猫たんぽ
そろそろ、夜は冷えるようになってきた。
とはいえ、寝るとき暖房をつけるほどではないかな、といった秋口の頃の風物詩がある。
暖かいうちはあたしのベッドの足元あたりで寝ていたタピオカが、彼女の勝手なタイミングで枕元に移動してくるのだ。
そして、耳元でニャアと鳴く。
あたしはその気配を感じると、そっと布団を手で持ち上げてやる。
するとタピオカは、ご苦労、といった体であたしの作った隙間から悠々と布団に潜り込んでいき、あたしの腹のあたりにおさまるのである。
この、彼女のタイミングというのが、あたしが充分に布団を温めた頃合いであり、またあたしがちょうどウトウトし始めた頃合いでもある。
が、そんな勝手なタイミングで来られても、嫌じゃない。
むしろウエルカム。
お腹のあたりで丸くなるタピオカは温かく、そしてふわふわ。実に上質な湯たんぽ替わりだ。
あたしたちはともに温もりをわけあい、ウィンウィンな関係ーーだった。
けれど、今年からどうなのかなぁ。
タッピィも4匹の子持ちだし。
子どもたちとくっつきあって寝てるから、もうあたしの布団には入ってくれないかもしれない。
あたしは温まってきた布団の中で独り口を尖らせた。
思えば人間の友達もそうだ。子どもが出来ると付き合いが格段に悪くなる。
いや、付き合いが悪いと言うのは語弊があるのだろう。それは理解しているつもりだがーー
付き合ってもらえなくなる方としては、ただただ寂しいわけで。
結婚しただけなら、まだ女子会もできるし年に1度くらいは旅行だって一緒に行っていた。
けれど子どもが出来るとそうはいかない。
遅くまで飲めない。泊まりの旅行もダメ。そもそも、誘うのも気が引ける。
そうやって、いつも集まっていたメンバーが次々減っていきーー
あ、マズイ、へこんできたぞ。
ごろんと寝返りをうつ。
とーー凄く近くで、鼻息を感じた。
ぴと。と、小さくて冷たいものがあたしの鼻に触れる。
にゃあん。
ーーたぴ!
いとおしくて抱き締めたくなる気持ちを抑え、あたしはそっと布団を持ち上げる。
するり。と、柔らかな毛並みが顔の近くを通って布団の中へ入っていく。芳ばしいような香りをわずかに残しながら。
まだ少しだけ冷たい毛皮が、あたしのお腹のあたりで落ち着いた。
そして。
あとに続く、3つの毛玉と1つの革。
ふわふわと鼻先をくすぐって布団に潜り込む子にゃんズ3匹は、言うまでもなく可愛い。
たぴの毛並みはなめらかだが、子にゃんズはまだほわほわしている。これも、捕まえて頬擦りしたいのをぐっとこらえる。
さて。
あたしのお腹のあたりで丸くなるタピ。
その、タピにくっついて寝ようとする子にゃんズ。
さらにそのあとに入っていこうとするフクーー
猫たちと違って無臭で、心持ちひんやりとした皮膚の尻尾であたしの唇に触れて行ったフクだが。
ごそごそ、と布団に入って、タピオカの周囲をうろうろして。
また、ごそごそ、と顔を出した。
ポジション取りに負けたらしい。
情けない表情であたしを見上げてくるのが、暗がりの中でぼんやりわかる。
あたしは小さく苦笑して、ふわふわの猫毛を堪能していた両手のうち、左手をそっとフクの額に移動した。
さらりとした感触。
少しのひんやりも、心地よい。
フクは気持ち良さそうに目を閉じて、あたしの首筋あたりに顔を埋めた。
フクのための左手で体をやさしく包んでやると、すぐにくぅくぅと可愛い寝息が聞こえてきた。
その寝息を聞きながら、あたしもいつしか、眠りに落ちていた。