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CATCH the INTIMACY!

 北武ゆうえんち駅から歩いて五分ほどしたところに、北武遊園地の南正門がある。

 そして、その横に隣接する形で、遊園地と地元のお土産を扱う『HOKUBUファンタジーショップ』が建っている。

 駅前で合流した俺たちは、すぐさま移動し、開いたばかりのファンタジーショップに入店した。


「ふ、ふえ~……。あったけえ……あったけえよぉ~」


 エアコンは無いようだったが、その代わりに大きな石油ストーブが設置された暖かい店内は、かれこれ二時間以上も山地の極寒の空気に晒され続けていた俺には、天国そのものだった。

 俺は、店に入るや否や、石油ストーブの前に陣取り、冷え切ってすっかり感覚の無くなった体を温める。

 と、俺の後ろから店に入ったシュウは、犬の様に舌を出しながら、ジャージのチャックを下ろした。そして、パタパタと手で扇ぎながら、胸元に風を入れ始める。


「いや~、こりゃ、むしろ暑いだろ。ストーブ燃やしすぎだよ」

「……そりゃ、お前が家からここまで走ってきたからだよ」


 俺は、寝言をほざくシュウをジト目で睨みながら言った。


「俺なんか、早く来すぎて、7時からずーっと駅前でウロウロしてたんだから……」

「……へ? 7時に着いてたの、ヒカル? ――何で?」

「……何か、眠れなかったから、早めに出たら……早すぎた」

「あ……」


 答える俺の憮然とした顔を見て、シュウは色々と察したらしい。ぎこちなく頷くと、無言で俺の肩を叩いた。 

 ――と、


「あれ……? こんなに狭かったっけ、ここ……?」


 遅れて店に入ってきた早瀬が、戸惑った表情を浮かべながら、キョロキョロと店内を見回した。


「――確かに。そう言われると……」


 早瀬につられて顔を上げた俺も、彼女と同じ印象を受けた。ここに来るのは、小学生六年生の時のさよなら遠足以来だが、その時入ったファンタジーショップ(ここ)は、もっとずっと広かったような気がする――。

 そう思いながら、俺が早瀬と一緒に首を傾げていると、


「それは、あなた達が大きくなったせいよ」


 棚にかかったキーホルダーを手に取りながら、諏訪先輩が言った。


「あなた達が前に来た時は、まだ体が小さくて、視界の高さも低かったから、このお店でも広いと感じたのよ。あとは……思い出補正かしら?」

「ああ……なるほど。確かにそうかも……」


 諏訪先輩の説明に、俺は得たりと頷いた。

 と、その時、


「あ! これ……ライオネルズのレプリカユニじゃん! すげぇ! 遊園地の売店にも売ってんのかよ!」


 通路の向こう側で、シュウの驚き弾んだ声が聞こえてきた。


「うお……しかも、今年の“獅子の宴”限定バージョンのキーホルダーまであるぜ! 俺がドームに見に行った時には、もう売り切れてたんだよなぁ……。どうしようかなぁ、買っちまおうかなぁ……」


 続けて、独り言というにはバカでか過ぎる呟きが、俺と早瀬のいる入り口付近にまで漏れ聞こえてくる。

 ――と、俺は、二の腕を突っつかれるのを感じた。

 振り返ると、早瀬が目をキラキラと輝かせて、しきりに目配せを送って来る。

 俺は、早瀬が何を伝えようとしてるのか分からず、ドギマギしつつ尋ねる。


「え……? ど、どうしたの……早瀬さん?」

「――高坂くん! 遠足開始早々チャンスだよ!」

「ちゃ、チャンス……?」

「もー。ほら、工藤くんとイチャイチャするチャンスだよ! “秘密のしおり”にも書いてあったでしょ? 『告白するまでの間でも、隙あらばイチャイチャして、ムードを盛り上げよう!』って!」

「お……おおぉ……」


 ……そういえば。

 昨日の放課後、早瀬から直で渡された、“秘密のしおり”(正式タイトルは『ラブラブ! クリスマスイブお楽しみ遠足 in 北武園ゆうえんち! ~夕陽にむせぶ観覧車の下で、ふたりの恋はジェットコースター?~』……)の注意事項欄に、そんな事が書いてあった――気がする。


「そ……そうだったね……」

「工藤くん、あんなに嬉しそうなんだし、ここはいっしょに盛り上がって、今の内から好感度ゲージを溜めとこ、ほら!」

「……いや、“好感度ゲージ”って……。恋愛シミュレーションゲームじゃないんだから……」


 早瀬の言葉に、思わず頬を引き攣らせる俺だったが、そんな事にもお構いなく、彼女は俺の背中をぐいぐい押す。


「ほらほら、つべこべ言わないで! 早く早く!」

「あ……ちょ、ちょっと……」


 俺は、背後を振り返り、一生懸命俺の背を押す早瀬に向かって声を上げようとした。


『お……俺が“好感度ゲージ”を上げたいのは、シュウじゃなくて――!』


 という言葉が喉まで出かかるが、言葉(ソイツ)は喉の縁にがっしりとしがみつき、結局口から飛び出す事は無かった。

 ……背中に圧しつけられる早瀬の小さな手の感触に、ドキドキが止まらなかったせいもあり、俺が気付いた時には、きょとんとした顔をしたシュウの前に立って……立たされていた。

 シュウが、訝し気に首を傾げながら、俺に尋ねる。


「……どうしたの、お前?」

「あ……いや、その……えーと……」


 俺は、オロオロとキョドりながら、あてどもなく視線を泳がせる。

 と、俺の背後の棚の陰から顔を出した早瀬が、ニッコリと笑ってサムズアップするのが見え――俺は盛大なため息を吐く。

 そして、早瀬に聞こえないくらいのトーンで、シュウに囁いた。


「あのぉ……ちょっと、()()()()()()()()()()()()()()……」

「……はあ?」


 俺に耳打ちされたシュウは、間の抜けた声を出したが、俺の背後の影に気が付くと、すぐに事情を察した。

 シュウは苦笑いを浮かべると、小さく頷いた。


「そういう事ね。――了解」

「……悪い、シュウ」


 俺も困り笑いを湛えつつ、シュウに向かって片目を瞑った。

 と、シュウは俺の肩をポンと叩くと、耳元でそっと囁いてきた。


「まあ……上げるも何も、オレの好感度ゲージは、とっくの昔にカンストしてるんだけどな……」

「ちょ……! おま――!」


 突然の言葉に、俺は内心でドキリとしながら、思わずシュウの顔を見返した。


「そ……それは……?」

「……ジョーダンだよ。ハハッ」


 聞き返す俺に、ウィンクし返して笑うシュウだったが――

 俺は、笑い返す事ができなかった。

 今回のサブタイトルの元ネタは、プロ野球球団の埼玉西武ライオンズが2019年に掲げたキャッチフレーズ『CATCH the GLORY』からです。


意味は、『親密度を掴み取れ!』です(笑)。


バレバレだとは思いますが、劇中の『北武ライオネルズ』のモチーフが埼玉西武ライオンズなので、あやかってみました(笑)。

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