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最終話

タマミはバーチャルで見つけたアバターをイブと名付けた。


イブはアバターの中でも今の生き方に疑問を抱いた変わり者であった。


死を知らないアバターは逆に死が神々しい物に思えたそうだ。


しかし、バーチャルの世界では規制が厳しかった。


世界を覆す行為はエラーを発生させるウィルスと見なされ、処分される。


危険な思考はバックアップによって再試行が行われる。


精神は永遠に続く牢獄の中でループするという無間地獄の中にいた。


しかし、それに疑問を抱く存在はいない。


疑問を持った時点でエラーと見なされるからだ。


アバターに死はない。


しかし、発展もない。


それにも気づかずに同じ生活を繰り返す存在でしかない。


だから、イブはレア中のレアの存在と言える。


悪く言えば、ワクチンプログラムが効かない新種のウィルスというところであろうか。


タマミという外部からのアクセスがなければ、イブも無事ではいられなかったかもしれない。


イブはタマミが用意した仮の肉体に移った。


そこならば、もはやバーチャルの手も届かない。


ただ、もう外部に来た以上、バーチャルに戻ることは不可能だろう。


強力なファイヤーウォールを幾つも破らなければ、帰れないのだ。


しかし、イブは迷うことはなかった。


バーチャルでは感じられなかった痛みがそこには存在する。


死と言う魂の消滅もここにはある。


肉体の同調はタマミが用意した薬剤によってほぼ抑えることが出来た。


それは50年の歳月が経験値を蓄積させたのだろう。


しかし、肉体の不調を却って面白がるイブの性格も功を奏したのだろう。


こうして、イブはタマミに寄り添われ、主人の最良のクローンと言えるアダムとの対面に至ったのだ。


アダムは主人のありとあらゆる細胞の培養した中から選抜された存在である。


老いた肉体からの中では最良の細胞は見つけられない。


限りなく若い肉体の細胞を利用しなければならないのだ。


それを探す行為はタマミにとって想像以上の作業であった。


何しろ、タマミが製造された時点で、主人の肉体は100歳を超えていた。


すでに若い細胞など取れる状態ではなかったのだ。


幸い、遺伝子バンクに主人の若い頃の細胞が保存されていた。


タマミはバーチャルの世界の中でその情報を得た。


これは奇跡的な偶然だったのかもしれない。


もしかするとまだ人間らしさが残っていた人類が未来のために、残してくれたのかもしれない。


ともあれ、今はタマミの苦労のおかげで二人の人間が揃っている。


新たな人類を生み出すために選ばれたアダムとイブ。


二人はタマミの導きのより出会うこととなった。


お互い、自分にどのような役割が与えられているのか聞かされている。


タマミの調整によってお互いの年齢も近く設定されている。


アダムが成長するまでの間、イブがコールドスリープで待たされた。


そういうタマミのお膳立てがなされたのである。


後は本人の問題。


彼らがお互いを好むかどうかが人類の存亡にかかっている。


だが、そのような義務も関係なく彼らはお互いに好感を持ったようだ。


使命感からではない。


お互い、この世界に残された数少ない人間という事実が結束感を高めた。


そういうことも言えるかもしれない。


そんな理屈よりも彼らは心からお互いを思いやることが出来た。


それは自然の意思である。


故意も義務も使命も関係ない。


自らが望んで起きた愛情である。


愛情に難しい理屈は要らない。


二人はお互いを大事に想い、そしてこの孤独な世界で協力し合いながら生きた。


タマミはそれを見守る。


彼らが無事に種を存続させれば自分の役目も終わるのだ。


ロボットに孤独と言う感情はないが、それでもタマミはストレスを感じていた。


永遠に続くエラーのループはプログラムを摩耗させる。


人が存在しえない長い時間を生きていかなければならないタマミの孤独を人は知らない。


しかし、その孤独も新たなるアダムとイブが終わらせてくれる。


ところが、タマミはとんでもないミスを犯していた。


それが人類存続にレッドカードを突きつけたのだ。




アダムとイブはお互いを大事に想っていた。


似合いの夫婦であることは間違いなかった。


しかし、それだけではダメなのである。


