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MemoWorKs ~Memorial gatherings~  作者: 緋吹 楓
1/2

~Arrange~

いつまでも憶えていられるように。


私達はメモを残していた。


どんなことがあろうとも。


いかなる邪魔が入ろうとも。


私の、いや、私達の愛は。


永遠に終わらない。






※MemoWorKs ~Arrange~は以前投稿したMemoWorKsの加筆修正版になります。


いつまでも憶えていられるように。


私達はメモを残していた。


どんなことがあろうとも。


いかなる邪魔が入ろうとも。


私の、いや、私達の愛は。


永遠に終わらない。




もうそろそろ寒い風が頬を撫でる頃。天気は曇り。

私は同じクラスの男子に校舎裏で告白を受けていた。

勿論答えはノーだ。

大して仲が良い訳でも無いのに、こいつは勝算があるとでも思っていたのか。

その事を素直に伝えると、案の定キレてくる。

これだから男は嫌いなのだ。

この後私は、今まで告白されてきた時のように適当にあしらって帰るつもりでいた。

しかし、ここで予想外の事が起きる。

男子が私を押し倒したのだ。

成程、人通りが少ない所に誘い出したのはこれが狙いだったのか。

荒い息が顔に当たる。

・・・本当に気持ち悪い。

私の腕を折れそうな程の力で抑え込もうとしてくる。

痛い。

私が腕を動かそうとすると、さらに力を込めて来る。

か弱い私の抵抗は体格の良い男子の前では全く意味をなさなかった。

ああ、私はこんな奴に・・・

穢されてしまうのか。

怖い。

ここで悲鳴を上げることが出来れば助けが来てくれるかもしれない。

しかし、私は声を上げる冷静さを失っていた。

もう、頭は動いてはいない。

諦めるしかないのか、そう絶望していた。

しかし、幸運にも近くで女の子の声が聞こえた。

「先生!早く来てください!」

その高い声は校舎裏に響き渡った。

気付かれたことに焦ってか、男子生徒は慌てて逃げていった。


少し経ってから女子生徒が駆け寄ってくる。

「大丈夫でした?怪我はないですか?」

「ええ、大丈夫よ。」

服の乱れを直して立ち上がる。

ブラウスの一番上のボタンが取れている。

最悪だ。

「本当に大丈夫ですか?」

深呼吸をして、あくまで冷静に会話する。

「心配ないわ。それより、何故こんな所に?」

ここは放課後の校舎裏。

普通の生徒なら薄暗いこの場所には近づかないだろう。

「舞さんを見かけたのでどうしたのかなって思いまして。」

その言葉を聞いて私はひとつの疑問を抱く。

「何故私の名前を知っているのかしら?私はあなたを知らないのだけれど。」

そう、彼女とは初対面のはずだ。なのに相手は私の名前を知っている。

「それに、呼んでくれた先生はいつ来るのかしら?」

「そ、それは・・・」

なんだか怪しい気がする。

「それは私が茜ちゃんに呼ばれたからよ、舞。」

白衣を着た女性が出てきて、私の名を呼ぶ。

「由実姉・・・」

その女性は私の姉である本條由実。保健室の先生だ。

「舞、あなた、茜ちゃんに助けてもらわなかったらどうなってたか分かってるわよね?」

そう言われると、何も言えない。

「さっきは疑って悪かったわね。」

「いえ、私こそ紛らわしくて。」

互いに握手を交わす。

「あなた達、同学年なのよ?敬語はやめなさいよ。」

