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第一話

その日、人類は絶滅した。


地球上に最後に残った男性が死んだのだ。


享年、154歳。


ギネス記録を軽く塗り替えてしまっている。これは大往生である。


その男性が亡くなる数日前に、男性の妻が亡くなった。


享年、163歳。


姉さん女房だったようだ。


これもギネス記録をさらに上回っている。


ただし、3年くらい前には189歳の女性がいたので、これも最長とは言えない。


とにかく、この夫婦は地球上で、最後のアダムとイブとなったのは間違いない。


その、二人を看取ったモノがいた。


タマミという名の若く美しい女性。


彼女は夫婦に最後まで尽くし、夫婦にも娘のように愛された。

こう書くと、まだ人類は滅んでいないじゃないかと思われるが、それは違う。


彼女は人類ではない。精巧につくられたアンドロイドの少女である。


男性は死ぬ寸前タマミにあることを託した。


タマミは男性を埋葬すると、施設へ向かった。


その施設は男性が人類滅亡を食い止めるために最後まで抵抗した未完の研究があった。


その研究を引き継ぐことがタマミに託された使命であった。




タマミがこれから行おうとしていることを書く前に如何にして人類が絶滅に至ったのか、その経緯を書いておきたい。


人類滅亡というと、どうしても、核戦争や、未知の病原体のパンデミック、小惑星の地球衝突など、ハリウッド映画の題材にされているものが思い浮かぶが、実際は違う。


実はかなり、・・・地味である。


しかも、なかなかしぶとく人類は生き残っている。


21世紀後半、驚異の人口増加により100億を超えた。


その後、人類は衰退の道を歩み始めた。


と言っても、かなり緩やかな衰退とも言える。


まず、出生率の低下。


すでに少子化が多くの国で進んでいたが、ここに来て、劇的に低下が目に見えてきたのは、出生率の高い新興国でも、出生率が低くなったからだろう。


経済が安定すると、子供をたくさん産むより、少ない子供に多くの金をかけるようになる。


これは経済発展を続けてきた国で顕著にみられる現象である。


それに反し、世界の平均寿命は急激に増す。


これもよく見られる現象だ。


そうなると、浮上するのが年金など、社会保障の問題。


すでに破たんしていたある国の年金機構は当然、とどめを刺された。


とはいえ、医学の発展が健康面で顕著に表れ、世はまさにアンチエイジング社会。


定年は80歳になってから、後期高齢者は100歳になってからというのが常識。


そして問題なのは少子化を加速させた要因。


それは過度な人権の主張ではないだろうか。


育児に男も関わることが義務付けられる昨今。


それはさらに拡張されていた。


女性は出産する機械ではない。


女性ばかり、妊娠の苦痛を味わうのは人道的見地から外れている。


そういう思想が広がった。


とはいえ、逆立ちしても、男性に子供は産めない。


その結果、出生率はさらに減った。


そして間が悪いことに出生する子供の男女比率に大きな差が出た。


おおよそで、男子9割、女子1割。


男性9人分の子供を女性一人で生むのはまず不可能である。


過度な期待を寄せたのが、プレッシャーになったのか、女性はさらに出産を拒むようになった。


こうして、またも子供は減った。


これはDNAに組み込まれたアポトーシスではないかという研究者もいる。


過剰に増えすぎた人類を減らそうというプログラムが発動したようなものである。


とはいえ、本当に絶滅してはたまらない。


政治は当然のように少子化対策に乗り出した。


いや、今までも乗り出してきたのは確かなのだが、結局、政治のすること。


相手の揚げ足を取り、自分の成果を喧伝するのみの姿勢は旧態変わらぬものだったので、成果なんかあるはずがない。


というわけで政治が無策のまま、人口はさらに減った。


その一方で、平均寿命は延びる、延びる。


何しろ、人類の医学の進歩は目覚しいものがあり、ES細胞やIPS細胞、はてはSTAP細胞に至るまで総動員して、代替の人工臓器が弱った臓器と次々に入れ替えられるので、人類は老いを凌駕してさらに元気なお年寄りが増えた。


皮膚も人工的に入れ替えられるので見た目の年寄りは分からないくらいになっていた。


そのせいで年寄りと呼べる世代が分かり難くなってきたのは確かである。


そうなると、子供を欲しがると言う欲求もなくなるものらしい。

これが実際に人口減少の大きな理由の一つとなった。


また 性という概念も稀薄になっていたことも大きな理由という見る者もいる。


同性愛など、今まで控えめにしていた人たちもここに来ておおっぴらに公言してきた。


そして、それが認められる世の中になってきた。


そうなると、やはり男女の営みあっての子宝である。


当然、出生率はまた減る。


しかし、子供が欲しいと願う人がいるのも確かである。


ただ、妊娠の苦痛は嫌だという人はやはり多い。


そんなところで注目を浴びたのが代理母や人工母体を使った出産、はたまたクローン技術の人工培養まで出てきて、人は己の身体で妊娠の痛みを避けるようになっていた。


ただ、この場合、倫理的な制約でかなり揉めた。


宗教的に許せないと憤る団体も多く、ここでまた破綻した。


生まれた子供たちの人権を叫ぶ団体もあり、それがまた波紋を生んで政府はクローンや人工授精を禁止した。


で、結局、出生率はさらに減った。

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