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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
零 私と龍と龍の娘

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73話 ここは湖ではなく

「これはまた、本当に大きな湖にしか見えませんわね」

「だろう」


 お兄様のお身体が回復されるのを待って2日後、私はお兄様と少数の護衛と共に村へと向かった。そうしてたどり着いたところで、まあうっかりそんなことを申し上げてしまう。

 村の低い場所にある田畑、それから木々の足元がすっかり水に浸っている。家々は高いところにあるみたいで、そこまではまだ水は来ていないようなのだけれど……それはそれで、湖の畔に家が立ち並んでいるって感じなのよね。


「若様!」


 しばらくその湖を眺めていたところで、後ろから声をかけられた。いえ、私ではなくてお兄様が。

 振り返ると、農民たちでしょうね。たくさんの民が、いそいそと集まってきている。お兄様は数歩進み出られて、皆の顔を見渡しつつ尋ねられた。


「みんな。あれから異変は起きていないかい?」

「水の量がじわじわと増えております。龍神様らしい影を見た者も、また数人出ました」

「やっぱり、そうなのですか」

「へい……あれ」


 やはり、この水は龍神様のせいらしい。つい私が口を挟むと、民の数名がこちらに視線をよこした。それから、何故かお兄様と私を見比べて、はっとする。


「も、もしかして、エンドリュースのお嬢様でございますか?」

「あ、はい」


 え、どこを見てわかったのかしら。もしかして私とお兄様、似ているのかしらね。まあ、お兄様はおっとり型で、普通の家であれば女の子として生まれたほうがぴったりらしいのだけれど……そこはそれ、エンドリュースだから。

 それはともかく、きちんとご挨拶をしなくてはね。


「私はウォルターお兄様の妹、レイクーリアと申しますわ」

「おお、よかった! みんな、エンドリュースのお嬢様も来てくださったぞ!」


 と、どうして盛り上がるのかしらと思ったのだけれどそうか、エンドリュース領の民だからお兄様より私のほうが物理的に力があることは理解できているのね。


「どうぞ、わしらの畑を助けてくだされ。今年はもう致し方ないかもしれませんが、来年以降もこのままでは村が潰れてしまいます」

「畑ばかりじゃありません。このままだと、家も水に浸かってしまいます」

「我らは、龍神様に無礼を致したことはございません。じゃから、これは何かの間違いでございます」


 農民たちは、口々に願いの言葉を畳み掛けてくる。それは、生きていくために大事なことがなくなりかけているという、とても大きな問題の解決を望む声で。

 これは、やっぱり私としても、エンドリュース流の解決策を取るべきね。うん、私にしかできないやり方だわ。


「……分かりました」


 ひとまず、お兄様が口を開かれた。男爵家の跡継ぎだって皆も分かってくれているから、そこで民たちはしんと静まり返る。


「まずは僕が、龍神様とお話をしましょう。それで聞き入れてもらえなければ」

「私が、龍神様と力でお話を致しますわ。全てはこのレイクーリアの責任、ですが水で土地を荒らしたは龍神様の責任。龍神様にはそう心得て頂きます」


 あ。

 お兄様の言葉にはうんうんと頷いていた農民たち、さすがに私の言葉には引いたわね。ええ、顔色がさっと青ざめたからすぐ分かる。

 普通、龍神様と力で対話なんて誰も考えないものね。そんなことを考えるのはこの私、エンドリュースのレイクーリアくらいのものでしょう。

 でも、そうでもしないと話が通じないのであれば、私は私の責任においてそうしてみせる。伊達にこの力があるんじゃないということを龍神様にも知っていただいて、お話を理解してもらえれば。


 アルセイム様もきっと褒めてくださるわ。レイクーリア、すごいなって。


「よ、よろしゅうお願い致します」

「大丈夫だよ、皆。きっと、ちゃんとしてみせるから」


 一瞬意識がアルセイム様の元に飛んでいっている間に、お兄様が何やらお話をなさっていたらしい。農民たちも、恐る恐るながら私に頭を下げてくれる。


「大丈夫ですわ。この地に住まう民のためにも、龍神様にはお話をご理解いただきますから」


 だから私は、ふんと胸を張って宣言してみせた。

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