「でも、由実先生の妹さんなので。」

「まあ、好きにしなさい。」

由実姉と茜さんの関係については、よく分からない。

少なくとも先生と生徒というより、先輩と後輩という感じがする。

私にとってはあまり気にする事ではないが。


事後処理は由実姉が全てやってくれるそうなので、私達は一緒に帰ることにした。

どうやら由実姉は今晩茜さんを家に泊めるつもりだったらしい。

理由を聞いても、由実姉はあまり話そうとはしなかった。


曇りだした空からは、今にも雨が降りそうだ。

私達は雨が降る前に家に向かうことにした。



本條家には私と由実姉の二人で住んでいる。

私は両親の顔を知らない。

なので、他にこの家を使う家族はいない。

だからといって、客人用の部屋があるわけでもない。

とりあえず、茜さんに聞いておく。

「由実姉から何か聞いてない?」

「え、舞さんの部屋に泊めてもらえるって聞きました。」

由実姉は最初からそのつもりだったのか。

少し悔しいが、茜さんを私の部屋に通す。

「舞さんのお部屋ってやっぱり可愛らしいですね・・・」

大きなリボンをあしらったシンプルなブラウス、淡いブルーのワンピース、大人なしめなロングスカート・・・

若干引かれているようにも感じるが、仕方が無いのかもしれない。

私は普段はこんなモノを着ないから。

「この服着てみてもいいですか?」

部屋中に飾ってある服を手にとって聞いてくる。

「いいけれど、まず落ち着いて鞄を置きなさい。」

すると彼女は急いで鞄を置き、謝ってくる。

「別に構わないけれど・・・飲み物取ってくるわ。」

「あ、ありがとうございます。」



キッチンの電気ポットでお湯を沸かしながら今日の晩ご飯のメニューを考える。

いつもは私と由実姉の2人分だが、今日は茜さんの分も作らなくてはいけない。

とはいえ、外は既に雨が降り始めている。

先ほどの事件を思い出すと、暗い外に出かける気力も出ない。

冷蔵庫の在庫で作ってしまおうか。

電気ポットがカチッと音を立てると同時に茜さんが出てくる。

「あら、どうかした?」

どうやらまだ着替えていないようだ。

「あの、トイレってどこです?」

私の部屋より玄関寄りの扉を指差す。

「ああ、トイレならそこの扉よ。先に紅茶運んでおくわね。」

砂糖やらレモンやらをお盆に乗せ、部屋に戻る。



テーブルにお盆に置いてから、窓から外を見る。

ものすごい勢いの大雨だ。由実姉はいつ帰ってくるだろうか。

カーテンを閉めてベッドに座る。

部屋を見渡すと、いつもは無い茜さんの鞄が目にはいる。

チャックが開きっぱなしだ。ファッション誌のカラフルな表紙が見えている。

ティーンズ・ワークス。主にティーンズファッションを扱う雑誌だ。

この雑誌は私にも馴染み深い。

何故なら、私はこの雑誌のモデルをやっているからだ。

あまり知っている人は周りにはいないが。

だから、遠くから眺めただけで気づいてしまった。

雑誌の表紙を飾っているのは私であった。

人の鞄を漁ることに罪悪感を憶えつつも、おそるおそる雑誌を取る。

もう3ヶ月前の号だ。今見ると少し恥ずかしい。

しかし、何故最新号では無いのだろう。

メモもびっしりだ。読む気すら起きない。

その時、部屋の扉が開く音がした。

慌てて振り向くと、固まっている茜さんがいた。

「あ、えっと、その、ごめんなさい。」

怒っているだろうか。しかし、返ってきた返答は思いもよらなかった。

「えっと、私、実は舞さんの大ファンなんです!」

「え・・・?」

ファン?

