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道徳の部屋  作者: 荒馬宗海
9/11

九時間目


 悪の組織の収入源ってなんだろ?


 ヤクの密売とかはやっていそうだな。

 雑魚の戦闘員ってのはヤク中なんじゃないのかな。昔の中東にあったという暗殺教団みたく。


 サイバー攻撃は絶対やってるね。仮想通貨をごっそり強奪したり、国家機密クラスの技術を好き放題盗みだしたり。っていうか、そのくらいのレベルではあって欲しい。で、悪の改造人間をつくるのに活用する。


 銀行強盗とか誘拐とかは?


 それだと夢がないな。悪の秘密結社はもっと高い志を持っていて欲しい。『秘○結社鷹○爪』の鷹○爪くらいに。


 武器の密売とか傭兵の派遣とはやっていそうですね。平の戦闘員でも仮にも改造人間でしょうから、普通の兵士よりは強いでしょうし。


 スリや万引きは……、やっぱり、しませんよね。それしていたら幻滅どころではないですね。


 末端の構成員はやるのかも。売れない芸人のヤミ営業みたく。


改造人間つくれるくらいの悪の秘密結社があったとしたら、奴等絶対核保持してるよね? その時点で、世界征服余裕じゃね?


核の戦略的な価値というのは、あくまで抑止力としてです。使ったら、善も悪も関係なく終わってしまうのは、火を見るより明らかなのですから。


ちぇ。夢がねえなあ。夢が。せっかくの悪の秘密結社の核武装なのに。


まあ、瀬戸際外交の切り札として、ちらつかせまくっている国もありますけど。


セコい。セコすぎる。余計セコいじゃん。そんなの。


 こんなのは如何でしょうか。


 なあに?


 AとB、其れにCというものがあるとします。Aというのは世界的にも最先端をゆくハイテク企業で、Bというのは其のライバル企業、Cというのは……、兎に角、膨大且つ格安の労力を誇ります。技術レベルは発展途上国、若しくはそれ以下です。CはAとBを様々な優遇を提示し、招致します。但し、技術移転は確約させて。尚且つ、AとBを待遇等で煽り競わせながら。自分達への貢献を。やがてCは莫大な富を蓄積してゆきますが、Cの野望は留まることを知りません。合法的に得られた技術になど満足することなく、あらゆる手段により最先端の機密情報を盗み出します。ですが、そうして過程をへて、Cがオリジナルとして製造するようになるのは、従来のものの発展型、進化型等ではありません。故障しやすい等の劣化版ですが、その価格はそれこそ桁外れの安価版です。それはそうでしょう、研究開発費は全くかかっていませんし、Cという組織そのものから、莫大な補助金が支出された上で、世界中に販売しているのですから。Cにとっては赤字、いや、大赤字であるのにも関わらず、です。


 赤字じゃ駄目じゃないの?


 もう少々ご拝聴下さい。

 Cの製品という物は、質は劣る、壊れ安い、いってみれば粗悪品なのですが、何しろべらぼうなやすさです。やがて市場はCによって独占されます。結果、AとB、いや、AやBは、競争に敗れ、倒産、若しくは、吸収合併されるという憂き目を見ることになります。この時点で市場はCの独占状態です。他に競争相手などありません。そこで、Cは価格を上げます。是迄のマイナスを取り戻す、いや、それどころではない値上げをします。こうなるともう消費者はそれを買う他はありません。バカ高い粗悪品をです。何しろ、他に選択肢はないのですから。もう高品費、高性能なものは求めようがありません。高価ではあっても、適正価格だったと後悔したところで、それはもはや後の祭りです。もはや、そのようなものを製造するハイテク企業などなくなってしまったのですから。そうして蓄積させていった膨大な富によってCはやがて世界征服を……。

 非合法に盗んだ最先端ハイテク技術なんて、世界征服するのにめちゃくちゃ使えますしね。しかも、世界中で市場を独占している商品自体が情報端末としCへ全ての情報が筒抜け、流れ込むという……。

 こういうのはどうです?


 …えっぐ。


 人類の為には全くなっていない。


 寧ろ、退化させているんじゃね? 人類を。同じ人類を。


 これは確かに悪だわ。邪悪そのものな所業だわ。


ところでさ。


何?


 かっぱらいのじいさんって、窃盗症なのかも。


急にスケールが小さくなったな。

まあ、いいけど。


 窃盗症−−クレプトマニアというのは、盗んだ物を得るため、金銭目的というよりも、それを実行している時の緊張感や、成功した時の満足感を得るために、常習的に行われるものです。「窃盗のための窃盗」とも言われます。プリントで読む限り、おじいさんはパン泥棒を止むに止まれずやってしまった感じです。なので、窃盗症ではないのでは?


 なんか説明っぽいこと言ってね? 誰に説明してんの?


 じいさん、いっそ人殺しでもして人肉でもむさぼったらよかったんじゃね? もしかしたら、この道徳資料の世界じゃカニバリズムってのは禁忌ではなかったかもしれないじゃん。


 禁忌でなかったとしても、じいさんだよ。歯があんまりないんじゃねえの? A5ランクじゃないんだから、噛み切れないんじゃね?


