三時間目
ベイカリーでなくパン屋って書いてあるところには意味とかあるんだろうか?
そんなにコジャれた店ではないくらいの意味でいいんじゃね。
つくるのに、バターをふんだんに使っているのがベイカリー?
ベイカリーよりは心持ち敷居が高くないくらいの感じでいいんじゃないですか。
果たして、パンの値段は適正な価格だといえるものだったのでしょうか?
ぼったくっていたのかな?
それも並みのぼったくりではなかったのでは?
あるいはすっげーぼったくっていたとか。
ぼったくっているなんて生易しいレベルじゃなかったりしてね。
とてつもない便乗値上げだったりということですが?
トーマス・ソーウェルという経済学者は、「便乗値上げというものは、感情には強く訴えるかもしれないが、経済学的には意味のない表現で、ほとんどの経済学者がなんの注意も払わない。曖昧すぎて、わざわざ頭を悩ませるまでもないからだ」というようなことを述べています。
その人知ってる。「便乗値上げが非難されるのは、人々が慣れている価格よりかなり高い場合だ」みたいなこと言っているんでしょ?
そんでもって、「人々がたまたま慣れている価格のレベルが道徳的に不可侵などということはない。その価格は市場の条件がもたらす別の価格と比べて特別でもなければ、公正でもない」みたいなこと言ってたよね。
盗んだ店のパンっていうのがうまくて行列の出来る店として有名で、どうしてもそこのパンが食いたくて、行列を無視して脇からかっぱらったってのはありじゃね。どうせかっぱらって犯罪者になるんなら、その辺の普通のパンよりも美味いって評判のパンの方がいい気がする。
今ではそれほど高価でなかったもんが昔は非常に高価だったりすることはあるもんな。本とか胡椒とか。昔は活版印刷とかなかったわけだし、大航海時代は肉を日持ちさせるための胡椒をアラブ世界との交易でなく直接現地から買い付けることを目的として始まったっていたとかいなかったとか。その昔は胡椒っていうのは同じ重さの砂金と同じくらいの価値があったらしいし。
一六三七年だか、そのくらいのオランダでは、チューリップの球根一つの価格が家一軒買えるくらいまで高騰したって話を聞いたことがあるよ。
チューリップ・バブルってやつでしょ?
世界最古の金融バブルってやつでしょ?
パンだけでなく食べ物全般が、それどころか全ての価格が高すぎるのではないのだろうか? 貧乏人がまともに生活していけないくらいに。
プリントに出てくるおじいさんってのはボロボロの格好をしている物乞いだったみたいです。しかも、並みの貧乏ではなく、社会のド底辺にある超貧乏だったという設定なのでは? だとしたら、そんな社会では生きていくのは相当辛かったのでしょうね。市井の人々には物を恵んでやる余裕などなかったのでは? 「明日は我が身」といったところだったのでは?
ルンペンだとはどこにも書いてありませんよ。
乞食でなくても、それに近い経済状態の人だったとは言っちゃっていいんじゃないかな。
もしかして、この道徳資料の舞台となっている世界は第一次大戦直後のドイツみたいな状況だったのかもしれませんね。スーパーなインフレーションのスパイラルの只中にあったのかもしれませんね。やたらと、ゼロの多い高額紙幣をいくら乱発してもおいつかない。むちゃくちゃな嵩の札束を用意してもマルボロ一箱とも交換してもらえないくらいの。
現在でもアフリカのある国では酷いインフレ状態にあるともいうよ。現在でもそんな過酷な世界はあるんだよ。
でも、今の世界も、アフリカ以外でも、世界中がそんなふうになりつつあるよね。
…………。
ところで、パンってなにパンだったんだろうね? プリントにパンとしか書いてないけど。よっぽどうまそうなパンだったんだろうか? まあ、一週間もなんにも食べていなかったら、食べ物ならなんでもよかったんだろうけど。