「私、舞さんのようになりたいんです。」

「私のように・・・」

「私、舞さんのことが好きなんです。」

まさかここまで慕ってくれる人がいるとは。

「ありがとう。やりがいがあるわ。」

今までここまで嬉しいことがあっただろうか。

ここまで応援してくれる人がいる、それだけでモデルを続けている甲斐があった。


そこからは鞄から本を取り出し、二人で書いてあるメモをひとつづつ読んでいた。

「実は由実先生に教えてもらったんです。先生も毎月買ってるらしくって。」

由実姉も未だに買い続けてるのね。

みんな・・・ちゃんと私のことを見てくれているんだな。

結局、由実姉から連絡が来るまで私達は部屋に篭っていた。


雨と風が部屋の小さな窓をガンガンと叩いている。

時計の針が8時を指す頃、私のスマホが着信音を鳴らした。

それは、由実姉からの帰れなくなったという連絡だった。

「晩ご飯どうしようかしら・・・」

実のところ、私は料理があまり得意な方ではない。

いつもなら冷凍食材ですますのだが・・・

今日は茜さんもいる。

「どうかしました?」

「由実姉が帰れなくなったそうなの。それで晩ご飯どうしようかなって。」

その言葉を聞いた茜さんは袖をまくる。

「それなら任せてください!舞さんの為に頑張らせていただきます!」

茜さんが創り上げたオムライスは、この世のものとは思えないほど・・・


美味しかった。

母の味を知らない私にとっては、懐かしい味というものがいまいち分からなかった。

でも、このオムライスからは心の味を感じる。

「ど、どうですか・・・?」

緊張した顔をこちらへ向けてくる。

「ええ、最高の料理だわ。ありがとう。」

「ほ、ほんとですか!?ありがとうございます!」

茜さんは心から喜んでいる様子だった。


皿洗いを終え、就寝の用意をしていた私に、風呂上がりの茜さんが声を掛けてくる。

「お風呂、お先でした~。」

「じゃあ私も入ってくるわね。」

ヘアピンを外しながら私は部屋を出る。

茜さんの顔が赤かった気もするが、多分風呂上がりだからだろう。


手短にお風呂から戻った時には、茜さんは既に小さな寝息を立てていた。

ベッドの上で小さく丸まっている。

「ふふ、可愛い・・・」

茜さんの髪に触れる。

指の間をサラサラと抜けていった。

「まいさん・・・」

寝言だろうか。寝返りを打ちながら小さく呟いている。

「すき・・・」

本当に私のことを好いてくれているのだろう。

そんな姿を見ているとだんだん私まで眠たくなってくる。

時間ももう遅い。

私は耳元でおやすみと囁き、部屋のライトを消した。






私は茜と出逢った日に恋愛というものを知った。


朝は一緒に登校して、昼は保健室で由実姉も一緒に昼ごはんを食べて、放課後は寄り道をして・・・


そう、毎日が夢のようだった。


いつまでも終わらなければ良かったのに。


ずっとこのままでいたかった。


絶対に離したくはなかった。




昼休みの時間に私は由実姉に会いに行くことにした。

いつもは茜さんと一緒に行くのだが、今日は学校に来ていないらしい。

いつもの朝の待ち合わせの場所に来なかったのだ。

茜さんのクラスメイトに聞いても、知らない分からない。

この場合は由実姉を頼るしかないだろう。

という事で、私は保健室の扉をノックする。

「失礼します。由実姉、茜さん休みなの?」

なるべく声量を抑えつつも、力強く聞く。

「ちょっと落ち着きなさいな。話があるから場所を移しましょう。」

私は逸る気持ちを抑え、由実姉と校舎裏へと向かった。



校舎裏に人がいないのを確認した後、私は切り出す。

「で、話って何なの?」

「こうなった時に、茜さんから伝えてほしいって言われたの。」

「何をよ。」

珍しくイラつく。大事なことなら早く教えてほしい。

「あなたには辛いことだと思うけれど、それでも聞く?」

「そこまで渋る話って何のことよ?」

由実姉が下を向く。

「茜さんは・・・」

由実姉が拳を強く握る。

「茜さんはもう長くはないわ。」

その瞬間、私は由実姉に飛び掛る。

「どういうことよ!今まであんなに元気だったじゃない!嘘よ!嘘に決まってるわ!茜さんのことだからきっと驚かそうとしてるだけよ!」

「私だってそう信じたいわよ!嘘だって信じたいわよ!でもね・・・」

由実姉が一枚の紙、いや、メモを見せてくる。

