだ!僕もそうだとは思ってたんだよね。じゃあ先ずは魔物達をもっと沢山増やして、マスターに安心してもらわない駄目だよね?」

「そうなりますね。しかしマスターが天下取りをお望みとは、血が滾りますね」

「そうね、これから忙しくなるわね」


 アイシャの言葉に二人はコクリと頷き、紅茶を飲む。


 そもそもの話。

 ケヴィンは腕に着いた宝具がちゃんと取れるのか心配になり、アイシャに「ちゃんと取れるんだよな?」と訊ねたのだが、アイシャはケヴィンが『天下が』取れるのか心配している、と勘違いしている。


 ケヴィンの何気なく放った質問がアイシャの勘違いによって大陸を巻き込むような大ごとになりつつあった。


 不幸な勘違いは更に続く。


「――しかしマスターを不安にさせてしまっているのは心苦しいですね。私も今朝、マスターとミサイルの話をしていて、ミサイルがまだ大量生産出来ない旨を伝えると、マスターは残念そうな眼差しで、ミサイルの話はもう聞きたくないとばかりに、話をばっさり切られてしまいまして」

「そんな事があったんだ。でもマスターの気持ち凄くわかるな。僕も目の前に大好きな食べ物があるのに、それが食べれないってなるともう見たくないもんね!」

「そうね、マスターが残念に思うのも当然ですわね。私達、もっと頑張らないといけませんね!」


 そのアイシャの言葉に二人はコクコクと頷き、三人は紅茶を飲む。


 こんなところにも誤解が生じていた。


 残念そうな眼差しを向けられていたのは熱く語るディーケイに対してであり、決して大量生産が出来ないことに対してではない。


 それにケヴィンがミサイルの話を遮ったのは、ディーケイの話が長くなりそうだったから遮ったのである。


 ほんの小さな誤解。

 それが世界を破滅に導き兼ねない方向へと舵を切っていく。


「それにさっきマスターは優しいから言わなかったけど、僕がお土産に持って来たお宝、やっぱり少なかったと思うんだよね。マスターがあの時、困ったような顔をしてたし」

「そうですね、魔王様の宝物庫に比べたらほんの一部ですからね」

「それで思ったんだけど、マスターがいつも言っている“ほどほどにしなさい”って話、僕達の中では全力でいいと思うんだ!マスターは凄い人だから、多分マスターのほどほどが、僕達の全力と同じくらいの感覚じゃないかな?」

「なるほど、そう言われてみれば確かにそうですね!これは盲点でした。ついつい私達の感覚で考えてしまいました」

「そうね、次からは何事も全力でやりましょう!先ずはマスターの王都再訪ね!」


 更に新たな勘違いが加わっていく。


 リヴの件に関しては予想以上にお宝を持って来たリヴに、ケヴィンは改めて計画を立て直す必要がある為困っていたのだ。


 それをリヴは持ってきたお宝が少なくて困っていると勘違いしてしまった。


 しかもこの事によってケヴィンが常日頃、口が酸っぱくなるほど言っている「ほどほどにしなさい」を自らの解釈によって、捻じ曲げてしまう。


 ケヴィンがこの三人に「ほどほどにしなさい」と言っているのは、三人が加減を考えずにいつもやりすぎてしまうからであり、これは三人にとってある種、枷の役割を担っていた。


 その枷を三人は自らの手で外そうとしている。


 ケヴィンにとっては思いがけないもらい事故に、更に車が突っ込んでくるようなものだ。


 やる気に満ちた三人。


 ケヴィンの付けた枷は、彼の知らないところでいつのまにか外され、野に放たれようとしていた。


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