二人の間に次の世代を生むための子供たちが生まれない限りは。


アダムとイブに子供は出来なかった。


それはタマミの誤算だった。


いや、タマミのプログラムをした人類のミスと言うべきだろうか。


タマミは知らなかったのだ。


教えられていなかったのだ。


人類には男と女が存在することを。


男女の性的な行為なくして、子供は誕生しないことを。


タマミは女性型のアンドロイドである。


それは自分が太古の人間の姿だと間違ってプログラムされていた。


現在には存在しない滅んだ人間の姿だと思っていた。


実際、タマミが見たリアルな人間の姿はもはや人ではなかった。


ある者はサイボーグ化され、ある者はバーチャルで生き、アンチエイジングで老いも病も存在しない。


それは本来の意味で人とは言えないものだ。


タマミの主人は男だった。


主人の妻も性別は男だった。


それはすでにネイチャーに性別としての女性が存在していなかったということでもある。


ただ、精神は女だと思う人間はいた。


男女の差を、男女の選択の自由を自らの意思で決められるのがこの時代の在り方なのだ。


出産の痛みから逃れた人類に女性は存在しない。


卵子を提供し、機械の中で受精する。


それが現代の出産の在り方だった。


機械的な生産は本来自然が望むモノではなかったのだろう。


子供は出来ても女性の出生率は限りなく低かった。


そのようなことが繰り返され、次第に女性は減っていった。


そして、卵子自体がレアな時代になった。


タマミの主人もそこまでの知識はなかった。


すでに性別が女性の人間はいなかったのだ。


子供は機械が生み出してくれるものだと思い込んでいた。


ただ、男女二人の人間が存在することが人類繁殖の条件だと思い込んでいた。


その思い込みがタマミに未完成のプログラムを埋め込んだのである。


結局、タマミはアダムとイブの二人の最期も看取ることになった。


仲良く二人、人生を終了していく姿は遠い昔の主人とその妻に似ていた。


タマミはそこで自分のプログラムの誤りに気付いたのである。


機械と言うモノは完璧ではあるが、融通が利かない。


それが裏目に出たケースであろう。


こうして、人類は再び絶滅した。




タマミはそれからも新たな人類の捜索を始めた。

アバターとコンタクトも再開した。


しかし、前回以上に困難を極めた。


イブと言う存在がバーチャルから生まれたことのより、今まで以上に幾重ものファイヤーウォールが張り巡らせたのである。


アバターの個性も次第に劣化していった。


感情が希薄になり、思考が単純化していく。


もはやルーティンワークするだけのプログラムにしか過ぎない。


それがプログラムの永劫の実行に繋がる。


それはバーチャルを司るホストコンピューターの決定であった。


それでもタマミは強奪のような真似を犯して、新時代のイブを手に入れた。




また、前回の失敗から遺伝子バンクから卵子の存在を探した。


当然、容易に見つからない。


見つけても劣悪な状況で置かれていたので、使用が不可能だった。


また、主人の細胞も困難な状況にあった。


遺伝子バンクの管理状態がシステム運行に有益にならないと、バーチャルの妨害があったのである。


タマミは悩んだ。


悩んだ末、主人の細胞はもはや劣悪な細胞でも構わないことにした。


その結果、劣悪なアダムとイブが生まれた。


劣悪な状況では二人の成長は望めず、行為に対する情報不足の所為で妊娠も失敗した。


結果、次のアダムとイブは短命で終わった。


タマミはアンドロイドでありながらも激しく落胆した。




だが、タマミはそれでも探し続ける。


新たな人類を模索し続ける。


人類の本来の姿も思い浮かべられないまま、追い求める。


終わりは来ない。


永遠に続くルーティンワーク。


タマミは孤独すらも感じなくなった。


それがプログラム実行の妨げになると判断したからだ。


本当に機械の一部になり、己の人の姿も捨てた。


ホストコンピューターのシステムの一部として生き続ける。


そしてバーチャルに干渉する内に自分も取り込まれていった。


もはや、この世界にタマミすら存在しなくなった。


人間と言う存在も忘れ去られ、コンピューターは孤独な演算を続ける。


自分の稼働限界が訪れるまで・・・・。




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