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俺の事ではない これは友達の事

 「あ……はい……」


 糟賀さんに促された俺だったが、思わず口ごもった。

 不退転の決意で、羽海からお金を借りてまで栗立(ここ)まで来た目的は、糟賀さんに相談したいが為だった。それなのに、いざ相談する段になって、急に怖じ気が芽生えてしまったのだ。

 俺はモジモジしながら、落ち着かなげに視線を宙に彷徨わせる。


「えと……その、ですね……」

「……? どうしたんすか? そんな難しい顔になって」


 煮え切らない態度の俺を見て、糟賀さんが訝しげに首を傾げる。

 そして、額に垂れた一房の茶色い前髪を指でいじりながら、俺に向かって尋ねかける。


「えっと――オレに相談って事は……まあ、女性関係の事っすよね?」

「あ……え、ええ。そ……そうですね……ハイ」


 糟賀さんの問いかけに、俺はぎこちなく頷く。

 それを見た糟賀さんは「ですよねー」と頷き返すと、更に問いを重ねる。


「……じゃ、『この前一緒にご来店した、晴れ着姿の女の子に関する事で相談したい』……って感じっすか?」

「う……え……あ……」


 糟賀さんのストレートな問いに、まだ考えと覚悟が固まらない俺は陸に打ち上げられた小魚のように、口をパクパクさせる。

 どう答えようか迷いながら、取り敢えずテーブルの上のグラスを手に取ると、口元に運ぶ。

 冷たい水で喉を潤わせると、千々に乱れた気持ちが少し落ち着いた――気がした。

 俺は小さく息を吐くと、重い舌を動かし始める。


「……あの、これは、俺()()()()()、俺の()()の事なんですけど……」


 ――はい、ヘタレましたぁ。

 相談したい内容が自分自身の事だと言いたくないあまりに、イマジナリーフレンドをでっちあげちゃいました、俺!

 “ヘタレ”と罵りたければ、存分に罵るがいい――つか、むしろ俺自身が一番罵倒したいわ、このクソゴミナメクジヘタレ野郎が!


「はぁ……愚兄マジダセエ……相談事を“友達の話”にするとか、少女マンガのお約束かよ……」

「……」


 隣から聞こえてきた、呆れ果てたという響きに満ちた声は華麗にスルーする。

 一方、一瞬キョトンとした表情を浮かべた糟賀さんだったが、すぐに察したように目を見開いた。そして、口元に微かに笑みを湛えながら小さく頷いた。


「……ああ、友達ね。ラジャーっす。じゃ、そういう事にしておきましょう」

「……」


 『そういう事にしておきましょう』って……。

 本当は俺自身の相談だって、完全にバレてるな、こりゃ……。

 俺は内心、顔から火が出るほどに恥ずかしかったが、せっかく糟賀さんが気付いていないフリをしてくれているので、表面では素知らぬ顔をして、話を続ける事にする。


「え……ええとですね。そ、その友達なんですけどね」

「うんうん」

「――彼には好きな女の子が居たんですが、ついこの前、その子に告白して……『ごめんなさい』って言われちゃったんですね。……まあ、要するにフラれた訳です、ハイ」

「ほおほお」

「……で、ですね。友達には、部活で女子の先輩がいまして……二年生なんですけど……」

「……あ、ちょっといいっスか? 大事な事なんですけど」


 そこで、突然糟賀さんが俺の言葉を遮った。


「あ……は、はい。何でしょう?」


 話を遮られた俺は、目をパチクリさせながらも頷く。

 すると、糟賀さんは、今まで見た事の無いような鋭い目をして、低い声で言った。


「――その、先輩の女の子……可愛いんすか?」

「は……ぁ?」


 その真剣な表情から繰り出された、間の抜けた質問に俺は拍子抜けしたが、気を取り直し、オズオズと頷いた。


「え……ええと、“可愛い”って言うよりは、“綺麗”って感じですかね……。俺とひとつしか歳が違わないとは思えないほど、落ち着いてますし。……ちょっと怖いけど」

「ほうほう、キレイなお姉さん系っすか! いいっスね~!」


 俺の答えを聞いた糟賀さんは、鼻の下を伸ばしながら大きく頷いた。

 そして、目を爛々と輝かせながら、更に質問を重ねる。


「で! スタイル的にどうっすか? 背は高い? ボンキュッボンな感じ? それとも、おねロリ系?」

「え、ええ~……? そ、それ、答えなきゃダメですか? っつーか、相談と全然関係なくないですか――?」

「な――にをおっしゃるっすかぁっ! 関係大アリに決まってるでしょうがぁ! いや、むしろそこが最重要っスよ、マジで!」

「えぇ~……そ、そうなんですか……?」


 異端裁判の場で地動説を唱えるガリレオも斯くやという、糟賀さんの力説っぷりに気圧されつつ、懐疑的な目を向ける俺。

 だが、取り敢えず訊かれた事に答える為、脳内で諏訪先輩の姿を再生してみる。


「え……ええと、雰囲気はちょっと地味系ですけど、スタイルは良いと思います。背も、俺より少し低いくらいだし……。あと、胸もなかなか……」


 そこまで言うと、俺はぢっと手を見た。

 いつぞやの時に偶然揉ん……触れた、先輩の胸のボリュームを思い返す。……思わず鼻の下が伸びそうになるのを堪えながら。


「そうですね……あれは、少なくてもC、ひょっとするとDまでいくかも……」

「ほうほうほう!」


 胸の中と顔とを熱くしつつ答えた俺の言葉に、糟賀さんも興奮を抑えられない様子で鼻息を荒くする。

 と、次の瞬間――、


「――こんの、スケベどもっ! 真っ昼間から、おっぱいがどうのこうのなんて話を、女の子の前ですんなしっ!」

「ぶべらっ!」

「へぶしっ!」


 俺と糟賀さんは、顔を真っ赤にした羽海にメニューで思いっ切りぶん殴られた――!

今回のサブタイトルの元ネタは、UVERworldの曲『僕の言葉ではない これは僕たちの言葉』からです。

……ネタが苦しい? 知ってます! (´;ω;`)ウゥゥ

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