67話 そして、一段落
「本当に大変だったのねえ」
ひとまず問題が片付いたところで、私はグランデリアのお屋敷に戻った。皆揃っての夕食の席で、ジェシカ様に苦笑を浮かべられてしまったのは参ったわね。
「でも、そういうことなら詳しく話してくれても良かったのに」
「義姉上にはあまりご心配をおかけしたくなかったので。お身体もまだまだでしょう」
「これでもだいぶ良くはなったのよ? レイクーリアのおかげで」
クロード様のおっしゃる通り、ジェシカ様はまだまだお身体が本調子とは言えない。魔女をぶっ飛ばしてだいぶ経つけれど、その前が長かったからね。
まあそんなことはともかくとして。ジェシカ様はお好きだという魚の酒蒸しを口に運んでから、言葉を続けられた。
「まあ、あと2、3回もお披露目をすればいいでしょうね。準備の方も進めて良いんじゃないの?」
「準備って」
あら、準備って何かありましたっけ。そう思って尋ねたのだけれど、控えてくれているナジャも含めて全員に呆れられてしまったわ。
「何を言っているの、レイクーリア。あなたとアルセイムの結婚式よ」
「あ」
はい、すっかり忘れておりました。
でも、そうなのよね。貴族が妻を娶る時はきちんとお式をして、周囲や王家の方にお知らせしなくてはならないから。もちろん例外もあるのでしょうけれど、基本はそうなのよね。
「そもそもお披露目はその宣伝と、あなたのことを皆様に見ていただくためでもあるんだから」
「は、はい」
ジェシカ様、本当にすみませんでした。そうなのよね、公爵家に輿入れする私のことを他のお家の方にお披露目するためのパーティだったんですよね、あれ。
クロード様が「まあまあ」とたしなめるような口調で、入ってきてくださったのでちょっとだけホッとした。アルセイム様はというと、こちらに視線を下さって素敵な笑顔。ああ、安心できるわ。
「ボンドミル侯爵のようなことには、もうならないと思うけどな。一応こちらも、それなりにやることはやったし」
「何をやったんですか、叔父上」
「ん、事情をく・わ・し・く書いた手紙を参加者各位にきっちり送っただけだが」
「あらまあ」
ジェシカ様が目を見張られたのも無理はない、わね。クロード様ったら、子供がいたずらして楽しんでるようなお顔をなさってるんだもの。
というか詳しくって、それはもう詳しくお書きになったのでしょうね。もしかすると、ラグナロール様巻き込んだ顛末まで、きっちりと。
「そりゃ、甥の嫁の実家に事実無根のいちゃもん付けられたんだ。事実を広く公開しても何の問題もないだろうが」
「まあ、それもそうね。エンドリュースとは今後も仲良くしていきたいもの、旦那様のためにも」
クロード様とジェシカ様、お互いに笑いあってのお言葉は何だか力強く聞こえるわ。というかこのお2方は血はつながっていないはずなのに、とてもとてもご姉弟らしく見えるわね。
「俺も、エンドリュース卿やウォルター様とは仲良くしたいものな。レイクーリアのお父上と兄上なんだから」
「お父様とお兄様も、きっとそう思っていらっしゃいますわ」
アルセイム様のお言葉に、私はそう答えて頷いた。私だって、自分の父親や兄とグランデリアの皆様には仲良いままでいていただきたいもの。万が一何かがあった時にどちらかを選べなんて、とても答えられないから。
「ん、なんだい? レイクーリア」
「いえ」
あらいやだ、アルセイム様のお顔をじっと見つめていたのがバレてしまったのかしら。でも、大切な方のお顔を見つめるのに理由はいらないわよね。
だって私、アルセイム様の奥方になれるんですもの。親同士の約束はともかくとして、本当に愛しているお方のね。
ああもう龍女王様、お父様、先代公爵閣下、ありがとうございます。皆のおかげでレイクーリアは、アルセイム様のお隣に立つことができますわ。