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夢のまた夢

「やっとお目覚めか」


 目の前にいた赤い甲冑姿の長身の女性に声をかけられる。

 赤い鎧に顔を覗かれれば大半の人は驚いて尻を抜かすだろうが。私は寝袋から右腕を上げて、私が目覚めたことをしっかりと分からせるために返事を返す。


「不便な機能だな。もう一人の自分が眠らないと行動出来ないってのは」


「これは私にとって制約みたいなものだから……」


 自分の体を借り物のようにゆっくりと起き上がらせ胡坐をかいて大きく息をする。

 周りは木に囲まれ中央の焚き火が揺れている。空を見上げると昇る月は高く、周りは虫の声もしないくらい静かだ。


「――町はどうなった?」


 質問に答えるように焚き火から何かが弾ける。

 手に外傷がないか確かめるように眺めながら、最悪な答えが返ってくるのを待つ。

 彼女の重い甲冑が鳴り、地面が鳴る。焚火が周りの影を揺らす。


「それは実際に見た方が早い」


 優しく差し出した手を眺める。戦士とは思えない綺麗な形。彼女の手は大きく乗せた私の手は簡単に包まれた。

 彼女は足をずっしりと地につけながら力任せに私を起き上がらせる。しかし、互いに力み過ぎていたせいで私は彼女の赤い鎧に飛び込んでしまう。

 何とも言えない沈黙のあと、互いに目が合うと深くうなずき行動を始める。私は長い筒状の武器を肩にかけ、彼女は焚き火から松明に火を移し私に準備ができたことを合図をしその先を指さす。

 

 夜の森は静かだった。夜盗や魔物は普段から少ないが、それにしても変だ。虫の声や生き物の気配すら感じられない。

 予想は簡単だった。大地を覆うほどの大軍が動いた前後の特徴だ。生き物はすべて脅え隠れる。


「私も戦況を知ったのはあいつからの手紙だ。よっぽど酷かったらしい……」


「ええ、その場に居たわ。何も、……出来なかった! 何かできたはずなのに……何か!」


喉元の詰まった言葉が体を傷付けながら吐き出す。自分の無力を憎む。本気が出せなくても手がかりやあいつを逃がす手助けはできたはず。


「自分を責めるな」


「で、でも……!」


感情まかせに言葉をぶつける。無意味だとわかっているのに言葉に出さなければ自分がつぶれてしまいそう。


「すまない、私が力が無いばかりにっ!」


彼女の噛み殺したような声と松明に照らされた腕は細かく震えていた。私はぶつけようない罪悪感に懺悔をしながら消えそうなくらい小さな言葉で返す。


「す、すまない」


「いいんだ。自分も同じ立場だったらそうしただろう」


 会話はなく無言のまま野道を進む。知りたいという気持ちと、あれは本当は夢だったのではないかという葛藤に心が苦しくなる。

 苛立ち、哀れ、無気力。あらゆる負の感情が初めて大きな器から溢れる。

 冷たい風が吹き抜ける。あまりの強さに目を閉じてしまう。


「わたしも、城壁はないと思っていたのだが」


 言葉に駆り立てられ目を開ける。

 切り立った崖の上。そこから見下ろす平野そこの中心に国がある。周りには畑が広がり

 囲まれれば一巻の終わりかと思われるだろうが、実際その通りだった。


「どう言うこと……?」


 目の前に見える国はよく知っている。

 いやそのままだった。夢でも見ているのだろうと目を強く擦った。景色が一瞬ボヤけたが目の焦点がはっきりと国を映す。

 あの城のバルコニーで見た城門や空高く渦巻く炎。壁や床に広がる赤黒い滲みすべてが嘘なのか。あれはただの悪夢で、本当に夢だったか?


「私もよく判らない。道行く商人に聞いても全く変わりがないそうだ。まるで……」


「戦争なんて無かった……」


 言葉を奪い理解したような口調で中央に国を睨む、はっきりとした城の輪郭は見えず黒い霧が包む。しっかりと見ようと目を凝らすと目に映ると激痛が走った。右目に大きな針で刺されたような痛みに歯を食いしばる。


「だ、大丈夫か?」


 痛みに体がふらつき赤い鎧により掛かる。そしてもう一つ別の感覚が私を襲う。どうやら"あちら側"が目覚めるみたいだ。


「もう時間みたい。迷惑かける」


 ため息混じりに猛烈に迫る目眩に身を任せる。


「構わんさ、ゆっくりと休んでくれ。これから忙しくなる」


 返事を返せたかすら曖昧のまま意識が遠くなる。


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