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心に百合の咲く方へ

 「何だかなぁ……」


 ソファに寝転がった俺は、液晶テレビの画面に映し出された屈強なキャラを手元のコントローラーで操作し、異形のモンスターを斬り捨てながら、独りごちた。


「……ハル姉ちゃんは、諏訪先輩を何処に連れて行ったのかなぁ……」


 ハル姉ちゃんが、ウキウキした様子で諏訪先輩を連れ出したのは、十時過ぎ。今は、午後二時を回ったあたりだ。もう、四時間近く経っているが、ふたりが帰ってくる気配は無い。


「……姉ちゃんは、『新しい扉を開けさせてあげる』とか言ってたよな……。何だよ……『新しい扉』って……?」


 ――ふと、コントローラーを操る手が止まる。


「もしかして……」


 ふと、俺の頭に、ある映像が浮かぶ――。



 ――薄暗い部屋で、潤んだ瞳でお互いに見つめ合うハル姉ちゃんと諏訪先輩。

 顔を真っ赤に染めた諏訪先輩が、おずおずと口を開く。


『そ……その……私、こういう事は……』

『うふふ……怖がらなくていいのよ、スミちゃん』


 恥じらう諏訪先輩に優しく微笑みかけたハル姉ちゃんは、先輩の顎に指を添えると、クイッと持ち上げながら、囁くように言う。


『優しくしてあげるからね。……スミちゃんは、私に身を委ねていればいいのよ……』

『……は、はい……』

『……いい子ね』


 覚悟を決めたように、その目を閉じた諏訪先輩の身体を優しく抱きすくめると、ハル姉ちゃんは、上気した顔を諏訪先輩の顔に近づけ――ふたりの唇が徐々に、徐々に、JOJOに――!



「――って! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァアアアアアアアアッ!」


 俺は、慌てて跳ね起きると、頭に浮かんでしまった不謹慎なビジョンを振り払おうと、虚空に向かって狂ったように拳を振り回す。


「はぁ……はぁ……はぁ……、碌でもない妄想を見せ、俺の精神力を疲弊させるとは……恐ろしいス○ンドだったぜ……!」


 俺は、目に見えぬスタ○ド(多分、死神みたいな格好をした奴)からの攻撃を、自らの○タンド『スター・ブロンズ』で見事撃退し、息を弾ませながら、額の汗を拭った。

 そして、コツンと自分の頭を小突く。


「……まったく、やれやれだぜ……。よりによって、自分の姉貴と先輩のゆ……ゆ……百合なんかを想像しかけるなんて……」


 有り得ない……。あのハル姉ちゃんが、そういうシュミな筈が無い――と、思う。……だって、大学のサークルだか何だかのコンパに、しょっちゅう行ってるし、――第一、ハル姉ちゃんが好きなのは、シュウだった筈……。

 ……いや、もしかすると、大学で新しい性癖に覚醒(めざ)めたという可能性も――。


「そ――!」


 ――再び、忍び寄るスタン○の気配を感じ取り、俺は『スターブロンズ』を発動させ、頭に浮かびかけた妄想もろとも打ち破ろうと、拳を振るう。


「そ……そんな事、ある訳無えだろオラオラオラオラオラオラオ――!」

「……な、何やってんだよ、愚兄……」

「オラあ……」


 オラオララッシュの真っ最中に、背中に投げかけられた、ドン引きした冷たい声に、俺の時は即座に止まった。


「……あ、羽海……」


 顔を引き攣らせながら、背後を振り返ると――、俺の姿を目の当たりにしてしまった羽海が、呆然とした顔で立ち尽くしていた。


「……あの、これは……その……」

「……ちょ! ち……近付くな! な……何か怖えからっ!」


 俺が羽海の方へ一歩踏み出すと、羽海は怯えた顔でリビングのドアの後ろに隠れた。

 マズい。――俺、妹に『何かヤバい人』認定された……?


「いや、違う! そんなにビビらなくていいから! これは、その――!」

「だーかーらー! 寄るなって言ってんだろうがァッ!」

「ぶ――ベラァッ!」


 恐慌に駆られた羽海が投げつけてきたペットボトルを、まともに顔面に喰らった俺は、典型的なやられ雑魚キャラのような断末魔をあげて、ソファに倒れ込んだ。


「……ユリの花がどうのとか言ってたと思ったら、壁に向かって空気殴り始めるし……! 本当に大丈夫なの? ――じゃなくて、あ……頭の病院行ってこい、このクソ愚兄ッ!」


