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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
二 お披露目とお客人と面倒
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60話 空から私が降ってきた

 足の下を、森や街や畑が通り過ぎていく。ごうごうと風に吹かれながら私たちは、文字通りナジャに掴まれた状態で空を飛んでいる。


「す、すごい、ねえ」

「すごいですわねえ」

「……高い」


 あ、さすがにアルセイム様、お顔が引きつっておられるわね。まあ、私もこんな高いところまで上がったことはないもの。……ナジャを最初にどつき倒した時に、森の木の梢より少し高いところまで上がったことはあるけれどね。

 トレイスは平然としてるのか、顔が凍りついているのかは分からないわね。まあ、到着するまでの辛抱よ……とか考えている間に、たどり着いたようね。


『あれがエンドリュースのお屋敷ですよう。主様あ、あれボンドミルの兵士ですねえ』

「そ、そうね」


 まだ幼いせいか緑と水色が混じったような色の鱗を持つ龍、ナジャ。下から見たら、まるで巨大な蛇に見えなくもない姿でしょうけど、結構美人というか美龍なのよ。

 その彼女の、声ではない声に下を見る。エンドリュースの屋敷の正門、その外にあらあら、兵士さんたちが軽めとは言えしっかり武装しておいでになっているわね。門から中には入れていないのは、お父様やお兄様が開けていないからでしょう。よかった、間に合ったわ。


『どこに下ろしましょうか』

「エンドリュースの家なのだから、正門前で良いわ」

『わっかりましたー』


 お屋敷には、グランデリア同様龍神様のお力による結界が展開している。エンドリュースの場合、門さえ開けなければ敵意のある相手は中には入れないわ。なので、その門の前に降り立つのが一番楽しそうなのよね、と1人で考えてしまってから、慌ててアルセイム様に尋ねてみた。


「勝手に決めてしまいましたが、構いませんわよね? アルセイム様」

「君についていくよ。トレイスもいいね?」

「御意」

「ありがとうございます」


 ……そういえば、風がうるさいのにどうして会話はできるのかしら。ま、良いことにしましょう。どうせ、私には考えても分からないことだわ。

 さて、ナジャは私たちをぶら下げたまま、ゆっくりと高さを下げていった。そうして。


『よいしょっとお!』


 ごう、と正門と兵士さんたちの間につむじ風を起こす。その上で、私とアルセイム様を抱えたままするりと人の姿に戻りながら着地した。

 振り返ると、門の向こう側にお父様とお兄様がいらっしゃった。使用人たちも、その横に並んでいる。あのメイド長は、お母様の一番弟子でもあるお父様とお兄様の護衛役、ね。


「お父様、お兄様!」

「レイクーリア?」

「ここは我々にお任せください、ユースタス卿」

「アルセイム殿、すまない」


 空から降ってきた娘とその婚約者に、あっさり頷くお父様。こういうときの度胸だけは、私たちよりもずっとお持ちなのかもしれないわ。

 一方お兄様の方は、どうやら違う方向を見ていらしたようで。


「ナジャ、君かあ。あちらの姿は初めて見たよ、僕」

「えへへ。私も、久しぶりでしたから」


 あらら、何だかのほほんとしていらっしゃるわね。まあ、これもお父様の息子だからかもしれないわ。

 ともかく、まずは私の目の前にいるひょろんとされた貴族のご当主様をお相手しないとね。私はメイスを握り直して、満面の笑顔でご挨拶してみせた。


「あら。ご無沙汰しておりますわね、ボンドミル卿」

「な、ななななな……ど、どこから出てきた!」

「空からですわ。ねえ、アルセイム様?」

「ああ、空からだな」


 私と同じく、殿方でも惚れ込みそうなほどの笑顔でお答えくださるアルセイム様。トレイスはその背後で、いつでも飛び出せるように睨みをきかせている。

 さて、ボンドミル侯爵のお隣には対照的な体格の方がおられる。要するに背が低くてふっくらしていらっしゃって、その、頭が少しお寂しいおじ様が。


「そちらの方はどなたですの?」

「わ、わしは王位継承権第72位、ラグナロール・オーイン! 王国辺境の財政を監視している監査官だ!」

「72番め様でいらっしゃいますか。端っこですのね」


 あらいけない、つい素直な感想が口に出てしまったわ。それにお年もお年でしょうし、ご存命の間に王位が回ってくることはまずないでしょうに。

 さすがにそこまでは言葉にできないので、代わりにひとまずの確認をしておきましょう。


「その監査官様が、何をしにいらしたのですか?」

「仕事だ! エンドリュース男爵家が私腹を肥やしているという通報があったので、わし自らこうやって調べにまいったのだ、早く門を開けろ!」

「まあ、お仕事ご苦労様でございます、と申し上げたいところなのですが……お父様」


 お仕事なら、おかしいところがある。そのくらいは私にだって分かるわ。でも、一応お父様に伺ってみるのが一番ね。


「ああ。仕事なのであればボンドミル侯爵家の私兵ではなく、監査官殿の配下を連れてくるのが妥当なところなのだがね」

「黙れ黙れ! ボンドミル卿の好意を無駄にした輩の実家など、不正を働いておるに決まっておるわ!」

「あ、駄目ですねえ、このおじ様。どうやらボンドミル侯爵と、美味しいところ山分けしてるみたいですよー」


 ……ナジャが、例によって例のごとく空気を読まずに発言してしまったわ。ああ、でもそういうことであればこれは分かるわね。

 任務と見せかけて無理矢理に証拠を引きずり出して、それを上に伝えない代わりに金を引き出して山分け、ってところかしら。


「勝手に決めるな!」

「な、何でそのことを……」


 ボンドミル侯爵、呟いた言葉は聞こえておりますわよ。ああ嬉しい、これは殴り倒しても良い敵ということですわよね、龍女王様?

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