新たな硝煙
燃えている。
初めて買った武器屋はもう形もなく崩れ去り、仲間と飲み会った酒場も炎が巻き付き高い火柱を上げている。燃え盛る炎は私をあざ笑うように街を包んで渦巻いていた。
何度もぶつかり合う金切り音が近くで聞こえたと思えば、人々の助けを求める悲鳴が空を響き渡せる。
役目を果たした城門からは、統一のとれた鎧姿の兵士が軍靴を鳴らしながらなだれ込んできており、戦局はどうあがいても敗北。
かつて英雄と賞賛された城のバルコニーは、国の滅び行く姿を映し出す無限の地獄を見せつける。何も出来ないまま、燃え盛る炎と耳に焼きつく悲鳴が頭の中を空っぽの心に風穴に熱気が差し込む。
「意外にやってみるものね!」
聞き覚えのある声に頭のなかに色彩が戻る。
振り向くと目の前には私の元パーティーメンバーの一人だった。
しかし、自慢の魔法使いのローブの所々焼け焦げ、左脇腹から大量の血が流れている。
「最悪の再開だわ。でも、贅沢は言ってられない! これを持って元の世界に逃げて!」
「え! 説明がないよ! どうなってるの!? なんでこんな大怪我してる!?」
「全く、いっつも貴女はそう。だけど、説明はしている暇はな……」
言葉を遮るように扉を強く叩く音。扉の前には本棚や椅子などが乱雑に積まれ、その前には疲弊しきった兵士がもたれかかっている。
その叩く強さに微かに本棚は動いていた。そう長くはもたない。
「っく、もう奴らが……!」
理解してしまった。いや、理解したくない。
燃える町並み、血だらけの親友、扉を叩く者共の正体。
馬鹿でなくてもこんなに情報があれば簡単に理解してしまう。
「じゃね。向こうの世界でも元気でね」
苦痛で歪む顔を無理やりに笑みを混ぜていた。
目を覆いたくなるような光が私を包みこむ、頭の中を誰かに掴まれ揺さぶられているような感覚。
これは高度な転移魔法だ。親友がこんな魔法を使えるようになっていたなんて。
「そうだ。最後に……貴女と一緒にパーティー組めて楽しかったわ」
親友の無理矢理の笑みの顔から一筋の涙。
私は手を伸ばし必死に叫んだ。でも、その声は音にならず光に阻まれ届かない。
頭の中は真っ白になっていき、景色は暗転する。
「まって!」
次に目覚めた時は、いつものベッドの上だった。