 羽海は、ダウンした俺に向けて、無情に言い捨てると、リビングの扉を力任せに閉め、ドタドタと喧しい足音を立てながら、二階へと上がっていく。


「……あ、頭の病院行けは……さすがに酷くね……?」


 ひとり、リビングに残された俺は、そう呻くと、ソファに深く沈み込んだ。


 ◆ ◆ ◆ ◆ 


「たっだいま~!」


 ハル姉ちゃんの、無駄に元気な声が玄関から聞こえ、ソファの上でノビていた俺は、意識を取り戻した。


「お……おかえりぃ……」


 ヨロヨロと身を起こし、壁に掛けられた時計を見る。

 ――時計の短針は6を指していた。


「……マジかよ。もう六時……?」

「――おーい! お姉ちゃんとスミちゃんのお帰りだよ~! ひーちゃん、お出迎えしてくれないの~?」


 なけなしの休日が、終わりかけている事に愕然とする俺の耳に、ハル姉ちゃんの催促の声が届く。


「……あー、はいはい……ただ今行きますよ~……」


 俺は、ボンヤリした頭を振りながら立ち上がり、覚束ない足取りで玄関へと向かった。


「お帰り……ハル姉ちゃ――」

「はい! これ持って!」


 出迎えの言葉も言い終えぬ内に、ハル姉ちゃんは、両手に持った紙袋の山を俺に押し付けてきた。


「――って、多いな、オイ!」

「うふふ。だってぇ、久しぶりに渋谷まで行ったんだもん。そりゃ奮発しちゃうよねぇ~」


 呆れる俺を前に、満足げな笑みを満面に浮かべるハル姉ちゃん。

 その答えに、俺は目を丸くした。


「し……渋谷ぁ? 渋谷まで行ったの、ハル姉ちゃん? 諏訪先輩を連れて……?」

「そうよ~。だから、こんなに遅くなったんじゃない。……って、ひーちゃんは、私たちがドコに行ってたと思ったの?」

「ど――ドコって……」


 ハル姉ちゃんに尋ねられて、俺は思わず、昼間に想像した百合百合しい(・・・・・・)情景を思い出してしまった。

 慌てて、首をブンブンと振り回し、自分の拳で頭を叩きまくる。


「ど……どうしたの……? ひーちゃん……」

「な――何でもない!」


 目を丸くして、心配そうな表情を浮かべるハル姉ちゃんに、俺は掌を振って引き攣り笑いを浮かべた。


「ちょ……ちょっと、頭の物理的体操を……あ、あははは……」

「……大丈夫? 主に頭が……」

「……て!」


 何となく、痛々しい空気が蔓延しそうになり、俺は慌てて話題を変える。


「と――ところで! す……諏訪先輩は――どこに?」


 そういえば、先程から、諏訪先輩の姿が見えない事に気付き、俺はハル姉ちゃんに尋ねた。

 と――、ハル姉ちゃんが、ニヤリと微笑む。


「うふふ~。ちゃあんとスミちゃんも居るわよ。玄関の向こうにねぇ」

「……何で入ってこないの?」


 俺は、怪訝な顔をして首を傾げた。

 すると、ハル姉ちゃんの笑みが、ニヤニヤ笑いに変わる。


「なぁんかね、恥ずかしいんだって」

「……恥ずかしい?」


 俺は、更に首を傾げる。

 すると、ハル姉ちゃんが玄関を開けて、ドアの向こうにいるらしい諏訪先輩を手招きした。


「おいでぇ、スミちゃん! 恥ずかしがらなくていいのよぉ」

「……」

「……え? ダメよぉ、帰っちゃ! せっかくの格好なんだから、ちゃんとひーちゃんにお披露目しなきゃ!」

「……!」


 ――どうやら、諏訪先輩は、俺の前に姿を現す事を躊躇しているようだ。

 だが、ハル姉ちゃんは容赦しない。


「もう、焦れったいなぁ! ほら、つべこべ言わないで、こっちにおいでぇ!」


 そう言うと同時に、その手を伸ばし、諏訪先輩の手首をむんずと掴んだようだ。そのまま、力任せに引っ張り込む。


「お、おい、ハル姉ちゃん! 本人が嫌がっているのに、そんな乱暴な――!」


 俺は、慌てて止めようとしたが、ハル姉ちゃんによって、強引に玄関の中に引きずり込まれた人物の顔を見て、思わず言葉を喪った。


「……え? ウソ……?」


 俺は、目をまん丸にして、呆然としながら、目の前の人物に訊いた。


「ほ……本当に……諏訪先輩――ですか?」

「……うん」


 俺の問いかけに対し、目の前に立つ、眼鏡をかけた長身の美人(・・)は、小さく頷いた――。

 ヒカルの前に現れたスタ○ドの名は「デ○13」あたりですかね(笑)。

 JOJ○ネタは好きで、よく使っちゃいますねぇ……(笑)。


 サブタイトルの元ネタは、ASKAのシングル曲『心に花の咲く方へ』から採りました。(チャゲ)アスネタが多い? ……しょうがないじゃん、好きなんだからぁッ!

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