86話 良くも悪くも知らせは一緒に
そうして、その後も存分にトレイスと訓練をして、十分に汗をかいたわ。ああ、楽しい。
「お疲れさま。よくぞ、あそこまでレイクーリアについていけたものだ」
「……面目ありません、アルセイム様」
いえ、ちょっと頑張りすぎてしまってトレイスに圧勝してしまいまして。でもアルセイム様のおっしゃる通り、私にここまでついてこられる身体能力はすごいと思いますの。昼食休憩の後、お茶の時間になるまでずっと戦っていましたものね。
「やはり、レイクーリア様はお強いです。動きもさすがですが、何しろメイスのお力が」
「トレイスも、人としては十分強いんだがな?」
「基準が違いますので、さすがに比較されると……」
アルセイム様に傷を癒やしていただいた後、服を整えながらトレイスがそんなことを言ってくれる。ええ、龍神様のメイスはさすがに詐欺かも知れないけれど、私が使える力ですものね。
それに、本当にトレイスも強いのよ? 比較対象がエンドリュースの娘でなければ、十分最強のレベルに達していると思うわ。
「じゃあ、私とやってみる?」
「もっと遠慮します」
「ちぇー」
ナジャ、あなたはやめときなさい。うっかり殺る気でも出されたら、こちらは困るのよ。第一、龍女王様の娘なんだからそうほいほい戦われても、ねえ。
そんなことを思っていたら、アルセイム様がお言葉を挟んでこられた。
「ナジャは、魔龍がもし出てきたらそいつと戦ってみればいいんじゃないのかな。同じ龍神様だろう?」
「あ、それありですねー」
「ありなの?」
「同族でも争うことはありますもん。人もそうですよね?」
「……確かにな」
む。言われてみれば、龍神様より人間のほうが戦ばかりしているわね。とは言え、大昔の龍神様のことはよく分からないのだけれど。
でも、龍神様が魔龍を封じたのであればその前にはまず戦が存在するでしょうし。結局、同族同士の戦はあるものなのね。
「アルセイム、レイクーリア」
「叔父上」
クロード様が、ブランドを連れておいでになった。お屋敷の敷地内とは言え、訓練場にまでおいでになるのは珍しいわね。ええまあ、正門からは近いですけれど。
「どうなさったんですの?」
「ああ。実はな、良い知らせとそれに付随する悪い知らせがある」
全員集まったところでお尋ねすると、そんなお答えが返ってきた。つまり、少なくとも情報が手に入った、ということね。
「山の長からの連絡でな。逃げたやつが見つかったらしい」
「捕まえたんですの?」
「いや、まだだ。というか、こちらに捕まえてほしいということで連絡がな」
「何故です?」
どうして、山の民は自分たちで捕まえようとしないのかしら。捕まえにくいところにいる、というのであれば……って、それがもしかして『付随する悪い知らせ』なのね。
「またよりにもよって、スリーク伯爵家に入り込んでるらしいんだよ」
「うわ」
「あら」
よりにもよるわね、本当に。
スリーク伯爵は印象が薄いのだけれど、ミリア様は性格がきつい方だし。
カルメア様は……あーえーと、うん。悪い方ではないのだけれど、ねえ。
「主様。カルメア様にお願いしたら、そいつ叩き出してくれるんじゃないですか?」
ってナジャ、そんなことを考えてくるんですか。というか、カルメア様は普通のご令嬢ですから。
「カルメア様は私じゃないんだから、無茶やらせては駄目でしょう」
「あう」
まったくもう、本当に私じゃないんだから。