ささやかな世界の一日
朝
朝露の 薔薇の茂みの下 こっそりと隠れて
棘が引っかき傷を作るのも 気にせずに
薔薇の香りに包まれて
目を閉じると
風のおと
呼んでる
海のおと
呼んでる
君の声
呼んでる
昼
通りの乾いた土を
撫でてゆく通り雨
ぼくも 水になる
雨の一粒一粒になって
世界に 降り注ぐ
ぼくの体の細胞の ひとつひとつが
一滴一滴となって 世界に溶け込み
そしてぼくは 海になる
夜
闇と孤独に包まれて
蠢きはじめる
夜だけの ぼくの いきものたち
ぼくは暖炉の炎を
飽くことなく いつまでも いつまでも 見つめている
むかし
だれか が いて
そのひとはいつも
仕事から帰るとぼくを抱きしめて 暖炉の前に座った
何も語らない彼の膝の上は
居心地がよくて 暖かくて
ぼくは そんな
記憶とも夢ともつかぬ
幻を 思い出す
眠るまえ ぼくは
手紙をかく
届かない手紙を
存在しない 誰かにあてて
なぜ書くのかも 知らぬまま
ぼくは ぼくの世界の出来事を
言葉にして 綴る
嵐 春の嵐
嵐の夜が すきだ
雨 風 もっと窓を叩け
さあ 古い世界なんて 壊してしまえ!
そうして
ぼくの創造の遊びは
終わる事なく
ぼくの想像の産物は
尽きる事なく
また あたらしいせかいを つくりだしてゆく