 人間の肉なんてうまいのかな?


 雑食の動物の肉などおいしくないのかもしれませんね。ハーブばっかり食わせて育てる牛だっけ? 羊だっけ? とりあえず、そいつの逆をいっているわけですし。


 じゃあ、人肉食うんなら、マッチョの方がいいってことになるのかな?


 どうしてですか?


 ああいう人たちって、鶏のささみだか胸肉だかとブロッコリーばっかり食べているわけでしょ。あと、プロテイン。そのくらいかな。ハーブ牛(だか羊)が生まれた時からずっと餌がハーブっていうのと合い通じるものがあるんじゃね?


 でも、マッチョの筋肉って霜降りやトロとは程遠い気がする。体脂肪率五パーセント未満とかいって自慢している人種だよ。脂乗ってないから、多分、あんまりうまくなんかないよ。


 小さい頃から同じものを食べていたからといって必ずしも肉の味がよくなるとは限らないとは思います。だって、豚ってどうですか? 確か、雑食ですよね? 給食の残飯は全部豚のエサになるという噂を聞いたこともあるのですが。それにジ○ジョの第三部ではインドのレストランだかの便所で豚を飼っていて排泄物を食べさせているような描写もあります。雑食という表現が生ぬるいほどの雑食ぶりです。でも、豚って何気に美味しくないですか?


 人の食卓にのぼる豚が残飯とか排泄物で育てられてるとは思えねえんだけど。もっと、そこんところは気を使っているんじゃねえかな?


 女ならどうだろう? 少なくとも、男よりは脂がのっていそうだよ。松坂牛とかみんなメスらしいし。


 根本的に人肉が美味しくないとしたら、男性であっても女性であっても関係ないのでは?


 もしも、うまかったら、「足のあるものだったら机以外なんでも食べる」っていう中国人がだまっちゃいないはずだもん。うまかったら中華(料理)に仕立てているよ。


 美味しい、美味しくない以前に、人倫に反する行為なのでしょう。中国人にとっても。カニバリズムは。


 でも、人喰い人種っていうのは実際いたわけだし。

 なんでも、食べた人の能力を身につけられるって信じられているらしいよ。だから、敬意を込めて食べるんだ。


 『進○の巨人』でそんな感じの設定ってなかったか?


 このプリントの世界ではカニバリズムは禁忌ではなくても、おじいさんの信仰している宗教とかでは駄目だったのでは? 私たちは豚肉を食べますが、イスラム教の人たちは食べないじゃないですか。


 正義のスーパーヒーローもおじいさんと同じ宗教を信仰していたのでしょうか? だとしたら、過剰な暴力をふるったことに関して合点がいきます。

 許せなかったのです。同じ神を信仰している者が戒律を破ったことが。私たちがイスラム教を信仰している人が戒律違反を犯した人を見たり聞いたりしても、それほどの憤りは感じませんが、同じイスラム教の信者が見聞きしたら怒りの度合いはまったく違ってくるのでは? つまりはそういうことでは?


 社会は許しても、同じ宗教を正義の味方が信仰していたとしたら、それは罪なのです。しかも、盗みという罪は、その宗教では最大のタブーなのしかもしれない。しかも、特にそれがパンだったりしたら。だから、ボコボコに半殺しにしたまでのことに過ぎないのかも。


 キリスト教と関係あるのかもしれませんね。

 パンを盗んだというのは。


 どういうこと?


 ホスティアです。


 ホスティア?


 キリスト教で信者に与えられる聖体のパンですよ。


 それってうまいの?


 なんでそんなもんを盗むの?


 黒ミサに用いるためだと、ユイスマンは断言しています。


 ユイスマン?


 十九世紀のフランス人の作家です。

 ユイスマンは、フランス各地の教会で、いかにしばしば聖体のパンが盗まれる事件が起こっているかを、極めて具体的に語っています。

 黒ミサというものは、簡単に言えば、カトリックの礼拝式を転倒させることであり、カトリックのミサでキリストの肉体そのものと見なされるパンは、必要不可欠なものなのです。黒ミサの司祭は、ありとあらゆる不潔なことや淫靡なことを行って、この神聖と見なされるパンを冒瀆するわけです。

 「そのために盗んだかもしれないのでは」と思い当たったのです。


 すると、じいさんは反キリスト教の−−邪教の信者だったってこと?


 それで「呪いたい対象があったのでは」と考えたわけです。


 いったい何を?


 この道徳資料の舞台となっている国がキリスト教の国だったとしたら、その国家を呪いたいほど憎んでいたのではないのでしょうか? 自身の不遇を省みて。自分のような存在をこのように地べたを這いずりまわすことを強いる国家など呪われてしまえということなのではないのでしょうか? もしくは、単純な恨みから誰かを呪殺したいとか。


 そのじいさん、「自分は特別なんだから、そんなことは許されない」と考えていたのかな? それとも、「一般的にご長寿は大切にされてしかるべき」と考えていたのかな?


 この道徳資料に取り上げられている一件だけではそこまでは判じかねますが……。


 聖体のパンって、町のパン屋で売っているものなの?

今日はここまで。また後日。

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