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男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
二 お披露目とお客人と面倒
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58話 むかーし昔のものがたり

「まあ、私が生まれる前のことだから聞いた話になるんですけどー」


 いつものようにのほほんとした口調で、ナジャは話し始めた。


「母様がまだまだ幼かった頃、らしいんですが。ほとんど人もいなかったこの土地というかこの近くに、今の王家のご先祖様が来たんですよ」

「ほう。そりゃ、かなり大昔の話だな」


 クロード様が、楽しそうに目を細められる。確かに、龍女王様が幼かった頃なんてそれはそれは、昔の話だろう。しかも、今の王家のご先祖様だなんて。


「この辺りは、そんなに人がいなかったのか」

「その頃は母様が幼かった、ってくらいですから力もなくて、それはそれはひもじい土地だったみたいです」

「なるほど」


 アルセイム様のご質問に対するナジャの答えに、本当に昔のお話なのねと感心する。

 だってグランデリアの領地も、エンドリュースの領地も、今は龍神様たちのご加護のおかげでとても穏やかに民が生活できているもの。もちろん、国王陛下が治めておられる都だってそうよ。

 もちろん、大昔からそうだったはずはないのだけど。でも、そんな昔の話を聞く機会なんてないんですものね。


「それで母様、考えた末にそのご先祖様と契約したんだそうですよ。お祀りしてくれたら母様にも力が増えるから、その力で土地とお水を豊かにして守りますって」


 龍神様をお祀りするって、そういう意味があったのね。だって、私たちにとってそれはもう、当たり前の習慣になってしまっていることだから。


「そのかわり、土地が豊かになると人、増えますよね? その人たちを、そのご先祖様がきっちり治めなさいって約束させたんだそうです」

「なるほど。それで、そのご先祖様のご子孫が王として国を治められるようになったのね」

「そういうことですね」


 そうか、それで王家が王家となったのか。龍女王様との遠い昔のお約束を守るために。そうしてこの国は龍神様たちのご加護を受けて栄え、今に続いている。

 でもそうすると、『龍の血』はどうなるのかしら、と思ったところでナジャが「それでですねえ」と言葉を続けてくれた。


「お互いの約束の一環として母様の子供、だから私のものすごーく上の兄様や姉様が人に混じって生きるようになったんですって。それがきっかけで、人々には『龍の血』が交じるようになったそうですー」

「まあ、お前さんみたいに人の姿をとれるんなら、混じるのもできないことじゃないか」

「アナンダ様も、人のお姿で来られましたからね」


 ああ、文字通り『龍の血』が混じっているのは本当なのね。それで、人々がいろんな力を発揮することがある、ということも納得できるわ。


「んで、この国の初めとなった土地を治めるようになった領主様のお家は……まあ、そういうことです」

「あー、そういうことか」

「なるほどなあ」


 え、そこで何故皆様揃って私を見るのかしら。……もしかして、エンドリュースの領地に龍女王様がいらっしゃることと関係があるのかしら?


「そりゃ関係あるだろう」

「龍女王様のご加護と影響が強いから、エンドリュースは女性が強い。そういうことですよね、叔父上」

「そうそう」


 本当ですかそれは。あ、ナジャもうんうん頷いているし。


「男性もそう、腕力とかが強いってわけじゃないんだろうが。それでも、強い女性を引きつける魅力ってもんがあるんだろうな」

「だから、メルティア様がエンドリュース家に入られた、ということですね」


 ああもう、クロード様もアルセイム様も。つまり龍女王様の影響でこの私がいると、そういうことになるのでしょうね。

 否定はしませんというかできませんし、龍女王様のおかげで私がこうやってアルセイム様の婚約者となれたのですからもう全面的に万々歳といいますか。

 ああ、もし機会があって里帰りすることがあったなら、龍女王様に感謝の祈りを捧げてこなくてはなりませんわね。


「……まあ、人間にしてみたらとんでもなく大昔、の話ですよね。伝わってなくてもしょうがないかー」

「ははは、龍神様がたには失礼をしたな。もしかしたら、王家の内側には伝わっているのかも知れんがなあ」


 お話が終わってナジャは、ちょっとまいったなと言う感じで苦笑を浮かべる。まあ、建国の神話とかいう形で残っていてもおかしくないのにね。

 でもまあ、確かにクロード様のおっしゃる通り、王家の方々には何がしかのお話が伝わっているのかもしれませんわね。そんなことを伺う機会なんて、多分来ないでしょうけれど。


「ま、人間があんまり悪させずに仲良くしてくださればそれでいいです、て感じのスタンスみたいですね。母様は」


 ナジャの言うとおりなのだろう。昔は昔、今は今。人間が悪さをしなければ、龍神様もお怒りになることはない。そういうこと、なのでしょうね。

 ま、一種の例外が目の前にいるのですけれど。


「だったら、わけも分からずに暴れないでほしいわ?」

「はいそれはごめんなさいです私が悪かったですー!」


 ねえ、ナジャ。あなたをしばき倒した後、龍女王様とってもお怒りになられたものねえ。

 クロード様とアルセイム様の「やれやれ」というため息混じりの言葉、私の気持ちでもありますのよ。

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