「あなたと出逢ったときにはもう分かっていたことなの・・・」

「そんな・・・」

頭が真っ白になる。

全身から力が抜けて崩れ落ちる。

「茜さんはね、あなたにこの事を隠していて欲しいって、あなたに対して嘘を付くのをとても怖がっていたわ。」

「そんな、まだ、これからなのに・・・」

「朝から目が覚めてないって・・・」

悔しい。やっと、やっと、好きな人が出来たのに。

「由実姉、今、茜さんはどこにいるの?」

いつのまにか流れていた涙を拭く。

「総合病院の828号室よ。」

「私、行ってくる。早退するわ。」

壁に手をついて立ち上がる。

「後のことは任せなさい。」

本当に頼もしい姉だ。

ちゃんと前を見る。力強く。

「絶対に終わらせたりしないわ。」

私は走り出す。

茜さんに会うために。



茜さんに会うためならどうなってもいい。

膝が擦り剥こうが、顔に泥が付こうがどうでもいい。

動きにくい制服でも、走りにくい革靴でも私は止まらない。


でも、こんな時に限って踏切は非情だ。

カンカンカンという音と共に道が閉ざされていく。

うずうずする気持ちを抑えて待つしかなかった。

スマホで時間を確認する。

まだ学校を出てから10分も経っていない。

スマホをポケットに直し、顔を上げる。

そして私は驚く。

踏切の反対側に茜さんが立っていたのだ。

「あ・・・茜さん!どうしてここに!」

病院にいるのではなかったの?

しかし、茜さんは答えない。可愛らしい笑顔を向けてくれるだけだ。

でも、その顔には何か哀しい物を感じる。

「体調が悪いのでしょう?由実姉から聞いたわ。」

電車の車輪の音がする。

「聞こえていないの!?茜さん!」

電車がもうすぐまで来ている。



その瞬間とき、茜さんの唇が動いたような気がした。


電車が前を通る。


茜さんが見えなくなる。


「茜さん!いえ!茜!私だって!」


もう届かないかもしれない。


それでも、私は伝える。


「愛してる!」


私から茜の為に生まれてきた言葉。


この言葉は忘れることはない。



電車が通り過ぎる。

そこにはもう、茜は居なかった。

「茜・・・」


あの瞬間ときの茜の言葉は私にしか聞こえていないだそう。


だってあの言葉は。


茜から私の為に生まれてきた言葉だろうから。



私は走る。

たとえ茜と会えなくても。




結局、病院に着いた時には茜は何も喋ってはくれなかった。

けど、私にはちゃんと届いた。

いつも茜が持ち歩いていたメモ帳に想いが全て詰まっていたのだ。



「今日、やっと舞さんとお話ができた!」

「舞さんにティーンズ・ワークスを見つけられた・・・」

「↑でも、そのお陰で仲良くなれた!」

涙を拭う。


「舞さんに私の得意なオムライスを作ってあげた!」

「髪を下ろしてる舞さんかっこいいなぁ・・・」

「朝起きたら隣に舞さんが寝てた!びっくり!」

あの時を思い出す。


「今日のお昼ご飯は舞さんが作ってくれました!」

「由実先生も一緒でワクワクだな~」

沢山の思い出が綴られている。


「舞さんと一緒に登校!」

「今日初めて帰りに寄り道しちゃった!」

とても暖かい。


「もっと話していたいよ。」

「学校に行きたいよ・・・」

「舞さん、会いたいよ。」

字が震えている。


「まいさん、いまだけはまいってよばせて。」

「まい、もっとあそびたかったな。」

「もっと、もっと、いろんなことがしたかったな。」

もう字が崩れてしまっている。


「まいだいすき」


原型を留めていなくても、私には読める。


「あいしてる」


メモ帳の最後のページだ。


これが茜の想い。

私は懐からメモ帳を取り出す。

メモ帳に想いを綴れば茜に届く気がするから。


私は書き始める。


「茜、また一緒に・・・」

どうも緋吹 楓です。

読んでいただきありがとうございました。


MemoWorKsの方でも言っていた通り、加筆修正をしました。

個人的にお気に入りの作品なのでね。


MemoWorKsは短編集の予定です。

どこかでスパッと終わるかもしれませんし、いつまでもダラダラ続けるかもしれません。

次回もよろしくおねがいします。

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