愛'm Loving It……?
「おい……ホントに大丈夫か、ヒカル……?」
心配顔でテーブル越しに身を乗り出してくるシュウの頭を押しのけながら、俺は紙コップに注がれた水を飲み干す。目の前のテーブルには、心優しい店内のお客さん達が持ってきてくれた紙コップが十数個、所狭しと並べられていた。
――現代社会の人情とやらも捨てたモンじゃないと感謝しつつ、俺はさっきの顛末を思い出し、恥ずかしさで顔を真っ赤に染める。
「……大丈夫だよ。そんなに大した事じゃ無いし。つか、昔っから心配性過ぎるんだよ、お前はさ」
「いやあ、だって、ホントに苦しそうだったから……」
野球部らしく、短く切り揃えた頭を掻きながら、視線を泳がせ、そう言い訳するように言うシュウ。
そんな親友の様子に、俺は思わず噴き出した。
「落ち込みすぎだって。――まあ、大袈裟過ぎだったけど、心配してくれて、ありがとうな、シュウ」
「! お、おおう――!」
俺の言葉に、シュウはパッと顔を輝かせた。――まったく、昔と変わらず、分かり易いヤツだ。
シュウは、四つ目のチーズバーガーを口に放り込むと、もしゃもしゃと音を立てて咀嚼し、あっという間に飲み込んだ。
そして、音を立ててコーラを飲み尽くすと、俺の目をジッと見て、有無を言わさぬ迫力を醸し出しながら訊いてきた。
「……で、どうだったんだ? 早瀬との話って――」
「……」
――はい、振り出しに戻る。
気まずくなった俺は、射るようなシュウの視線から目を背けつつ、シェイクを吸い上げる。……あの騒ぎのドサクサで有耶無耶になればいいなと思っていたけど、そうはうまくいかないみたいだ。
「黙秘権――」
「却下」
俺の権利は、無情にも即取り下げられた。
「――お前が、あんなに……日が暮れてる事にも気が付かないほどに打ちのめされてるのを見て、放っておけるかよ。よっぽどの事を言われたんだろ、あの女に」
「……いやあ……」
……まあ、確かに、よっぽどの事では――ある。
「もし早瀬が、呼び出したお前に向かって、からかったり、ディスる様な事を言いやがったんだとしたら、オレは――ゼッテーに許さねえ!」
「わあ、待て待て! 落ち着けシュウ!」
握った拳を振るわせて、イケメン面を憤怒で歪めるシュウを前にしたオレは、ブンブンと首を振りながら、必死で宥める。
「違うから! あの子は、そんな事は言ってない! 勘違いするなよ!」
「……じゃあ、何て言ったんだよ、お前に?」
「……う」
俺の言葉に対する、シュウの率直な返しに、言葉を詰まらせる。
俺は、気まずげに視線を泳がせながら、トレイの上のポテトを一つまみして口に運んだ。
もしゅもしゅとポテトを咀嚼しつつ、俺はおずおずとシュウに訊く。
「……言わなきゃダメ?」
「ダメ」
シュウの答えはにべもない。
……しょうがない。
俺は、大きな溜息を吐くと、シュウの目を真っ向から見返した。
「……じゃあ、言うけど。その前に約束してくれ。“絶対に怒らない”――って」
「……“怒らない”って、誰に対して? 早瀬? ――それとも、お前?」
「――両方、かな」
「……」
俺の答えに訝しげな表情を浮かべるシュウだったが、大きな溜息を吐くと、
「――どんな内容なのかによるから、“絶対”とは約束できない。――けど」
と、シュウは険しい表情を崩さないまま言った。
「できる限り、怒らないように努力する……それなら約束する」
「――まあ、それでいいよ」
俺は、シュウの言葉に頷いた。一抹の不安はあるが、あの件は俺だけじゃなくて、シュウにも多分に関係がある事なのだ。いずれは話しておかなければならない。
――けど。
「……悪い、もうひとつ条件付けていい?」
「もうひとつ?」
「――うん」
首を傾げるシュウを前に、ガラでもなく緊張しながら、俺は言った。
「……これから言う話を聞いても……これまでと同じように、俺と接してほしいんだ。……出来れば、で構わないけど。――これは、“約束”って言うよりはむしろ“お願い”かな――」
「解った。“約束”する」
――今度は即答だった。
ハッとして、顔を上げると、シュウが満面の笑顔で俺を見ていた。
「今更、水臭い事言うなよ、ヒカル。オレとお前の仲だろ? どんな話が来ようと、オレは今更お前との付き合いを変える気は無いよ。変な心配すんな」
そう言いながら、シュウは俺に向かって力強く頷いてみせる。
俺は、不意に視界が歪むのに気が付き、慌ててシュウから目を逸らした。
「……あんがと」
早口でそう呟くと、コホンと咳払いをする。
……まったく、ホントにイケメンだよな、コイツ。
もし、俺が女だったら……
! って、俺は何を考えているんだ?
何だろう……さっきの早瀬の話から、どうも調子がおかしい。どうしても、要らぬ意識を抱いてしまう。昨日までは考えもしなかった事を……。
これは、さっさとシュウに話をして、肩の荷を下ろしてしまった方が、精神衛生上良いだろう……、俺はそう判断して、シュウの方へと向き直った。
「じゃ、言うぞ……放課後、俺が早瀬に言われた内容を……」
俺の言葉に、シュウはコーラのストローを咥えながら、『飲み終わるまで、ちょっと待って』とジェスチャーする。
が、俺は、心の重荷を一刻も早く吐き出してしまいたくて、シュウのサインなどお構いなしに、一気に捲し立てた。
「は――早瀬は、俺とお前、どっちが“受け”でどっちが“攻め”なのかって……よ、要するに、俺とお前が……その、こ……恋人同士なんじゃないかと――!」
「――! ブッフゥオオッ!」
次の瞬間、俺は、シュウが噴き出したコーラの毒霧を、マトモに顔面に浴びる事になるのだった――。
サブタイトルが、何で『○'m Lovin' It』じゃないかって……?
そりゃ、権利関係で、ドナル○さんが白面に凄惨な笑みを浮かべながらやって来ないようにする為ですよ……((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル