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先輩のキモチ

 ――そして、時は現在に到る。


「ふーん……。『付き合ってほしい』って、そういう意味ね……」


 俺から詳しい事情を聞いた(シュウの俺に対する気持ちに関しては、さすがに伏せたが)諏訪先輩は、大きな溜息を吐いて、ジッと俺の顔を見つめ……睨みつけた。

 眼鏡の奥から俺を睨めつけてくる視線は、まるで氷で出来た剣のようだ。痛い程に鋭く、冷たい……。

 俺は、その視線に耐えきれず、背筋をピンと伸ばしつつ、そっと目を逸らした。――正に、『蛇に睨まれた蛙』のように。

 そして、カラカラに乾いた喉の奥を唾で湿らせると、恐る恐る口を開いた。


「は……はい……。そ、そういう事情でして……た、大変申し訳ないんですが、ぜ……是非ともご協力頂きたいと……ハイ」

「……」


 諏訪先輩は、俺の言葉に対して無言のままだった。

 俺は、そろそろと眼球を動かし、こっそりと諏訪先輩の様子を窺い――慌てて目を逸らし直した。

 更にその目を険しくさせた諏訪先輩が、白い悪魔に銃一丁で立ち向かう某中将閣下や、万華鏡写○眼に目覚めたうち○一族の者が遣う“須佐○乎”の様な、おどろおどろしい異形の者の形をしたオーラを、全身から立ち上らせていたからだ……。


「……高坂くん」

「ひゃ、ヒャイッ! スミマセンッ!」


 地獄の底から響いてくるが如き、諏訪先輩の圧し殺した低い声に、俺はビクッと身体を震わせ、反射的に謝った。俺の本能が『ヤバい!』と叫びながら、最大限の警鐘を脳内に響き渡らせている。

 そんな俺の様子を一瞥して、諏訪先輩は深く大きい溜息を吐き、静かに言った。


「取り敢えずね……あなた、曲がりなりにも文芸部の部員でしょ? 言葉の選択が下手すぎるわ」

「……スミマセン……」

「さっきの言い方じゃ、どうやっても誤解するでしょ? その……つ……“付き合ってほしい”って……。解釈次第によっては、高坂くんが、わた……私にこ――告白する……みたいに取られちゃうわ……よ」

「あ……確かに……」


 諏訪先輩の言葉で、俺はハッとした。――そうか、そう言われれば、確かにそう取られなくもない。

 俺は慌てて、ブンブンと首を横に振る。


「す……スミマセン! ちょ……ちょっと緊張しちゃって、()()()()()()()()()()()()()のですが、言葉足らずでした!」

「……ッ!」

「ひ――ッ!」


 そう、ハッキリと言い切った(・・・・・・・・・・)瞬間、諏訪先輩に物凄い形相で睨みつけられ、俺は思わず悲鳴を上げた。

 諏訪先輩は、まるで冬眠前のリスの様に頬を膨らませると、机の上のマグカップを乱暴に手に取り、すっかり温くなったであろうコーヒーを、一気に喉に流し込む。

 そして、叩きつける様にマグカップを机に置くと、眉根に皺を寄せながら呟いた。


「そ……そこまでハッキリと断言する事も無いじゃない……」

「……え? 何ですか?」

「――何でもないッ!」

「ハヒッ! スミマセンでしたぁっ!」


 迂闊に問い返した俺は、何故か頬を紅くした諏訪先輩に一喝されて(おのの)きつつ、深々と頭を下げる。


「……それに」


 と、諏訪先輩は、再び大きな溜息を吐きながら言葉を継ぐ。


「……クリスマスイブに、私の予定が空いているって確信してるのがまた……」

「え!」


 俺は目を丸くして、思わず驚きの声を上げた。


「あ……ひょっとして諏訪先輩、もうクリスマスイブの予定が埋まってしまっているんですか?」

「……う」

「あ……そ、そうですよね! 先輩には先輩の予定がありますもんね~!」

「……うぅ」

「――スミマセン! 俺、先輩の都合を全然考えてませんでした! 今の話は、忘れて頂いてオッケーですんで。どうぞ、先輩は予定通り、クリスマスイブを楽しんで――」

「埋まってなんかいませんっ!」

「――!」


 俺の言葉を途中で遮った諏訪先輩の絶叫に、俺は思わず、椅子の上から飛び上がった。

 諏訪先輩は、口をへの字に結んで、机に向かって真っ直ぐに座っていた。先輩の目の前には、立てられたタブレットがあるが、その焦点は、その画面ではないところに合っているようだった。

 ――と、


「……高坂くん」


 机に向かって座ったまま――つまり、俺には横顔を向けたまま、諏訪先輩は小さな声で俺の名を呼んだ。

 俺は、椅子から腰を浮かしたまま、慌てて返事をする。


「は……はい! な……何でしょ――」

「――出てって」


 俺の返事に被せてきた諏訪先輩の声は、抑揚が無く――温度も無かった。

 俺は、その低い声に唖然とした後、焦りで声を上ずらせながら、重ねて謝罪の言葉を口にする。


「あ……あの! すみません! 気を悪くしてしまっ――」

「いいから、出てってッ!」

「……ッ!」


 先程よりも鋭さを増した諏訪先輩の叫びに、俺は言葉を呑んだ。

 そして、もう一度謝罪しようとしたが、諏訪先輩が無言のままで、ワイヤレスキーボードのキーを強く叩き始めたのを見て、これ以上は無理だと諦める。

 俺は、机の上に投げ出したカバンを肩に掛け直して、先輩の横顔に向けて、ペコリと頭を下げた。


「……じゃあ……今日は失礼します、諏訪先輩……。すみませんでした」

「……」


 俺の別れの挨拶にも、先輩は無反応だった。

 小さく溜息を吐いて、俺は扉を引いて、部屋から出た。

 そして、ドアを閉める直前に見た時、先輩の目尻に光るものを見たが……気のせいかもしれない。

 今回のサブタイトルの元ネタは、『天空のエスカフローネ』の挿入歌『猫のキモチ』からです。

 作詞作曲は、『カウボーイビバップ』や『∀ガンダム』の音楽で有名な菅野よう子さんです。

 猫好きが思わずほっこりするような、優しい歌です。


 ……というか、ネットで調べると、歌っている歌手名が、『GabrielaRobin』となっているものと『大谷育江』となっているものがあるんですが、どっちが正しいんでしょうね……?

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