囚人扱い
☆こちらは「なろう」小説『灰銀の狼あったかい!』の二次創作でございます。
☆作者様からは二次に関してご了承いただきました。
★おっかないのが苦手な方はパスしてくださりませ。
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(…グ…、ウ~ン…)
再び目が覚めると、和子は薄暗い石造りの牢の中に横たわっていた。
身体のあちこちから絶え間なく痛みが襲ってくる。
特にありえない方向にねじまがった左腕の痛みがひどい。手を動かそうとしても、なにか相当重い… 中世の手錠の様なもので後ろ手に拘束されていて、痛みを堪えて力を入れても、少しも持ち上がらない。
足首にも金属の輪がはめられていて、その先から鎖がのび、何kgかわからない鉄球の重りまでご丁寧に付いている。
とにかく、ここが日本じゃないことは明らかだった。
さっき猛禽や猛獣に囲まれた場所も、恐らくすでに日本ではなかったのだ。
なぜ多種多様な猛獣猛禽に囲まれていたのか分からないが、きっとここは日本と国交のない地域のどこか…
要するに和子は拉致られて、ISのような団体の日本人人質になってしまったのだ。
そうとしか考えられない。
和子がさっき吐いたものは、もうだいぶ渇いて衣類にこびりついていた。
絶えず生酸っぱい臭いが鼻を突く。
失神中に漏らしたらしい尿臭もする。
冷や汗や脂汗や尿やおりもので、下着の中はべちょべちょだ。
なぜ、いきなり、どうしてこうなった…?
絶対に日本の山奥にいたはずなのに…。
激痛と不可解さで、和子は目と口を開いたまま、目頭と目尻から涙を流し、長いこと無言で放心していた。
ふいにカツン、カツン、と靴音が聞こえ、見るからに兵士のような風体の男が柵越しに現れた。
顔立ちも装束も、アラブ風ではないが、西洋風とも言い切れない。
(IS…?じゃないの…?)
初めて見る異国人は、和子の牢の鍵をガチャン!と乱暴に開けると和子の襟を引っ掴んで無理やり立ち上がらせ、猿ぐつわを噛ませ、その上から鼻と口を汚ない布切れで覆って頭の後ろで縛り、目隠しをして力づくで牢屋から引きずり出した。
(痛っ!!痛いいたい痛い!!息できな…ぐるじぃ…臭いっ…痛っ!オエッ…オエッ…)
男は平然と和子の襟をわし掴んで歩かせようとしたが、足の重りに気づくとチッと舌打ちし、手早く鎖を解いて面倒くさそうに和子の背中を蹴りとばし、ヨタヨタする和子を急かす様に無理やり歩かせ続ける。
(このまま…どこかにつれて行かれて…、日本語で命乞いをする姿を撮影されるのだろうか…)
私の国は、庶民一人ぐらい見殺しにするのに。
私のためになど、ビタ一文出さない国なのに。
どうしてなのか全然分からないが、どうやら自分は終わったらしい。
男が無言で肩をつかんで方向転換させるたびに震え上がりながら、和子はどうにか足を前に出し続ける。
何度目かの方向転換のあと、改めてぐっっと肩をつかまれ立ち止まらされると、重々しくドアが開く音が聞こえた。
と同時にガッッ!と前方に蹴りとばされ、手錠と目隠しをされたままの和子はドテリと倒れ込む。
(痛っ!!)
猿ぐつわのせいでたれ続けた唾液が、ゲロで汚れた衣服をさらに濡らしている。
痛みと恐怖で涙も流れ続ける。
再度、足に重りが取り付けられ、代わりに目隠しが外された。
(────? まぶしい…)
和子は少しのあいだ目をすがめていたが、徐々に周囲が見えてきて更に震え上がった。
(剣!?ほ、本物っ………!)
和子を連れてきた男と同じ身なりの兵士達が和子をぐるりと囲み、その剣の切っ先を一斉に和子に向けている。
目の前には金の刺繍?みたいなものがある所謂レッドカーペットが、和子の足元からダーッとまっすぐに敷かれている。
茫然とその先を見やると、そこには階段状の玉座みたいな椅子に片足を組んで座り、射抜くような刺すような氷の眼差しで和子を見下ろしている、銀色の髪の若者がいた。
(恐い!!)
(あっでもイケメン、イケメンだ、はっきり言ってイケメンだ!…でも恐いよ…)
(ていうか何国人だよ…)
髪はボサボサ以下略(本編参照)、要するに本気と書いてマジモードのプーティン大統領に見下ろされている感覚に近いのかも知れない。
─────どうしてだろう
ただイケメンに見下ろされているだけなのに。
牢の男に睨まれた時、いや、獣鳥に囲まれたあの時よりも、はるかに恐ろしい。
茫然としていた体がガタガタと震え出し、足に力が入らない。歯の根も合わない。
ガチガチと震える音が、静まり返った広間にやけに響いて聞こえ、それが更に和子の恐怖を増幅させる。
そんな空間の中で、銀髪のイケメンが凍てついた貌のまま、和子に何か質問してきた。
「─────、───。」
(なぬ?)
明らかに、何のニュースでも聞いたことがない言語。
というか、今の言葉は本当に地球のどこかの言語なのか?
訛りか?訛りがキツいのか?
(訛りのイケメンか…)
くだらない考え事をしながらボンヤリしていたが、何かリアクションしないとその辺の剣で刺されそうな空気を感じ、和子はとっさに首を左右にブンブン振った。私は無実です、と。
(…あれ…?)
頭が、軽い。
というより、涼しい。
(あー…。そっか。髪…ないのか…。)
和子の髪は、見るも無惨にバリカンのようなもので刈られていた。
(これは…やっぱり詰んでるなぁ…。)
またボンヤリしている和子に苛立ったのか、イケメンは凍てついた貌のまま、指一本で何事か指図した。
兵士達は真剣に大声で短い返事をするや否や、和子の襟や腕をグッと掴んで立たせると、頭を押したり背中を蹴りとばしたりしながらイケメンの前に近づかせた。
(痛っ!痛いいたい痛い…!!)
兵士はイケメンの階段下まで和子を押し出すと、今度は頭を一気に床に押し付け、土下座のような格好にさせ、某カリオスト○公国の衛士のごとくザッと後ろに控え直る。
(痛い…。痛い、痛いよ…。)
もはやただ下を向き、されるがままでいた和子の耳に、フカ、フカ、と静かな足音が聞こえると、視界に高級そうな軍用ブーツのつま先が入ってきた
ビ─────────ッ
(・・・・・・!!)
ビリビリと和子の服が破かれ、ただのボロきれになっていく。
とうとう上半身裸にされた和子のからだを、氷の銀髪の手がまさぐる。
(…もう、たいがいにしてよ…。どうせ殺すんでしょ。まさぐっても、なんにも持ってねぇよ)
死を覚悟し、モノローグもぞんざいになってきた和子の右腕を見たとたん、イケメンの動きが停止した。
(……?なんだよ。ツベルクリンの跡が珍しいのかよ。どうでもいいけどよ…)
和子が右腕を見ると、ハッとしたらしいイケメンと目が合った。
キッとした目つきがまん丸になっていた。
急に慌てた様子で和子の顔を隠していた布切れを捨て、猿ぐつわを外し、おそるおそる和子の顔をのぞき込むと、氷の男はシンジラレナイと言わんばかりの驚愕の表情を見せた。
やがて小刻みに身体を震わせはじめ、滝のように涙を溢れさせ、ブルブルと和子の頬にその手を近づけながら、イケメンは静かにつぶやいた。
「────────────ワコ…?」
(続くかも)