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早瀬結絵という女の子

　「は――？」

　『早瀬に、お前のＬＡＮＥＩＤを教えたのはオレだ』というシュウの一言を聞いた俺は、思わず絶句してしまう。

　目をパチクリさせながら、シュウの顔を凝視

「……え、な……何で……？」

「早瀬、『他にいなかった』って言ってたぜ。お前の連絡先を知ってる奴が――」

「はいぃ……？　いや、居(お)るわ！　俺の連絡先を知っている奴なんか、お前以外にも……」

　シュウの言葉に、思わず言葉を荒げて、俺はスマホを取り出した。

　憤然としつつ、ＬＡＮＥを起動させ、『友だち』一覧を見て――、

「……居ねえ……」

　俺の友だちリストには……、ハル姉ちゃんと父さん母さん、あとシュウと――早瀬。

　あとは――――、

　…………以上。

　スクロールバーすら表示されない、短すぎるリストに心をへし折られ、俺はガックリと肩を落とした。

「……ま、まあ、気を落とすなよ、ヒカル。友だちリストが多くたって、偉いとは限らねえし。――多いと逆に煩わしいんだぜ。しょっちゅう通知が鳴るし、バンバン知らない奴から友だち申請が流れてくるわ、グチグチと陰口みたいなのが流れてきたりとか……」

「……うっさい。無理に慰めようとするな。却って傷つく……」

　しょげ返る俺を前にして、オロオロとした様子で必死にフォローしようとするシュウを恨めしげに睨んでみせた。

　俺に一睨みされたシュウは、その大きな身体を小さく丸めてしょげ返る。

「……すまねぇ」

「いや、素直に謝るなや。ますます惨めになる……。ていうかさぁ……」

　俺はそこまで言うと、大きな溜息を吐いてみせた。

「……いくら、他に俺の連絡先を知らないって言ってもさ。よりによって、お前に訊くか、フツー。いわば、俺たちのターゲットだろ、お前……」

　シュウは、俺が秘かに片想いをしている相手なのである。……あくまで、早瀬の脳内設定的には――であるが。

「確かに――。オレもその時、同じ事を思った」

　俺の愚痴に、シュウも大きく頷いた。

「突然、話しかけられて、何かと思ったら、『高坂くんのＬＡＮＥＩＤとか知ってる？　知ってたら教えてほしいんですけど……』って言ってきて、思わず『何で？』って聞き返しちゃったよ」

「――て、聞き返したんかい！」

　思わずツッコんだ俺。ふたりのやり取りの行方に俄然興味が湧いて、思わずシュウに訊いてみる。

「で……、お前に尋ねられた早瀬は何て答えたんだ？」

「それがさ――」

　その時の様子を思い出したのか、シュウは苦笑を浮かべながら答えた。

「思いっ切り目を泳がせながら、『べ、別に……工藤くんとはカンケー無い、ギョーム上の連絡が必要になったから……デス』……って言うんだよ。俺も、『事情は知ってるから』と言う訳にもいかねえから、そのまま流したけど、本当は『いや、オレ、メチャメチャ関係あるやんけ！』ってツッコみたくてしょうがなかったぜ……」

「――ブッ！」

　その時のやり取りを再現してみせるシュウのおどけた口調に、俺は思わず吹き出した。

「……つうか、俺とお前をくっつけようとする作戦が“業務”かよ。何つーか――」

「見た目と違って、意外と変な娘(やつ)なのかもな、早瀬って……」

　――うん、知ってる。

　そこらへんは、昨日、嫌と言う程実感したよ……。

　あんな美少女なのに、思ったよりも、ずっと（服とか趣味とかが）奇天烈……個性的だし、平気で男をアニメィトリックスの女性同人誌コーナーに引きずり込むわ、自分の特選女性同人誌(コレクション)を、嬉々として貸し出してくれたりするわ……。

　でも――、

　早瀬は、女慣れしてないあまりに、彼女に対して散々挙動不審な態度を取りまくっていた、陰キャの俺に対して、至って普通に接してくれていた。――俺にはそれが、理屈抜きで堪らなく嬉しかったのだ。

　だから、これは自信を持って言える。

「でも――、間違いなく素直ないい娘(こ)だよ、早瀬は。昨日会って、それは確信した」

「……そうか」

　聞きようによっては、惚気にとれなくもない俺の言葉に呆れたのか、その目を丸くしたシュウだったが、やがてその顔に微かな笑みを浮かべると、俺に向かって静かに頷きかけた。

「……良かったな。好きになった子がいい子で――」

「……お、おお……？」

　……何故だろう？

　俺の目には、シュウの笑顔に、どことなく寂しいものが混じっている様に見えたのだった――。