49話 結局は力押しな私
「レイクーリア! カルメア!」
あ。
思わず、顔がほころぶのが自分でも分かったわ。私の名を呼んでくださった方のお名前を、ついつい弾むように口にしながら歩み寄る。
「アルセイム様」
「アルセイム様っ」
カルメア様も同じようにおいでになるのは、お身内だから当然のことよね。アルセイム様はお優しい方だから、私たち2人を両手を広げて迎えてくださった。
「客人の相手が忙しくて、側にいられなくて済まなかった。ボンドミル卿が、失礼をしたらしいな」
「あら、メイスに触って弾かれただけですわ。公爵閣下にもお守り頂きましたから、私は大丈夫です」
「わたくしは大したことも言われてませんしね」
ええ。あれで失礼というならば、言葉にしては言えないけれどミリア様なんてど失礼にも程があるというか。さすがにカルメア様の前で、そんなことを口に出せるわけがないわよ。
まあ、そんなこちらの気持ちはさておいて。アルセイム様が、何だか酷くへこんでおられる。どうしたのかしら、とお顔を伺うと、「すまない」ともう一度謝られてしまったわ。
「本当なら、こういう時こそ俺が守らなくちゃいけないのにな。ごめん」
「いえ。あのままでしたら、アルセイム様にもきっと失礼な言葉が掛けられていたはずですわ」
「そうですわね。どうもあの方は、それが失礼だと分かっていらしたのかどうか分かりませんけれど」
わあ、カルメア様結構きついことおっしゃるのね。このあたりはさすが、ミリア様のお嬢様って感じ。その言葉が向けられる相手がアルセイム様ではない、のもさすが、かしら?
と、とりあえず私のすべきことはひとつね。大切なアルセイム様に、元気になっていただくこと。
「それに、この先お守りいただけるのでしょう?」
「もちろん。俺でなければ君を守れない、なんて事態は必ず守ってみせるよ」
しゃきん、とあっさり立ち直ってくださったわ。私の言葉で元気になっていただけるなんて、とても嬉しくてたまらない。
「……私も、あんな幸せな夫婦になりたいですわ」
「まだ結婚なさってませんよ、お二方」
「でも、ご婚約はされておられますし」
「まあ、そうなんですけどね」
ナジャ、さっきから黙っていると思ったら、何故かカルメア様とこそこそお話なんて。まあ、仲が良いのはいいことだと思うけれど。
「……カルメア、ナジャ。何ジロジロ見てるんだ」
「え、お二方とっても仲がよろしいわねって思っただけですわ」
「同じく、ですー」
呆れ顔のアルセイム様に、2人してニコっと笑って答える。……仲がよろしいわって、私とアルセイム様のことかしら。いやだわもう、当たり前のことじゃないの。
「あ、カルメア様」
「え」
不意にナジャが、カルメア様の名前を呼んだ。彼女の視線の先に目をやると、クロード様と……ああ、スリーク伯爵ね。本当に来ておられたのね、なんて言ったら怒られそうだけど。
「カルメア、ここにおったのか」
「お父様」
「叔父上も」
ああ、そうか。カルメア様をお迎えに来たのね、お父上なのだから。
それと、クロード様は言葉責めは終えられたのかしら。まだまだお元気そうだから、もしかしたらこの後第2戦目とかあるのかもしれないけれど。
「スリーク卿、今宵はお恥ずかしいところを見せてしまって済まなかった」
「いえ。おかげさまで、ボンドミル卿の面白いところを見られて楽しかったです。はい」
スリーク伯爵もですか。よっぽどなんですのね、ボンドミル侯爵。一応、クロード様もつついてみますか。
「……皆様、そんな感じでおっしゃいますのね。ドンデリオ子爵様から、少々黒いお話を伺ったんですが」
「さすがに俺は、そんな金は受け取ってないぞ」
「叔父上のことは、信頼しておりますから」
「おう、そりゃありがたいな」
ああ、良かったわ。アルセイム様の叔父様がその、あまり裏のある話に乗っかっておられても私、困りますもの。そういう方なら基本的にメイスでお仕置きなのですけれど、クロード様は今のところ、アルセイム様の保護者でもあられますし。
……もちろん、そんなこと言っていられない場合になったら遠慮はしませんけれど、ね。