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第二話

一方、人間も現実の生活に限界を感じていた。


確かに医学の進歩で長寿やアンチエイジングは進んだ。


しかし、どんなにしても人はいつか必ず死ぬ。


痛みは必ずあり、精神的なストレスも日々、蓄積される。


そんな彼らが見つけた新たなユートピアがあった。


それはバーチャルの世界である。


バーチャルな世界にアバターを作り、それを自分の体として生活する。


自分の肉体はカプセルに入れられたまま、睡眠状態になる。


カプセル内では人間の健康状態を常に管理しているし、外の余計なストレスもかからない。


本来は難病で医学の進歩が進むまでの間の仮に精神の居場所として出来た場だったが、健康体でも自らの意思でこの世界に移り住む者もあらわれた。


それは一気にブームとなり、かつてネットが世界中に浸透したよりも速く、世の中に伝わって行った。


こうして、人類は現実とは違う場所に居住することになった。


そして、バーチャルの世界に住むようになった人類は、やがて自分の本来の体の状態を気にも留めなくなった。


思考が数値化されてバーチャルの世界にとどめられるのだ。


そこに体の必要性はない。


バーチャルな世界が続く限り、存在し続ける個人の思考。


それはある意味、不死である。


人々はいつしか、己の体の存在を忘れた。


彼らは自らをアバターと呼び、それこそが真実の姿だと思うようになった。


彼らはカプセルに入れられた自分の体が朽ちていることも知らずに、不死の世界で生き続けた。




一方、そのような人生の過ごし方に異論を唱える者もあらわれた。


人は人らしく、現実の世界で痛みや死の恐怖を受けながら生きるべきと言う、新興宗教団体が出てきたのだ。


彼らは自らをネイチャーと名乗った。


自然の姿でありのままの人生を生きることを目的にした団体である。


とはいえ、医学やアンチエイジングは最先端を用いているので、現代人から見ると自然の姿とは言えないかもしれないが。


とにかく、脳が生きていれば、己を人間として認識していれば、サイボーグだろうとクローンだろうと、レプリカントだろうと関係ないのである。


見た目は便利さを追求しすぎてロボットのような人もいたが、ここまで来ると、それは特に気を留めるものではないようである。


ただ、彼らはかつての人類の姿を別に投影させた。


どんなに利便性が優れていても、その姿を変えすぎてしまうことには抵抗があったのかもしれない。


彼らはまるで太古の神を崇めるようなつもりで、人間の形をした存在を生んだ。


人間の存続を目的として生み出されたモノ。


それこそ、アンドロイドのタマミであった。




タマミは地球で最後の男性を看取った後、行動を開始した。


人類が存在しなくなった以上、計画は早く遂行されなければならない。


タマミにしてみれば寿命は人よりも遥に長いのだから、焦ることはないのだが、やはり絶滅したままにはしておけないと思うのは仕方ないことだろう。


とはいえ、タマミはロボットである。


感情と呼べるものは人間が用意したプログラムにしかすぎない。


人間だったら、こういう状況に置かれた場合、どう反応するのかをあらゆる面から計算して実行するプログラムの思考である。


しかし、当の人間の思考も脳内伝達物質を利用した電気信号のようなものである。


神憑り的な奇跡が脳内で起きているわけではないのだ。


人の思考がどうかはともかく、タマミはとにかく人類の再生を行うという義務が課せられていた。

そのためにタマミはまずこの地上に自分が感知していない人間の有無を調査した。


世界中に自分のコンピューターにリンクした小型のロボットたちを向かわせた。


虫に似せて作られたカメラ内蔵のマシンである。


1000機を超える小型ロボットは世界中に散らばった。


それが送る情報をタマミは一気に演算処理する。


タマミのコンピューターは住居の地下の設置されたマストコンピューターとも、リンクしているので、情報の処理は容易に行われる。


そしてタマミが下した結論はやはり地上に人類は生存していないということだ。


主人が生存している時期からすでに調査していたことであるので、この辺は容易に行われた。


次にタマミはバーチャル世界に生きるアバターとのコンタクトを図った。


肉体はすでに廃棄されたも同然の状態だが、痛みの少ないものにバーチャルの精神をリロードすれば、人類は復活するかもしれない。


ただ、これも未知の部分が多い。


バーチャルから本来あるはずの肉体に移るのは痛みや病気、そして死と言う大きすぎるリスクが伴うものだ。


そのようなリスクを冒す精神が存在しうるだろうか?


それに無事な肉体と精神が同調するかも未知だ。


精神と肉体が同調しなければお互いに反発し、破綻しかねない。


タマミは慎重に行動した。


その間に歳月は過ぎていく。


人類の滅亡からおよそ半世紀。


タマミはようやくその新時代を担う人物を世界に送り出した。




また、タマミは主人の細胞を培養していた。


そこから良質のクローンを生み出そうという計画である。


主人のクローンと別の個体を結びつかせて新たな種を生み出そうと言うのだ。


クローン技術は進んでいるので、事は楽に進むと思いきや、これもかなり問題が多い。


クローンは細胞分裂を繰り返し、テロメアが短くなった人間である。


その寿命は恐ろしく短く、そして種を残すにはあまりにも頼りなさ過ぎた。


それがクローンのみに頼らない種の存続である。


バーチャルの世界から連れてきたアバターと主人のクローンによる人類の継続。


タマミの狙いはそこにある。


それはある意味、主人の意向がかなり入った偏った計画とも言えた。


自然に死を受け入れるネイチャーであっても、死はやはり受け入れがたいものであったのだ。


とにかく、新時代を担うアダムとイブはここに出逢うことになった。

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