表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/217

ミックの中心で哀を叫ぶ

 俺とシュウは、学校からほど近いファーストフード店・ミックジャガルドに立ち寄った。

 夕飯時というにはもう遅い時間だったが、会社帰りのサラリーマンや、ポテトを摘まみながらキャピキャピ囀る、ケバいメイクの女子高生など、客の数は多い。

 俺たちは、注文した品を載せたトレイを手に、キョロキョロと辺りを見回し、ちょうど良いタイミングで空いたテーブル席を見付けて、すかさず確保する。

 前に座っていたサラリーマンのおっさんの(ケツ)の温もりが仄かに残ったソファに、ちょっとだけ顔を顰めつつ腰を下ろした俺は、向かいの席に座ったシュウの持つトレイを見て、呆れたように言った。


「……いっくら、野球部だからって、相変わらず良く食うよなぁ」

「え? フツーだろ、こんくらい」


 シュウのトレイには、チーズバーガーが6つ、ポテトとコーラのLサイズがそれぞれ2セット、誇張なしに溢れんばかりに盛られている。チーズバーガーなんて二段重ねだよ……。見ているだけで胸やけがする。


「俺にとってはフツーじゃないんですけど……」


 俺は、照り焼きバーガーの包装紙を剥きながらツッコむ。

 シュウは、ジーッと俺の前のトレイを見て、心配そうな顔をした。


「……その言葉、そっくりそのまま返すわ。お前、たったそれっぽっちで夕飯足りんのかよ?」

「……いや、世間一般的には、こっちの方がフツーなんだよ」


 俺は、シュウの言葉に首を傾げながら言葉を返すが、少し気になって、自分の手元に目を落とす。

 照り焼きバーガーに、MサイズのポテトとSサイズのシェイク――もちろん1セットだけ。……うん、どこにも問題は無い――よな?


「いやあ、足りねえだろ。もっと食わねえと、いつまで経っても背が伸びねえぞ」

「どこのおかんだよお前」


 俺は、シュウの言葉にムッとして、ジト目で睨む。


「……悪かったな、タッパがたった165cmしか無くってさ」

「あ、悪い。地雷踏んだ、オレ?」

「踏んだよ、思いっ切り! 俺の心に、深い深いクレーターが刻まれたわ、このウドの大木めッ!」


 俺は、頬を膨らませて思い切り毒づく。

 シュウは、「ごめんごめん」と軽い調子で俺に謝りつつ、早くも平らげた一個目のチーズバーガーの包装紙を丸める。


「でもさ……折角、オレが奢ってやったんだから、ポテトをLサイズにしても構わなかったのによ」

「……いや、今『ポテト全品150円キャンペーン』中だから、MでもLでも値段変わらないよな」


 俺のツッコミに、シュウは「バレたか」と苦笑いを浮かべた。

 そんなシュウに苦笑を浮かべつつ、俺はシェイクにストローを刺し、一口啜る。――が、粘度が高くてスライムのようになっているシェイクは、啜ってもなかなか俺の口の中まで上がってきてくれない。

 ――前から思ってたけど、飲みづらいにも程があるぞ、このシェイクって奴は……美味しいんだけど。

 俺は、舌と唇と横隔膜に力を加えて、何とかイチゴ味のシェイクを吸い上げようと悪戦苦闘する。


「……でさ」


 ――と、シュウが、ポテトを摘まんだ後の指先を舐めつつ口を開いた。俺は、ようやく上がってきたストロベリーシェイクの冷たさと甘ったるい味を舌先で堪能しつつ、上目遣いでシュウを見る。


「ん? ふぁふぃ(なに)?」

「――あのさ」


 シュウは、言葉に出す事を、らしくもなく躊躇っている様子だったが、意を決したように表情を引き締めると、俺に向かって言った。


「――放課後、早瀬と何を話してたんだ?」

「ブフォォオッ!」


 直球過ぎるシュウの問いかけに、俺はストローを咥えたまま、思い切り噎せた。その弾みで、口中のシェイクが気管と鼻の奥に入り込み、俺は悶絶する。


「――! んがっぐぐっ! ゴホッゴホッ!」

「お――おい! 大丈夫か、ヒカルッ!」


 シュウは、覿面に慌てた様子で俺の横に回り、必死で俺の背中をさすりつつ、自分の飲みさしのドリンクを差し出した。

 俺は、碌に考えずにシュウからドリンクを受け取り、ストローから思い切り中身を吸い込む。

 次の瞬間、


「――! ッ! んんーッ?」


 俺の喉と食道の粘膜は、炭酸による無慈悲な総攻撃に晒された。俺は迂闊にも、シュウが飲んでいたのがコーラLサイズだったのを失念していたのだ――。

 痛い! シュワシュワがメッチャ痛え!


「う――うわわわ! ま、マジで大丈夫か? だ、誰か! 誰か水をぉ!」


 更にテンパったシュウは、恥も外聞も無く、野球部の声出しで鍛え上げられた声帯をフル活用して、周囲に助けを呼んでいる。


(……止めてくれ、シュウ……。メッチャ恥ずい……!)


 俺は、必死でシュウのシャツの胸元を掴んで、そう訴えたつもりだったが、炭酸による深刻なダメージを受けた俺の声帯は全く仕事をしなかった。


「ひ、ヒカルぅっ? く、苦しいのかッ? おいっ、死ぬなアアアアア!」


 そんな俺の様子を見たシュウがますますテンパる。そのただならぬ様子に、周囲の客達が心配顔で、続々と俺たちのテーブルへと集まってくる……。

 『……いや、死なねーよ、バーカ』と、思い切りツッコみたいのに、声を上げるどころか、身体を動かす事もままならず、騒ぎばかりが大きくなる。

 その内、お医者様でも呼ばれてしまうんじゃないか――俺は、喉の痛みと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、ただただそれを心配していたのだった……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] テンポよく話が進んでとても読みやすい! 友人との掛け合いもコミカルで面白く、ヒロインの勘違い要素も掴みとしてバッチリですね。 [一言] 感想を書くのは久しぶりで、いつの間にか書式変わってて…
[良い点] いやぁ!あらすじから滅茶苦茶気になりました! 笑った笑った(笑) いいですね!率直な意見はシンプルに面白い!でした [気になる点] 今の所は三話拝見させていただきなかったです! [一言] …
2020/04/17 19:59 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