表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/217

気鬱のやり場

 本当に色々ありすぎた日曜日の翌日――。

 登校した俺は、机に鞄を置く間もなく、血相を変えたクラスメート達に囲まれる事になった。

 級友達は、クラス全員の注目を浴びるという人生初の経験で、生まれたての子鹿のようにブルブルと怯える俺に向かって、次から次へと質問を浴びせまくった。

 曰く――、


「――おい! 工藤が車に轢かれたってマジかよ!」

「大丈夫なの、工藤くん……?」

「つか、工藤が轢かれたのは、車じゃなくて特急列車だったってマジか?」

「え、そうなの? オレは、部活の練習中に、150キロのストレートが頭に直撃したって聞いたけど……」

「だからぁ、直撃したのは、150キロのストレートじゃなくて、150キロで走ってきたトラックだって――!」

「――あたしが耳にしたのは、トラックの方が大破して、運転手が病院送りにされたって話だったけど?」


 ――などなど。

 どうやら、みんなが耳にした情報が錯綜しすぎて、もはや訳が分からん事になっているようだ。噂が噂を呼んだ上に、余計な尾ひれが付きまくって、雪だるま式にデマと誤情報が絶賛拡散中の模様である。

 稀に良くある『伝言ゲームの法則』ってヤツだ。

 ……つかさあ、

 いくらあのシュウでも、さすがに特急電車や150キロのトラックにぶつかったら、入院じゃ済まねえよ。そのぐらい、常識で判断していただきたいものだ……。

 結局俺は、朝のホームルームが始まるまでの間、嘘・大げさ・紛らわしい、そしていい加減極まるクラスメートのシュウ安否情報を、ひたすら修正する事に忙殺される事になった。


(――何で、朝っぱらからこんなに疲弊せなアカンのや! ……しかも、昨日、俺にあんなに酷いドッキリを仕掛けやがった、あの野郎の為に……!)


 俺は、そんなやり場の無い苛立ちと怒りを覚えながら、石臼で挽き潰されるように、精神力をゴリゴリと削られていくのだった。




 が、俺が一通り、皆の誤解を解き、やっとの事で『シュウはトラックに轢かれたけれど、軽傷でピンピンしている』という正しい情報を浸透させた後は、朝の多忙っぷりが嘘のように、俺の境遇は一変した。

 授業の合間の休み時間、仲の良いクラスメート同士が三々五々集まって、あちこちでバカ話や恋バナやスマホゲームで盛り上がっている間、絵に描いたように孤立した俺は、ポツンと自分の机で小さくなっていた。

 教室はこんなに騒がしいのに、俺の机の周囲だけは、まるで静かな湖畔の森の奥の如き静寂に包まれている……。


 …………久しぶりだ、こんな疎外感。


 いつもだったら、俺の隣にはシュウ(アイツ)が居て、やれ昨日観たTVがどうの、やれ算数が悪魔の学問だだの、やれ駅前のタコ焼き屋のソースがマジ美味えだのと、下らない話をしているのだが――、今日の俺の隣には、不自然なスペースがぽっかりと空いているだけだ。


(……つまらないな)


 あいつ一人いないだけで、俺はクラスでこんなに孤立してしまうのか……。

 ――心外極まる事だが、如何(いか)にいつもの俺がシュウの存在に救われていたのかを、否が応にも思い知らされる。

 同時に、俺の筋金入ったコミュ障っぷりもだが……。


(……て、そんな事を、いつまでもグジグジ考えても仕方が無いよな……)


 俺は、滅入りがちになる気分を何とか奮い立たせようと、両掌で自分の頬を軽く叩いた。

 現実問題として、今この場にシュウは居ないのだ。居ないヤツの事をアテにしていてもしょうがない。――そうだろ?

 これから暫くの間、俺は一人っきりで、授業の間の休み時間や、50分もある昼休みを過ごさなければならないのだ。のっけからこの調子では、俺の精神力はとても保たない。


 何か……何か無いか?


 このぼっち時間を、周りに怪しまれる事無く過ごし、次のチャイムまで凌げる妙手は――。

 俺は、行き場の無い視線を窓の外に向け、「お空キレイ」を装いつつ、必死で思案を巡らせる。

 と――、


「――っ!」


 画期的な打開策が、まるでニュータイプに目覚めたどこかの天パの様に、俺の眉間の間を稲光となって走った。

 俺は、自分の灰色の脳細胞の冴えっぷりに驚嘆を覚えつつ、善は急げとばかりに、思いついた作戦(オペレーション)を早速実行に移す。


「……ふぁああ」


 俺は、大げさに欠伸をして、両手を頭上に上げた。


「……な、なぁんか眠くなってきちゃったなぁ。うん、眠くて眠くてしょうがないぞう。――ちょっと、寝てようかなぁ~、うん」


 俺はさり気なく……そして、周りにハッキリと聞こえるように呟くと、わざとらしい欠伸をしながら、机の上に突っ伏す。

 ――そう、


 これぞ、必殺技『ボッチの呼吸・壱の型 寝狸(ねだぬき)』である(今名付けた)!


 説明しよう!

 これは、いかにも眠くてしょうがない体を装い、机の上へ身体を伏せる事で、周囲の視線を躱す効果が期待でき、尚且つ、他人と接触せずひとりでいる事に対して、「寝ているから」という無理のない理由付けが可能。更に、周囲に「寝ている人を起こしてはいけない」という心理を励起する事で、ATフィー○ドばりの心理的防御壁の構築も出来るという、攻防一体の絶技なのだ(ナレーション・千○繁)!


(ふははははは! 我、勝てりッ!)


 俺は、伏せた顔に不気味な笑いを浮かべつつ、胸の中でガッツポーズをする。

 ――『一体、何に勝ったんだ?』という、至極真っ当で冷徹なツッコミが頭を過ぎったが、華麗にスルーを決め込んだ。

 ――とにかく、この技を駆使すれば、休み時間は当分凌げる。

 案外、チョロいじゃねえか……。


「……」


「…………」


「……………………」


 ――つまんね。

 やっぱり、アイツがいないと……。

 今回のサブタイトルは、あの大人気マンガ『鬼滅の刃』から――あ、ごめんなさい! 石は投げないでぇっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