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昼眠イベントを覚えず

 そんなこんなで、俺たちはフードコートでお弁当を分け合いながら食べたのだが――。

 満腹になった途端、急激な睡魔が俺を襲ったらしい。

 無理もないだろう。

 昨夜は一睡もできないままで、これまでずっと起きっ放しだったんだ。

 満腹感と安心感と、程よく暖められたフードコートの空調のトリプルコンボの前に、俺は抗う事が出来なかった――ようだ。


「……むにゃ」


 ――テンプレ通りの寝言を吐きつつ意識を取り戻した俺は、自分がテーブルに突っ伏している事に気が付いた。


「――はッ? お、俺……寝てた――!」


 慌ててガバリと身を起こし、キョロキョロと周囲を見回す。


「……おはよう、高坂くん」


 ――テーブルに居たのは、テーブルの上でタブレットを立て、携帯キーボードで入力している諏訪先輩ひとりだけだった。

 寝起きで頭がぼーっとしたままで、事態を把握できていない俺は、目を瞬かせながら、おずおずと先輩に尋ねる。


「あ……あれ……? 諏訪先輩だけですか? 他の二人は……っていうか、今何時……?」

「……ヨダレ、垂れてるわよ」

「あ……」


 と、返事をする間もなく、諏訪先輩はポケットから取り出したティッシュで、俺の口元を拭ってくれた。


「あ……す、すみません……」


 俺は、ドギマギしながら、先輩にお礼を言う。


「……今は、1時47分よ。大体一時間くらいかしら、高坂くんが寝てたのは」

「うぇえ、マジっすか……。別に、起こしてくれてもいいのに……」


 貴重な時間を無駄にしてしまった俺は、思わず恨み言めいたことを口にしてしまった。

 すると、諏訪先輩はキーボードに指を走らせながら、ちらりと俺の方を一瞥して言う。


「一応、何回か起こそうとしたんだけどね。それでも起きなかったのは、あなたの方よ、高坂くん」

「あ……す、スミマセン……」


 先輩の言葉にぐうの音も出ず、俺はペコリと頭を下げた。

 そして、首を巡らせてフードコート内をぐるりと見回す。しかし、早瀬とシュウの姿はどこにも無い。

 と、その時、


「早瀬さんと工藤くんは、ここにはいないわよ」

「え?」


 まるで心の内を見透かされたかのように、突然かけられた言葉に俺は驚く。

 そんな俺を一瞥し、カタカタとキーボードを鳴らす手を休めることなく、諏訪先輩が言葉を継いだ。


「あのふたりは、1時から中央広場の方へ行ったわよ。クリスマス限定のイベントが開かれてるみたいだから」

「へ? く……クリスマス限定のイベント……? 何すか、それは……」


 何とも嫌な予感に襲われながら、俺は諏訪先輩に訊く。

 すると、先輩は無言でテーブルの上に置かれたチラシを指さした。『読みなさい』という事らしい。


「……?」


 俺は、訝し気な表情を浮かべつつ、指さされるままにチラシを手に取り、印刷された文字を目で追う。


「なになに……『クリスマス限定特別企画! ベストカップルコンテスト開催!』か……ふーん……ん? んんんっ? べ……()()()()()()()()()?」


 俺はクワっと目を見開くと、思わず椅子から立ち上がり、素っ頓狂な声を上げてしまった。

 周囲のテーブルに座っていた家族連れが、びっくりした表情で、立ち上がった俺を凝視している。


「……うるさくしてスミマセン……」


 俺は周囲にペコリと頭を下げると、静かに椅子に座り直す。

 そして、声を潜めて諏訪先輩に抗議する。


「……ちょ、ちょっと! 先輩、何ですか、この『ベストカップルコンテスト』って!」

「さあ? でも、クリスマスイブだしね。そういうイベントは、遊園地には付きものじゃない?」

「……っていうか、何であのふたりが……? つか、先輩が止めてくれても良かったのに……」

「そう言われてもね……。参加するもしないも本人の自由なんだから、別に止める理由もないでしょ? 本人たちもいたって乗り気だったし」

「の……乗り気ぃ?」


 諏訪先輩の言葉に、俺は愕然とした。


 乗り気って……いったいどういう事?

 俺の記憶が正しければ、ふたりは、俺の恋の成就をサポートする為に、俺に手を貸してくれてたんじゃないのか? ――まあ、俺にくっつけようとしている標的(ターゲット)というのが、シュウは早瀬で、早瀬はシュウという、複雑なモザイク模様になっている訳なのだが……。

 ……まさか、この遠足で、早瀬がシュウに惹かれちゃった? ――もしかして、弁当の時のやり取りがフラグで?

 ――或いは逆に……シュウが早瀬の魅力に気付いちまったのか……?

 キーッ! 俺という者がありながら……って、違うわ!


 色んな事が一瞬で頭を駆け巡り、俺は思わず諏訪先輩に食ってかかる。


「っていうかぁ! こんなおいしいイベントがあるんだったら、何で俺を起こしてくれなかったんですか!」

「……だから、起こそうとしたって言ったじゃない。いっくら揺さぶっても、頬っぺた叩いても、死んだみたいに目を覚まさなかったのはあなたの方よ」

「う――」


 先輩にバッサリと切り捨てられ、俺はぐうの音も出ずに、目を白黒させた。

 ……つうか、何だか頬っぺたが腫れている様な気がしていたのは、そのせいか……。

 まあ……、頬をはたかれたんなら、定番のこのセリフを――、


「ぶ……ぶったね! おやじにもぶた――」

「あ、ぶったのは工藤くんよ。さすがに私は、寝ている人の顔なんて叩かないわよ」

「あ……そっすか……」


 ギャグを出際につぶされた俺は、シュンとして項垂れるのだった……。

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