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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
零 私と龍と龍の娘
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76話 殴って飛んで蹴飛ばした

『てえい!』

「わっ」


 龍神様にあって私にはないもの、尻尾。それを大きく振るって龍神様は、激しく水面を叩かれた。当然すごい水しぶきが起きて、私はさすがに弾き飛ばされてしまった。ああもう、びしょ濡れどころじゃないわね。

 なんてことを考えている暇もなく、龍神様が上から襲い掛かってくる。逃げるのが無理なのは仕方ないけれど、口にくわえられてしまったわ。


「きゃあ!」


 そのまま龍神様は、空へと上っていかれる。水面が離れ、『湖』が遠くなり、ふっと視線が触れると祠の周囲の森が下に見える。別の方を見ると、岸辺でこちらを呆然と見上げているお兄様や兵士たちも見えたわ。

 これが、龍神様がいつもご覧になっている光景なのね。ひとまず現実は置いておいて、私はその光景に見とれた。でも、見過ごせないものもあったけれど。


『人間なら、これで!』

「おっと」


 龍神様、お話になると同時に私を放そうとなさった。ので私は、とっさに手を伸ばして失礼ながらお髭を掴ませていただく。

 冗談では無いわ。ここから落ちたら、いくらエンドリュースの娘でも生命はないことぐらい分かっているもの。


『ちょっとちょっとちょっと何してんのよおおお!』


 あ、さすがに龍神様でもお髭を掴まれて引っ張られたら痛いみたいですわね。って、頭を振り回されたら危ないんですけれど! こう、私がもっとしっかりお髭を握るとは思っていらっしゃらないんでしょうね、龍神様!


『こら、わたしの髭掴むなー! 痛い痛い痛いはなせえええええ!』

「放したら落ちるじゃありませんか!」

『だったら落ちてよ!』

「お断りです!」


 まったく、お断りに決まっているじゃないの。ひとまずメイスを口にくわえて、髭を両手で手繰り寄せて私は、どうにかこうにか龍神様の頭、たてがみとでも言うべき毛にしがみつくことができた。

 メイスを握り直して、龍神様の頭の上で私は、彼女に怒鳴りつけた。


「といいますか、ここまで空を飛べるなら上から見て分かりませんの!?」

『わたしの湖じゃんかー。いい眺め!』

「いい眺め、ではありませんわ!」


 ああもう、これが龍女王様の御息女なんて本当だろうかと考えたくなる。けれど、それどころではないのよね。


「ごらんなさいな、自分たちが耕した田畑を台無しにされて嘆く農民が見えませんの!」


 私が見過ごせなかったもの。

 それは、水浸しになった畑の作物を見て嘆いている農民たち。

 家畜たちを引き連れて彼らにに食べさせてやる草を遠く、遠くまで探しに行く農民たち。

 あの疲れきった顔が見えていないのかしら、このお馬鹿龍神様は。


『わたしの領地で、わたしが何をしたっていいじゃないのー! 何で人間に気を使わなくちゃいけないのよ!』


 あ、やっぱりお馬鹿だった。一瞬だけ失礼と思った気持ちはどこかに飛んでいってしまったわ、ええ。


「龍女王様が、そんな風におっしゃいましたか!」

『言ってないけど!』

「だったら、龍女王様の為さり方をお側で見ていらしたはずでしょう!」

『う、うるさいうるさあい!』

「うるさいのは、あなたですわ!」

『ぎゃん!』


 ああもう、ほんとにうるさかったので鼻面に一撃くれて差し上げたわ。片手でしか振り回せないからそれほど力は入らなかったけれど、さすがに鼻をひっぱたかれては悲鳴も上がるでしょう。

 というか、龍女王様。御息女がこんなお考えで大丈夫なのですか? お休みになっておられるということは、何かお忙しくてお疲れなのでしょうけれど。


「いい加減になさいまし! 例え龍神様だとて、これ以上の御無体は容赦しませんわよ!」

『御無体じゃないもん! わたしがやりたいだけだもん!』

「それを御無体というのですよ、龍神様!」


 本当に、この龍神様は……ええと、民の言葉で言うならばクソガキ、ですわね。しかも身体ばかり大きくて、どうしようもない。

 ですからもう、こうするしかありませんわ。


「きっちり、覚えてくださいまし!」

『ぎゃ、ぎゃんっ、いたい、いたいいいっ!』


 先ほど効果のあった鼻面に二度、三度とメイスを叩き込む。そのうち、龍神様はヘロヘロとした感じで下に降りていかれる。ええとこれは……あ、もしかして降りているのではなく、落ちているのではないかしら?


『あ、あたまが、ふらふらするよおう』


 やっぱりですか。ああもう、森の木々よりは低くなってきたからそろそろ私でも耐えられる、とは思うけれど。

 そうして、龍神様のお身体が水面にたどり着く寸前に私は、その身体というか頭を思い切り蹴って飛び離れた。でも、すぐに追いかけてきた水しぶきに跳ね飛ばされて、再び湖の中にどぼん。


「ぶはあ!」


 まあ、それほどの水深ではなかったからすぐ起き上がれたけれど。慌てて振り返ると、龍神様は水面でぐたっと伸びておられた。いえ、長くなるという意味ではなくて。

 龍神様ご自身が落っこちたときの衝撃で立った荒波にざぶん、ざぶんと揺られる彼女を拝見しながら私は、一応たしなめるように言葉をかけてみた。


「お、おわかり、いただけましたか? りゅ、龍神、さま……」

『きゅうううううう』


 ……あ、だめだこりゃ。

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