87話 使えるものは龍でも使え
「して叔父上、スリークは何と」
アルセイム様が、クロード様にお尋ねになる。ああ、既に山の民のことをお伝えしたのね。それでお返事が戻ってきたから、私たちにお話をしてくださった、と。
「それがな。義兄上も姉上も、できればこちらに頼みたいと言ってきた」
クロード様のお答えも、つまりはそういうことよね。長様からの情報をあちらにお伝えして、それで返ってきた答えということなのだから。
それにしても、スリーク伯爵とミリア様がこちらに頼みたいなんて、何かあったのかしらね。
「何でも最近雇った使用人がいるはずなんだが、それがどいつだか分からんという事になっているらしい」
「は?」
あったようね。
でも、使用人を雇うときにはきちんと書類を作るはずだけど。それでも分からないということ……でしょうね、多分きっと。
「それはつまり、どの使用人も前からいたように思う、となっているわけですかしら」
「ま、そういうこった。リストも作ってあるはずなんだが、そいつをチェックしても分からなかったんだと」
「うわー、何かますます魔女ちっくですー」
ナジャの意見には私も賛成だわ。トレイスも無言のままだけど、小さく頷いているし。アルセイム様も難しいお顔になられているわね。
ああ、また魔女か。殴れるのはいいけれど、殴るために引きずり出すのが面倒なのよねえ。
そんな私たちをひとしきり眺めてから、クロード様はお言葉を続けられた。
「家の中が変なことになっている、てのがこっちからの話で分かったようでな。状況が状況なんで使用人たちには言ってないそうなんだが、さすがにカルメアが怖がってるらしい」
「……これは、早めに叩き出したほうが良さそうですね」
アルセイム様がお答えになって、それから私に視線をくださる。そうね、『変なことになっている』のが理解できている間に山の民を叩き出すなり何なりして、スリークのお家を守って差し上げなくては。
何だかんだ言ってもスリークのお家はグランデリアのお身内だし、カルメア様は私のことを好いてくださっているものね。そうでなくともお知り合いのお家に変なことがあるなんて、放っておくわけにもいかないでしょう。
そうして、お家の中でごたごたがあるならあまり人数を割くことはできないわ。ならば、私が向かうのが一番でしょう。それに……。
「スリークのお家からお許しがあるなら、もちろん向かわせていただきますわ。公爵閣下、私というよりはナジャが必要ではありませんの?」
「はは、そこまでバレてっか。けどな、レイクーリアの力ももちろん必要だと思うぜ」
ふふ。クロード様は敏い方でいらっしゃるから、やはりナジャをお使いになると思っていましたわ。彼女の正体を存じているから、当然といえば当然なのですけれど。
「そう。レイクーリアが行くなら当然、侍女であるナジャもついて行くわけだ。そんでもってナジャ、お前さんなら普通の人間より変なやつのことは見破りやすいだろう?」
「はい、そこら辺はお任せください」
自身の力を見込まれたのが分かっているようで、ナジャもえへんと胸を張って頷く。確かに、エンドリュースの娘とは言え一応人である私が行って調べても、スリークのお家の皆様と同じようにわからなくなってしまう可能性はあるものね。
だから、龍神様であるナジャが行く。クロード様は、彼女の力とその後で私の力を期待してくださっている、ということだわ。
そこにアルセイム様も共においでくださるのであれば、私に敵はない。山の民であろうが魔女であろうが……何だか、同じようなことを幾度も考えているわね。まあ、当然のことなのだから仕方がないけれど。
「アルセイムは、姉上が気に入っておられるからな。レイクーリアが話を聞くより、よっぽど素直に話してくれるだろ。何かあってもトレイスがいるわけだし」
「レイクーリア様には及びませんが、アルセイム様はお守りします」
「……ミリア叔母上、どうも苦手なんですよね。ですが、頑張ります」
トレイス、もしかして私に負けたことを根に持っているのかしら。でも、私より強くなったらそれはそれで問題ないわよね? アルセイム様の守りが、それだけ強固になるということですもの。
それとアルセイム様。ミリア様が苦手なのは、何となくわかりますわ。というか、苦手でない方がこの世界に存在するのかしら? もしかしてスリーク伯爵、そうなのかしら?