表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男爵令嬢レイクーリアがんばる  作者: 山吹弓美
二 お披露目とお客人と面倒
56/118

56話 まるでお父様のような方ね

「事情はともかく、長いこと家の外にいたからな」


 ため息混じりにそうおっしゃって、クロード様は私とアルセイム様を見比べてこられる。……それを言えば、私もアルセイム様も貴族の家の中でぬくぬくと守られて生きてきた存在だわ。きっと、クロード様のほうがお強くていらっしゃる。

 でも、よそのお家から見ればそういうことではない、らしい。


「他所んちから見りゃ、何か後ろ暗いことでもあったんじゃねえかって思われてもおかしかねえよ。単に子供作れねえだけ、なんだけどな」

「しかし」

「跡継ぎできないってのはな、結構貴族にとっちゃ死活問題。そうでなくても職人とか農民とか、家を継ぐやつがいないと困る家ってのは山ほどある」


 アルセイム様にとっては、クロード様はもうお1人のお父上のような存在だろう。けれど、外から見るとそういう風に言われるのか、と今更ながらに考えさせられるわね。


「でも、養子をお取りになるということもできますわよね」

「まあな。けど結局、兄上にはアルセイムっていう立派な跡継ぎも生まれたし。だから、俺が外に出ていたままでも良かったんだよ」


 クロード様がアルセイム様を見つめる目は、私のお父様のように優しい。まあ、このようなお顔もできますのねと少しだけ感心してしまった。ええ、もちろんアルセイム様が私を見てくださる目には負けますけれど。


「けど、兄上が死んだ時ってまだこいつ、成人前だろ? 最低でも後見役が必要になってな。姉上はスリークに嫁いでるし、他の親戚となるとなあ……」

「母上の兄上……つまり母方の叔父上が申し出てくれたんだけど、そこの家は当時家計が火の車でね。さすがに」


 わあ。

 ジェシカ様のお兄様って、確か侯爵家でしたっけ。ああ、ボンドミルじゃなくて別の。

 って、侯爵家の家計が赤字どころじゃないって、どんな領地経営をなさっていたのかしら。というか、今も大丈夫なのかしらね?


「まあそういうわけで、俺が戻ったわけさ。アルセイムが成人してしっかり家の主やれるようになるまで、グランデリア守るためにな」


 さすがに私の顔色が変わったみたいで、クロード様が苦笑されながら言葉を続けられた。ああでも、確かにそういう方よりはクロード様が公爵位を継がれたほうがグランデリアは安全ですわね。内側からしてみれば。

 がりがりと無造作に髪を掻かれるのは、せっかく綺麗なのに傷みそうで良くないと思う。クロード様の癖、なのかもしれないけれど。


「とは言え、外から見りゃ放蕩息子が公爵家乗っ取りに帰ってきた、なんて思われてもしょうがないわな。事実、俺が継いですぐはブランドとか、使用人たちにもそう思われてたんだぜ」

「まあ……」

「当時は、失礼をいたしました」


 苦笑が残ったままのクロード様に、ブランドが落ち着いたまま深く頭を下げる。失礼とは言っても……先代公爵閣下が亡くなられて、ジェシカ様がお怪我で寝たきりに近い状態になられて、グランデリアのお家がとてもとても大変な時期でしたものね。


「いや、当然だろうが。まあ、なんのかんの言っても王家から許し得てきたからな、後はきっちり仕事やるしかなかったんだよ。いずれにしろ、アルセイムが成人するまでの辛抱だったわけだし」


 もしかして、ほんの数年間だけ公爵のお仕事をなさるためにクロード様は、戻ってこられたのか。何てこと。


「俺にしてみりゃ、そういう家の中の問題を収めるのが先だったんだ。それで、すまないけれどレイクーリアには待っていてもらうことになった。悪かったな、2年待たせて」

「え」

「……ごめん。こういう問題だと、はっきり言うわけには行かなくて。それに」


 あの、クロード様、アルセイム様。私に頭を下げることなんて、まったくないのに。

 だってだって、お家の危機なんですから当然のことじゃありませんか。婚約はお家が何とかなってからでもどうにかなりますわ。いえ、私ヘコんでましたけど何とか待てましたし。アルセイム様を。


「その間に、君に良い相手ができるのなら俺は諦めもついたから」


 できるわけないじゃありませんかー、とクロード様がおられなければ間違いなく叫んでおりました。はい。

 曲がりなりにも男爵家の娘、外面はかなりよくできているつもりなの。だから私は、言葉を選んで答えることにする。


「構いませんわ。正直、私もヘコんでいたのですけれど……結局私はこうやってグランデリアのお家にお世話になっておりますし、今の公爵閣下もとても良い方だ、と実感しておりますもの。それに」


 アルセイム様と同じように一度言葉を切って、まっすぐに見つめ直す。ああ、やはり麗しいお顔が寂しく曇っていらっしゃるのは嫌だわ。私は、あなたに笑ってほしいのだから。


「こう言っては何ですが、アルセイム様でなければ私は輿入れに頷いたりはしませんでしたよ。今でもそうですわ」

「……ありがとう」


 あ、ほら。

 もう、白い頬を赤く染められてアルセイム様ったら、なんて素敵なのかしら。この方をお守りできるのは私しかいないわ、ええ絶対そうよ。

 何だかクロード様やブランド、トレイスやナジャの視線が痛い気がするけれどそんなのは気にしないわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