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父とフク

じわじわブックマークが増えて嬉しいです。

読んでいただいてありがとうございます。

 父はB型男である。

 と、そんな風にくくると全国のB型さんから苦情が来ちゃうかもしれないが。

 まぁ、ともかくなんと言うか、時々子どもっぽいところがある自由人である。


 その説明に適したエピソードかどうかは自信がないが、昔、同時小学生だった妹と、板チョコでガチ喧嘩していた。

 妹が自分のお小遣いで買ったチョコを冷蔵庫に入れておいたところ、父が食べてしまったのだが。

 泣いて抗議した妹に対し、「そんなに大事なら名前でも書いておけ!」と逆ギレ。

 ... いや...そんなもん一言謝って、後で買ってやれよ、板チョコぐらい。子ども相手に大人げない。


 ちなみに、もちろんあたしと父との喧嘩エピソードも枚挙にいとまがないが、バイオレンスなのは省くとして、猫関係の話だとこんなのがある。


 タピオカは今より若いとき、よく粗相をした。

 わりとスムーズにトイレトレーニングを済ませたはずだったのに、ある一時期、廊下やあたしの部屋でやらかすとこが続いたのだ。

 猫のおしっこはなかなかに臭い。

 布団にやられたときは本気で泣きそうだった。

 風呂場で洗ってみたものの臭いは落ちず、布団は廃棄処分となった。

 どうやってやらかしたのか軽く謎な、棚にかけてあったトートバッグの中で、というバージョンもある。

 まぁ、棚の上からバッグの中に潜り込んで放尿したのだろうが、何故わざわざそこで?!という疑問は残るままだ。

 バッグの中身?

 入れっぱなしにしてしまっていたメモ帳やらポケットティッシュやらリップやら、もちろん全て廃棄だ。

 

 そんな非行に走っていたタピオカ、廊下で大きいのをやらかしたことがあり。


 仕事から帰宅したあたしに、父が開口一番、

「お前の猫が廊下にウ○コしてたぞ! 片付けろ!」

と、言った。


 ええ、確かにあたしの猫ですよ。

 そりゃそうなんですけど。

 仕事でそれなりに疲れていて、加えてタピオカの粗相の実害は主にあたしの私物だったので、その事にも疲れていて。


 ーーえ。片付けろって、見つけたのにそのままにしてきたの?と、思ったあたし。


「... 見つけた人が片付ければいいじゃん。」

 

 そう言ったところ、父はキレた。


「責任を取れないなら猫なんか飼うな!」


 言うが早いか、また間の悪いことにその場に顔を出したタピオカ引っ掴んで玄関からポイッ。


「えっ? ちょっ... なんてことを!」


 何が起きたのかわからないまま慣れない外界に怯えた鳴き声を出すタピオカを、あたしは慌てて抱き上げて玄関のドアを開ける。

 おうちだ!とあたしの腕から飛び出すタピオカを、ソッコー捕まえてまた外へ放る父。


 つーかタピ、お前もそんな簡単に捕まんな。


 また保護しに行くあたしの後ろで、騒ぎを聞き付けた母さんが父をなだめて収束。



 とーー。

 そんな父なのに、タピオカは父のことが嫌いではないらしい。

 さすがにこの事件のあとしばらくは父を見ると逃げていたタピオカだが、しばらくしたら休日とかマッサージチェアの上でくつろぐ父の膝にのって寝てたりしてた。何故か。




「あっ。またそんなものあげてっ。動物に人間の食べ物あげちゃいけないんだからね!」


 そう言ってあたしに咎められても気にした様子もなく、父はポテチを手のひらに載せた姿勢を崩さない。


 その手からポテチをパリパリとついばむのはフクだ。


「イモだぞ。ネギやチョコはあげてない。」


 何故かニヒルな笑みを浮かべて言う父。


「いや... 猫にあげちゃダメなものがフクに当てはまってるかどうかもわかんないし... 」

「こいつも猫だって言ってたのはお前だろ?」

「... 確かに言ったけどさ。命に関わるかもしれないんだからそんなあげ足とりじゃなくてさ... 」


 ていうか、爬虫類にあげちゃいけないものって何だろう?

 あたしは脱力してため息をつく。

 

 保護者あたしが心配してるというのに、フクはご機嫌でポテチを食べ続けている。

 親の心子知らず。


 タピオカが父を嫌いにならない理由がこれだ。

 家族で唯一、人間の食べ物を分けてくれる存在。

 

 一応、食べさせる前にネットで調べて、「絶対食べさせてはいけない」シリーズには気を付けているらしいが、塩分とかは全然考えてない。

 というか、本人なりに考えてると言い張るが、「たまにしかあげてないから大丈夫」ーー根拠がない。



 そんな父の専らのターゲットは、ここ最近フクだ。

 最初はあんなに胡散臭げにしていたくせに、わりとあっさり慣れた。さすが、あの母の連れ合いだ。

 フクもチョロい奴なので、早急に餌付けされてーー目の前の光景の出来上がりである。


 ソファーでくつろぐ父。

 その肩に乗るフク。


 どこの悪の組織の魔獣使いか、といった風体だが、一人と1匹が食べているのはコンソメ味のポテチ。

 パリパリパリ。

 時々フクがスリスリと父のもみ上げ辺りに頬擦り。

 ーーおーおー、仲良しなことで。


 考えてみれば。

 妻と娘二人に囲まれて黒一点の父。

 母親と姉3匹に囲まれて黒一点のフクを親近感を感じているーーの、かも、しれない。


「ーーとにかく、油も塩分も体に悪いんだから、もうそれ以上あげないでよね!」


 言って、あたしは着替えのために自室に向かった。

 




 部屋着に着替えてリビングに降りると。


 父はポテチを食べ終わったらしく、別のスナック菓子を手に持ちながらテレビを見ていた。

 紙のカップに入ったスティック状のお菓子のようだ。

 薄い緑色をしている。


 その、薄い緑色のスティックをーー


 父の膝の上に移ったフクが、器用に前足で掴み出しては一口。


 無音で(>◇<)と言う顔をしては、一口かじったそれをポイッ。


 しかし懲りずにまた1本掴み出しては一口。(>◇<)ピョ! ポイッ。


 かじり。(>◇<)ペョ! ポイッ。

 シャク。(>◇<)ミョ! ポイッ。

 パクッ。(>◇<)ホョ! ポイッ。

 あむっ。(>◇<)ウョ!ーー


「いい加減に諦めろぉ! んでアンタも気付けぇ!」


 しばらく眺めてしまったあと、我にかえって叫ぶあたしに、ハッとした様子のフクと父。


「あっ! こら、お前っ。これはワサビだからダメだって言っただろ!」

 ペチン!とフクの頭をはたく父。

 その足元には一口かじられたワサビ味スナックが5、6本散乱。


「... ... 」

「... ... 」


 ふよふよふよ、とフクは気まずげに飛んで逃げていった。



 

「お菓子食べるようになっちゃったのも、油断してたのも父さんだからね?」

 半眼で言うあたしに、さすがに父は言い返せずに不満げに床のお菓子を拾い始めるのだった。


「ーーちょっとは手伝え。」

「... 全くもう。」

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